「新しいものと古いものの融合」をモットーに掲げ、外国籍従業員の積極的な採用やDXの推進など、多様性と革新性を重視している株式会社成和建設。社員一人ひとりの個性を尊重した人材育成や、業界の枠を超えた幅広いネットワーク構築などにも力を入れている。そんな独自の企業文化と今後の展望について、同社代表取締役の川口敏氏にお話をうかがった。
美大卒クリエイターが辿った建設業への道
ーーこれまでのキャリアを教えてください。
川口敏:
将来、絵を描いたりデザインや企画をしたりする仕事をしたいと思い武蔵野美術大学に入学し、デザインを専攻しました。卒業後は食品関係のメーカー、主に洋菓子を扱う会社に就職しました。早く自分の作品を世の中に出したいという思いがあったので、イベントや季節によって企画・開発ができるケーキに目をつけたのです。そこで勤務する中で、もっと別のことにも挑戦してみたいという気持ちが強くなっていき、フリーランスとして広告の業界に入りました。その後もいくつかの業界を渡り歩き、映画制作会社や出版社など、多岐にわたる分野で経験しました。
ーー建設業界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?
川口敏:
建設業界に入ったのは偶然でした。それまでやっていたイベントプロデュース業に区切りをつけて、職に就かず遊んでいた頃に声をかけられ紹介されたのが成和建設でした。建設業といえば、厳しい労働環境や古い慣例から脱却することができなくて、さまざまな問題を抱えています。加えて、小規模事業所となると、事業承継も想うようにならず、廃業の道をたどる例も多いのですが、成和建設も同様の問題に直面していました。たまたまそのようなタイミングで2014年に入社して何も準備しないままでしたが手を挙げて、2016年に社長に就任しました。
もともと建築業界の知識や経験は全くありませんでした。それまで経験してきたイベント業や大学で勉強したことが役に立つはずがありません。美大では建築の歴史や様式を学ぶ授業もありましたが、実際の現場ではまったく通用しません。私自身が厚かましく、鈍感な性格だったために、建築業界にもスムーズに入っていけたと思っています。
業界の枠を超えたネットワークで新たな可能性を探る
ーー貴社の強みについて教えてください。
川口敏:
弊社の一番の強みは、社員の技術力ですね。会社として、技術者の誇りを最も大切にしています。仕事を請ける際も、なるべく技術者の希望を尊重するようにしていますが、こだわりに度が過ぎると仕事が来なくなってしまいますから、バランスをとるのが難しいところですね。建築の技術だけでなく、総合的な人間力に優れた人たちばかりですから、やるとなったらしっかりと成果を出してくれます。私が予想していた以上の成果を出し、驚かされることもしばしばあります。
ーー新規販路開拓や採用にも注力されていますね。
川口敏:
建設業関係者だけでなく、さまざまな業種・職業の人とコミュニケーションをとるようにしています。そうすることで、思わぬところでつながりが生まれ、新しい仕事に発展することもあります。そのため、建設業界の中だけで完結せずに、幅広いネットワークを持つことが大切だと考えています。
グローバル採用にも積極的に取り組んでいますね。外国籍の方を採用する際は、しっかり勉強しているか、向上心とチャレンジ精神があるか、といったところを見ています。日本でチャレンジしたいという熱い思いを持った人と一緒に働きたいですね。将来のリーダーになれる人材を育てていきたいと思っています。
「一生懸命」を評価する、独自の採用基準
ーーどのような人材と一緒に働きたいですか?
川口敏:
私たちが求めているのは、「一生懸命やる」という姿勢を持った人です。仕事は簡単には終わりません。ちゃんと実力をつけて、資格を取得して、次の段階に進む。そういうプロセスを大切にできる人を求めています。建築や土木の出身でなくても、この会社に入ってから勉強して成長していくという気持ちを持った人を歓迎します。そういう人たちが活躍する舞台を提供することで、会社の成長にもつなげていきたいですね。
建設業界は他でうまくいかなかった人にも平等にチャンスがある業界だと思っています。そういう会社で在りたいと思っています。仕事に真摯に向き合い、一生懸命働いていれば実力がついてきます。その実力が認められて、資格が取得できるのです。自分が頑張った分だけ必ず評価がついてくる、とてもフェアな環境だと思いますよ。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
川口敏:
5年後、10年後を見据えて、今は組織づくりに注力しています。現在の従業員数は10人程度ですが、5年後には25人くらいの規模になることを目指しています。ただ、単に人数を増やすだけでなく、人材育成にも力を入れてしっかりと足元を固めていきたいですね。
また、将来的にはもっと女性も活躍しやすい環境にし、女性比率も上げていきたいと思っています。ただし、女性だから採用するというわけではなく、年齢や国籍を問わず、能力ややる気のある人材を採用していく方針です。男女も国籍も学歴も関係なく、多様な人材が集まる職場にしていきたいですね。これからも挑戦する気持ちを忘れずに、従業員一人ひとりが笑顔で働ける会社を目指していきます。
編集後記
川口社長の広告やイベント業における経験が、同社に新鮮な視点をもたらしている。「正直者ばかり」という建設業界への印象や、技術者のプライドを大切に語る姿勢に、川口社長の温かいまなざしを感じる。特に印象的だったのは、従来の採用基準にとらわれない人材発掘へのスタンスだ。「一生懸命やる気持ち」を重視し、多様な背景を持つ人々にチャンスを与える。この柔軟な経営哲学が、成和建設の未来を明るく照らしているように思う。
川口敏/1961年、大阪生まれ。武蔵野美術大学卒業。2014年、他業種(広告業、イベントプロデューサー)より転身し、株式会社成和建設に入社。2016年、代表取締役に就任。