リチウムイオン電池の開発を長く手がけたエンジニアが、商用車両に特化したEVメーカーとして2019年に設立した株式会社 EV モーターズ・ジャパン(北九州市)。
同社の体感型EV複合施設「ゼロエミッション e-PARK」は、再生可能エネルギー発電のもとで車両の生産を行うとともに、EV体験を公開することで技術の発信と普及を促す画期的なモデルプロジェクトとなっている。
どのようなきっかけで事業を始め、いかなる未来像を描いているのか。創業者の代表取締役社長・佐藤裕之氏に詳しく話を聞いた。
東日本大震災の福島復興がEV事業化のきっかけ
ーー起業の経緯と事業内容を教えてください。
佐藤裕之:
弊社を設立する10年ほど前、私は福島でリチウムイオン電池関連の開発・製造をする会社を立ち上げていました。しかし2011年に起こった東日本大震災で会社も被災し、当時は原発被害もあり現場は相当悲惨なものでした。
そのような経験もあり、「なにかをやらなければ」という強い使命感に駆られ、これまでの充放電技術を活かしてBRT(バス高速輸送システム)のEVバスを開発して福島の復興に貢献しようと事業化に着手しました。それがきっかけとなりEV先進国の中国で500台規模のEVバス実証検証に参画。2019年に立ち上げたのが弊社です。
現在では日本のカーボンニュートラルに貢献するために商用EVの開発と製造を手がけています。日本製のEVバス・トラックをリリースするのが現在の大きなテーマであり、メイン事業となっています。
ーー北九州市を本拠地とした理由はなぜでしょうか?
佐藤裕之:
鉄鋼関係で北九州市八幡の企業様にお世話になっていたご縁と、EVが最も先行している中国やアジア諸国との距離が近いのが1つの理由です。もちろん北九州は工業都市ですから、エンジニアやいろんな技術を持った職人さんが豊富だということもあります。
また、九州など地方特有の系統設備が弱い面を克服するためでもあります。北九州の事業所内で再エネ発電を行い、その中で消費することでいわばマイクログリッド(※)を形成しています。
つまり「弱い系統でもカーボンニュートラルが実現できる」という地産地消のモデルケースにするためにも、この地を選んだというわけです。
(※)マイクログリッド:大規模発電所の電力供給に頼らず、コミュニティ内でエネルギー源と消費施設を持つ、小規模なエネルギーネットワークのこと。
「ゼロエミッション e-PARK」はマネタイズできる日本型モデル
ーー「ゼロエミッション e-PARK」をつくった目的をお聞かせください。
佐藤裕之:
EVについては「日本は遅れている」というマイナスイメージがあるかと思いますが、そういう方にEVを一緒に学んで、そして体感してもらおうと始めたプロジェクトの一つです。
パークでは電力を自動車に供給するシステムや、仕掛けを見たり、実際にEVに乗ってテストコースを運転することもできます。
また、この施設は再生エネルギー発電所でもあります。日本モデルはどのように建設し、どれだけお金がかかるのか、ということを含め「こうすれば経済合理性があり、インフラも成り立つ」という実績を発信する場にしたいと考えています。
ーー日本型モデルが長けている部分はどのあたりでしょうか。
佐藤裕之:
私たちは福島復興からスタートしているため、自然災害の多い東南アジアをはじめ諸外国に対して「防災機能を備えたモデル」を明確にアピールすることができます。
また車両製造メーカーでありながら、エネルギーマネジメントを考える企業でもあります。そういう意味で、車両だけをつくる海外メーカーとは違います。
なおかつEV普及はカーボンニュートラルのためだけでなく、「経済合理性が成り立ち、利益が生み出せるもの」ととらえています。実際にEVバスで対ディーゼル比40〜50%のコスト削減を実現しているように、ビジネスとして成立させてこそ弊社の提唱する日本モデルの意義があると考えています。
ーー改めて貴社の強みを教えてください。
佐藤裕之:
路線バスなどの製造で得たノウハウをベースにして、手本にした中国に負けないスピードで車両をラインナップしていくことは、経験則から可能だと思っています。事実、最近では物流車両のフルラインナップを目指して着実に台数を増やしています。
また私たちが「自動車メーカーでなければならない」と感じる背後にあるのは、やはり福島復興です。自動車メーカーであるからこそ、巨大地震に備え、起こったときには蓄電システムにもなる巨大バッテリーを電力供給に使ったり、移動電源車として利用したりという防災機能を兼ね備えることができます。そうした部分も強みといえます。
化石燃料からのシフトチェンジは緊急の課題
ーー今後の展望やメッセージを聞かせてください。
佐藤裕之:
これからは路線バスと物流車だけでなく、小型車両のマイクロバスで乗り合いバス、港湾内のトレーラーを運ぶトラクターヘッドなども展開していく方針です。同時に、バス以外の乗り物にも広く日本モデルを構築していきたいと考えています。
私たちが現事業に注力する背景には、燃料資源の枯渇があります。石油がなくなるといわれて久しく、ずいぶんもっているように感じますが、それは採掘技術が向上したおかげです。延ばしてきた石油資源のリミットもいずれ訪れることを考えれば、10年後には新しいエネルギーに本格的にシフトする必要があります。
そこへきて化石燃料への依存度が高い日本という国は、災害や有事に使える代替エネルギーをほとんど持っていません。なおさら新しいエネルギーを生み出すべき宿命にあります。
その1つが電動化だと私たちは思っています。100年に1回のエネルギー変革といわれるこの時代に、カーボンニュートラル貢献度の高い電動化に舵を切るべきです。
そして災害の多い日本だからこそ実績をつくり、リーダーシップをとって世界に発信していかないといけない。そうした仕掛けを講じていく時間的猶予は、もうほとんど残ってないと考えています。
編集後記
佐藤社長の語り口は終始穏やかなトーンだったが、事業への熱い思いが伝わってくる。異常気象や各地の洪水被害などが深刻化しているにもかかわらず、地球温暖化対策の決め手となる大きな進展がないと危惧する声が聞かれる昨今。脱炭素を進めるEVモーターズ・ジャパンの取り組みは、理想像ではなく収益が高い事業としても、大きな一歩になることが期待される。
佐藤裕之/1956年大分県生まれ、鳥取大学電気工学科卒業。30年以上充放電エンジニアとして開発に従事。そこで培った知識や経験を活かしたバッテリー・インバーター・モーターの制御システムを開発し、2019年に商用EVに特化した株式会社 EV モーターズ・ジャパンを設立、取締役社長に就任。