株式会社オーダースーツSADAは、一人ひとりの体型に合ったフルオーダースーツの製造・販売を手がけている会社だ。今や多くの人が多くの場面でスーツを着ているが、同社の代表取締役社長、佐田展隆氏は「スーツは勝負の場で着るもの」と語る。
高品質なフルオーダースーツを低価格で販売する会社として、確固たる地位を築いている同社は、今後どのような展望を持っているのか。佐田社長に、同社の強みやフルオーダースーツの魅力、使命の志などについて聞いた。
「迷ったときは茨の道へ」会社の危機を救うため社長に就任
ーー社長に就任した経緯を聞かせてください。
佐田展隆:
社長に就任したのは、父の会社の経営状態がかんばしくなかったことが理由です。当時、私は東レ株式会社で働いていましたが、入社5年目に父から「うちの会社に来い」と言われ、経営状態を回復させるために株式会社佐田(現:株式会社オーダースーツSADA)に入社し、代表取締役社長に就任しました。
幼い頃から祖父に「迷ったときは茨(いばら)の道を進め」と言われ続けていたことも、弊社の社長就任を決意する後押しになりました。入社後は父とともに会社を立て直して黒字化させ、店舗数も増やし、今では全国で46店舗を営業しています。
綿密なヒアリングを通してそれぞれの人に合った「ゆとり」を把握できるのが強み
ーー貴社の強みや他社との違いはどういった点にありますか。
佐田展隆:
1つは、お客様がどのようなスーツを求めているのかをヒアリングする能力が高いことです。たとえばヌード寸法(衣類を着用していない状態の身体のサイズ)が同じ2人の男性がいるとして、1人は政治家、もう1人はホストだとします。
政治家の方は堂々と見えるようにゆったりとしたスーツ、ホストの方は華やかで目を引くスーツのほうが合うかもしれません。
どの部分にどのくらいのゆとりがあるのが適切なのか、それぞれの人の体型や仕事などを踏まえてヒアリングし、その人に合ったスーツを提供できるのが弊社の強みです。
お客様によって好みのゆとりは違うので、この部分を業務マニュアルに落とし込むのは非常に難しいのです。そのため弊社では社員教育に時間をかけ、3年ほどかけて業務の「守破離」を身につけてもらうようにしています。
ーー佐田社長が考える、フルオーダースーツの魅力とは何ですか。
佐田展隆:
大きな魅力は、見栄えと着心地を選べることです。たとえば歳を重ねて若い頃より痩せてしまった方も、今の体型に合ったゆとりのあるフルオーダースーツを着ることで、往年の見栄えを取り戻せます。
既成スーツやパターンオーダースーツ(既成のサンプルの中から体型に最も近いサイズを選ぶスーツ)が合わない方こそ、フルオーダースーツを試してほしいと思います。実際に弊社のフルオーダースーツに変えてから、肩こりが治ったというお客様もいます。
また、弊社はオリンピックで金メダルをとったフェンシング選手のスーツを手がけたこともあります。フェンシング選手は太もものサイズが60cm以上など、一般の人よりもサイズが大きいのが特徴です。
こういった筋肉量が多い方でも、ゆとりを持たせる部分と絞る部分を意識することで、体型がスラっと見えるようになります。このような調整ができるのも、フルオーダースーツの醍醐味ですね。
弊社の粗利率は50%ほどで業界でも高水準だと思いますが、お客様の手の届きやすい価格で商品を販売できている自負があります。
「おもてなしの心が世界一」だからこそ日本人のスーツ姿も世界一に
ーーマーケティング活動についても聞かせてください。
佐田展隆:
私自身、自分で弊社のスーツを着て何度も山登りに挑戦しています。その際にマーケティングとして「ストレッチの入っていないスーツで山登りをしても、生地が破れることはありません」という内容の動画を配信しました。
積極的にマーケティング活動を始めた背景には、19,800円から買えるフルオーダースーツを大々的に打ち出したときに「そんな値段でフルオーダースーツを買えるわけがない」と、誰も信じてくれなかったことがあります。安かろう悪かろうと散々言われたので、弊社のスーツの良さを証明するために、動画配信なども始めたのです。
ーー最後に、会社の使命についてお聞かせください。
佐田展隆:
そもそもビジネススーツとは、相手に礼を尽くすための最上級のおもてなしのアイテムです。私は、日本人のおもてなしの心は世界一だと思っています。だからこそ、おもてなしのアイテムであるスーツの着こなしも世界一であるべきです。
何のためにビジネススーツを着るのかということを日本人に思い出してもらい、日本人を「世界トップのスーツの着こなしができる国民」にすることが弊社の存在意義であり、果たすべき使命だと考えています。
編集後記
多くの人が様々なシーンで着ているスーツ。その開発の裏には、「スーツを通して人々に幸せになってもらいたい」と願う作り手の努力があることに、取材を通して気づかされた。
「スーツで日本のビジネスシーンを明るく元気にしていきたい」という熱い思いを持つ佐田社長。先行き不透明な時代の中でも、同社のスーツが日本人の誇りと礼節の心を取り戻すきっかけになるかもしれない。
佐田展隆/1974年生まれ。1999年、一橋大学卒業。同年に東レ株式会社に入社。2003年、株式会社佐田(現:株式会社オーダースーツSADA)入社。2005年、代表取締役社長に就任。同社を一度離れるが、2011年に復帰。