少子高齢化が進む日本では、学習塾同士の生徒の獲得競争が激化している。株式会社わは、「個別指導学院Hero’s(ヒーローズ)」をはじめとする様々な学習塾や、幼児向けの教育教室を運営する企業だ。
「日本の教育を変える」という理念に込めた思いや、運営する学習塾の特徴、労働環境の整備に向けた取り組みなど、代表取締役の松田考平氏に話をうかがった。
1コマ分の授業料を抑え、学習量を増やし学力アップにつなげる
ーーまずは貴社の事業内容を教えてください。
松田考平:
主に学習塾と幼児教育を行う「アデック知力育成教室」の運営を行っています。従業員数はフランチャイズや子会社も含め、グループ全体でおよそ300名です。
そのうち、創業時から運営しているのが「個別指導学院ヒーローズ」です。他の個別指導塾との大きな違いは、1コマ3,000〜5,000円が相場のところ、1コマ1,000円に設定している点です。
通常の個別指導塾の場合、月謝を考慮すると週に2回くらいの通塾が限度になります。そのため、一教科を教わるのは週に1回のみとなります。そこで、1コマあたりの価格を抑えることにより通塾回数を増やし、学習量を確保できるようにしています。
また、講師が一方的に教えるのではなく、まずは自分たちで問題を解いてもらう指導方法を行っています。自分ができなかったところを重点的に学習することで、効率を高められるのが利点です。
1人の生徒が問題を解いている間、講師が他の生徒に対応できることもメリットです。この仕組みにより1人の講師が一度に5人の生徒を担当することができ、低価格な授業の提供が可能となるのです。
起業家を目指すきっかけとなった一冊の本との出会い
ーー経営者を志したのはいつ頃からですか。
松田考平:
もともとプロ野球選手になりたいと思っていたのですが、大学2年生の頃に自分の実力では難しいと悟りました。その後、高橋歩さんの著書『夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ。』を読み、自分でビジネスをしたいと思うようになりました。
起業のきっかけとなった「勉強が苦手な子にも学ぶ楽しさを知ってほしい」という思い
ーー起業までの経緯を教えてください。
松田考平:
大学卒業後、企業に就職して半年くらい経ってから、自分で会社を経営したいという思いが強くなっていきました。そんな中、当時働いていた会社が4〜5人規模で浜松に営業所を立ち上げると聞き、ここならベンチャーに近い環境で働けると思い、異動を希望しました。ただ、最初のうちは楽しさを感じたものの、次第に仕事内容にはあまり差がないと思うようになりました。
そんなとき、現在株式会社ヒーローズホールディングスの代表を務めている鈴木から「塾を立ち上げようと思っている」と聞き、塾経営に興味を持ちます。塾はつまらないと感じていた経験から、「勉強が苦手な子でも、楽しく学べる塾があったらいいな」と思ったのです。
それならば一緒に塾を経営しようと話が進み、起業を決めました。社名は経営する上で人とのつながりを大切にしたいという思いを込め、「人の輪」からとって株式会社「わ」と名付けました。
ーー生徒さんとの印象的なエピソードについて聞かせてください。
松田考平:
私が15年ほど前に教えていた、母子家庭で友達も少なかった中学3年生の男の子のことです。当時、話し相手になろうと休憩時間に散歩に誘い、将来の話などをしていました。その彼が大人になってから「自分の会社を立ち上げて頑張っています」と報告してくれたのですよ。
彼のように自分たちのことを覚えていてくれる生徒たちから、近況の連絡をもらうことが教育の仕事に携わっていて最も喜びを感じる瞬間ですね。
柔軟な発想で従業員が働きやすい労働環境を整備
ーー組織づくりにおいて工夫している点はありますか。
松田考平:
ビジネスマナー教育など社内研修に力を入れています。幹部研修ではスリランカに行き、海外の教育事情を学ぶ機会を設けています。
また、ITツールをいち早く導入し、コロナ禍になる前からZoomを使ってオンラインで朝礼を行い、Chatworkも活用していました。そのおかげで緊急事態宣言が出た次の日からリモート授業に切り替えられ、スムーズに対応できました。
さらに、女性が働きやすい環境づくりも行っています。実際に70〜80人の社員のうち、子育てをしながら働いている女性が4人いますね。産休・育休制度を設け、復帰から半年は事務業務をしてもらい、在宅勤務を取り入れるなどして、労働環境を整備しています。
復帰後の働き方は本人の希望に応じて柔軟に調整し、すぐに現場に戻ってもらう場合もあります。
ーー松田社長が仕事をする上で大切にしている考え方を教えてください。
松田考平:
「仕事は趣味」という価値観を大切にしています。育児や介護も含めると、人が1日に仕事に割く時間は7〜8割を占めます。1日の大半を占める仕事を通し、日々の小さな進歩や楽しみを感じることは重要だと思いますね。
子どもと指導者にとってより良い学習環境を提供したい
ーー今後の展望をお聞かせください。
松田考平:
今後少子化が加速し、全体の生徒数は減っていくと予想されます。ただ、塾業界は経営者の高齢化が進んでおり、30代・40代の経営者はまだ少数派です。つまり競合が減っていくため、チャンスはあると思っています。
今後は積極的にM&Aを行い、さらなる規模の拡大を目指しています。「日本の教育を変える」という理念のもと、子どもたちが楽しく学ぶことをサポートし、働く人にとっても魅力的な職場を増やしていきたいと思います。
ーー最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
松田考平:
弊社は社員の平均年齢が低く、中には入社10年でマネージャーに就任した人もいるなど、若手が活躍できる職場です。なお、第2成長期としてM&Aや新規出店を進めているため、子会社の経営者になる、あるいは新事業を立ち上げるチャンスもあります。
さらに社員同士の仲が良く楽しく働ける環境で、奨学金返済支援制度も設けています。塾講師は子どもたちの人生に影響を与え、ご両親やおじいさん、おばあさんからも感謝されるやりがいのある仕事です。ぜひ私たちと一緒に日本の教育を変えていきましょう。
編集後記
自分自身が学生のときに塾がつまらないと感じていたことから、勉強が楽しくなる塾をつくろうと起業した松田社長。従業員の働きやすさを意識した組織づくりにも取り組むことで、持続的な学びの場が構築されていると感じた。子どもたちの可能性を広げ、指導者が教育に注力できる場を提供する株式会社わは、教育業界に新たな風を吹き込むことだろう。
松田 考平/1984年、兵庫県生まれ。中京大学卒業後、エン・ジャパン株式会社に入社。2009年、25歳のときに個別指導学院ヒーローズを創業し、同年に株式会社わを設立。