2023年、わずか29歳のCEO、渡辺創太氏によってシンガポールに拠点を置くブロックチェーン開発企業、Startaleが設立された。彼はStartale設立前から、自らパブリックブロックチェーンAstar Networkの開発・運営を行い、業界内で注目を集めていた。設立から1年を迎えた同社について、渡辺氏の理念や将来像、そしてこれまでの歩みを詳しくうかがった。
誰にもできない量を積み重ね、20代で世界へ
ーーこれまでの歩みについて教えてください。
渡辺創太:
小学校からサッカーを続け、文武両道を掲げる高校から東大を目指したものの失敗し、慶應義塾大学の経済学部に進学しました。大学受験での挫折を乗り越える中で、歴史が好きだったこともあり、明治維新前後の偉人について調べました。そこで、幕末には地方から日本のことを考えた人がいることを知り、それは、現代でいえば「日本から世界を考えることだ」と強く感じたのです。そこで、休暇のたびに海外を訪れ、世界に影響を与えるにはテクノロジーが不可欠だと気づくようになりました。
当時最先端のテクノロジーは、今もそうですがAIとブロックチェーン(※1)の2つがありました。僕が取り組みたいのは後者だったため、シリコンバレーのブロックチェーン企業で働いて学び、2019年に大学3年生で起業したのがAstar Network(アスター・ネットワーク)でした。その後、派生としてシンガポールに本拠を置くStartale Labs(スターテイル・ラボ)と株式会社Startale Japanを2023年に設立しました。
(※1)ブロックチェーン:取引データを「ブロック」という単位にまとめ、それを時系列で連結(チェーン)して保存する分散型のデータベース技術です。
ーー20代という若さで起業し、ここまで成長を遂げた秘訣は何でしょうか?
渡辺創太:
特別なことはありません。「誰にもできることを、誰にもできないくらいする」ことです。僕はシリコンバレーの企業で働いた際、何百件も企業にメールを送り、英語を勉強するために365日のうち約200日ミートアップに出たりして内定を得たという経験があり、他の人がやりたくないことを誰もできないくらい行えば、良い結果になるということを学びました。僕は決して天才肌ではなく、「こなしている量が多いだけ」であり、志は高く持ちながら、地に足をつけて仕事をすることが大切だと思っています。
日本の未来のため、日本企業でWeb3.0の基盤づくりを
ーー現在の事業内容と、注力しているテーマについて教えてください。
渡辺創太:
インターネットにより情報は民主化され瞬時に届きますが、情報のコピーを送るので、たとえばお金や証券などコピーできたら困るものを送ることはできません。ビットコインやNFTは、ブロックチェーン技術を使い、この問題を解決し、価値のインターネットと呼ばれたりします。このWeb3.0と呼ばれる領域で、僕たちはそのプラットフォームづくりをしています。この技術が進めば、価値を流動的にやりとりできる、新しい自由マーケットが生まれます。
Yahoo Inc.の創業者が自分たちの仕事を「未来のニュートンの前にリンゴを落とすこと」と言いましたが、僕たちの仕事はそのリンゴが落ちる木を育む大地をつくることなのです。現在は特に、他社との関係づくりに力を入れていて、2024年2月に、Sumsung NEXTと、シンガポール3大銀行の1つであるUOB(ユナイテッド・オーバーシーズ銀行)からの資金調達を行い、また、ソニーグループとのジョイントベンチャー(※2)でプロダクト開発を行っています。
(※2)ジョイントベンチャー:複数企業が出資して新たな会社組織で事業を行うこと。合弁企業。
ーー会社の理念や目標について、どのように考えていますか?
渡辺創太:
日本人がつくり、世界で利用されているWeb2.0(インターネット世代)のサービスは少なく、またGAFAほどの影響力も持たず、新しい技術に日本人が乗り遅れたこと、これがいわゆる「失われた30年」の大きな失敗の1つです。戦後の人たちの努力で今の日本があり、僕たちは恩恵を受けていますが、この恩恵は長続きしないと思います。
今後は新しい技術に適切な投資をし、世界をリードしていける日本人や日本企業をつくらなければ、子孫に誇れる明るい日本にはできません。次の世代に凋落した日本を渡さないことを起業家として意識し、現状を変えていく。弊社がその先駆者になりたいと考えています。
ーー社員が世界中にいるということですが、どのような体制で運営されていますか?
渡辺創太:
弊社は社員が世界19か国に80人程度おり、日本に住む日本人は33%、平均年齢は35歳くらいで、Web2関連のトップ企業、Microsoftやamazon、マッキンゼーなどの出身者もいる少数精鋭方式です。世界中の社員に対応すべく、現在は会社のカルチャーづくりを行っています。
日本を代表する企業を目指す
ーー今後、どのような取り組みを計画していますか?
渡辺創太:
Web3.0の世界で、世界を代表する分散型のプラットフォームをつくりたいと思います。今、Web3.0を利用しているのは数億人程度であり、インターネットのように何十億もの人に利用してもらうには、現実世界やWeb2.0領域との橋渡しが重要になります。長期的には、日本を代表する企業を僕らの世代でつくり上げていくことをしたいです。開発者の自己満足ではなく、ユーザーが便利だと感じ、新しい技術に触れる感動を味わってもらえるようにしたいですね。僕個人としても日本人としても、グローバル市場で結果を残すことが大切です。
ーー最後に、どのような人材を求めていますか?
渡辺創太:
職種としてはエンジニアを求めています。20代前半までの方はやりたいことに、とことん時間をかける情熱や、物事に打ち込む成長意欲のある方が良いなと思います。20代後半以降の方はそれに加えて、自分のためだけではなく、お客様や他の誰かのため、日本の未来のような大きなもののために尽くす感覚をもってほしいですね。40代以降の方であれば、専門性や経験も必要です。
編集後記
ニュートンのリンゴの話を引用し、そこから発展する形で自社の存在意義を付け加える渡辺創太CEO。歴史好きなだけあって、巨人の肩に乗り、はるか遠くを見晴らす大局的なものの見方が伝わってきた。一見途方もない夢を、Startale Japanならばきっと実現し、Web3.0時代を率いる大企業になるだろう。
渡辺創太/1995年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2019年、在学中に日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkを設立。2023年Startaleを設立してCEOに就任。合わせて株式会社Startale Japanも立ち上げる。Next Web Capital、博報堂key3設立。日本ブロックチェーン協会理事。2022年Forbes誌の選出する「日本発『世界を変える30歳以下』30人」、2023年Newsweekの「世界が尊敬する日本人100」に選出。