
株式会社オーダースーツSADAは、一人ひとりの体型に合ったフルオーダースーツの製造および販売を手がけている。国内と中国に自社工場を持ち、全国に47の直営店舗を展開する、日本最大級のフルオーダースーツ専門チェーンである同社は、高品質なフルオーダースーツを既製品と同等の価格で提供する企業努力により、着実に成長を続けてきた。近年では、社会的なスーツ着用ルールの変化を追い風にし、さらなる飛躍を遂げている。そんな同社を率いるのは、「スーツは勝負の場で着るもの」と語る代表取締役社長の佐田展隆氏だ。佐田氏は、自社製スーツの耐久性と機能性を証明するため、自らスーツ姿で国内外の雪山に登頂するなど、体を張ったマーケティングでも注目を集める。本記事では、同社の事業の強みや、新たな採用手法、そして根底に流れる「おもてなしの心」について話を聞いた。
迷ったときは茨の道へ進み会社の危機を救うため社長に就任
ーーまずは、貴社の社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
佐田展隆:
会社の経営状態がかんばしくなかったことが理由です。その当時、私は東レ株式会社という化学メーカーで働いていましたが、入社5年目の頃に父から声をかけられ、経営状態を回復させるために株式会社佐田(現:株式会社オーダースーツSADA)に入社し、代表取締役社長に就任しました。幼い頃から祖父に「迷ったときは茨の道を進め」と言われ続けていたことも、社長就任を決意する大きな後押しになっています。
ーー現在の事業内容について教えていただけますか。
佐田展隆:
現在は、国内と中国に100パーセント子会社であるフルオーダースーツ専門工場を運営し、そこで仕立てた製品を日本市場で販売しています。札幌から博多まで全国に47の直営店舗を展開しており、フルオーダースーツ専門チェーンとしては日本一の店舗数を誇ります。オーダースーツ業界では、フランチャイズ体制を取るとオーナー様との意見の相違から体制が崩壊するケースがあり、その現状をこれまで数多く見てきました。そのため弊社では、確固たるブランドの基盤ができるまでは、すべて直営のみで展開していくと決めています。
ーー貴社が急成長を遂げた要因はどこにあるとお考えですか。
佐田展隆:
スーツに対する世の中の意識が大きく変わったことが最大の要因だと捉えています。毎日必ずしもスーツを着なくてもよい時代になったからこそ、皆様が「どんなときにスーツを着るべきか」を自ら考えるようになりました。
その結果、「スーツは大事な人に会いに行くときに、相手に敬意を表すための礼服である」という本来の意味が再認識されたと感じています。相手に礼を尽くす「おもてなしのスーツ」とは何かと考えた末に、フルオーダースーツを選ばれる方が圧倒的に増えました。さらに私たちが企業努力を重ね、フルオーダーでも既製品と同等の価格で買えるという認識が広まったこともあり、現在では20代の新卒の方などにもご来店いただいています。
ヒアリングでそれぞれの体型に合ったゆとりを提案

ーー他社には真似できない貴社ならではの強みを教えてください。
佐田展隆:
1つは、お客様が求めているスーツの形状を的確にヒアリングする能力が高いことです。たとえばヌード寸法(衣類を着用していない状態の身体のサイズ)が同じ2人の男性がいるとして、1人は政治家、もう1人はホストだとします。
政治家の方は堂々と見えるようにゆったりとしたスーツ、ホストの方は華やかで目を引くスーツのほうが合うかもしれません。どの部分にどのくらいのゆとりがあるのが適切なのか、それぞれの体型や仕事などを踏まえてヒアリングし、その人に合ったスーツを提供できるのが弊社の強みです。
お客様によって好みのゆとりは違うので、この部分を業務マニュアルに落とし込むのは非常に難しい作業になります。そのため弊社では社員教育に時間をかけ、3年ほどかけて業務の基本を身につけてもらうようにしています。
ーー既製品にはないフルオーダースーツの真の魅力とは何ですか。
佐田展隆:
大きな魅力は、見栄えと着心地を自由に選べることです。たとえば歳を重ねて若い頃より痩せてしまった方も、今の体型に合ったゆとりのあるフルオーダースーツを着ることで、往年の見栄えを取り戻せます。既成スーツやパターンオーダースーツ(既成のサンプルの中から体型に最も近いサイズを選ぶスーツ)が合わない方にこそ、フルオーダースーツを試してほしいですね。実際に弊社のフルオーダースーツに変えてから、肩こりが改善したというお客様もいらっしゃいます。
また、過去にはオリンピックで金メダルを獲得したフェンシング選手のスーツを手がけたこともありました。フェンシング選手は太もものサイズが60cm以上など、筋肉量が多くサイズが大きい方でも、ゆとりを持たせる部分と絞る部分を意識することで、体型がスラっと見えるようになります。このような細やかな調整ができるのも、フルオーダースーツならではの醍醐味です。
ーーこれまでお客様と接してきた中で、特に印象深いエピソードを教えてください。
佐田展隆:
「やっぱりフルオーダーは違うね」と言っていただけるのはもちろんですが、「人生が変わった」とまで言ってくださる方がいることは本当に嬉しい限りです。スーツを体に合ったものに変えただけで、相手がしっかりと話を聞いてくれるようになり、周囲の見る目が変わったというお声をいただいています。
ある営業のプロの方からは、「SADAのスーツを着て挑んだ大事な商談は百戦百勝だ」とお話しいただき、涙が出そうなくらい感動しました。また、期待している社員に対して上司の方が、弊社で一番高いスーツを買ってあげたところ、試着して鏡を見た瞬間にその社員の方の顔つきがトップ営業マンのそれに変わり、自信に満ち溢れたというエピソードもあります。
ーービジネスシーン以外でご利用されるお客様もいらっしゃるのでしょうか。
佐田展隆:
結婚相談所などからお客様をご紹介いただくことも非常に多いですね。お見合いやデートでは、清潔感のあるジャケットとパンツのスタイルが求められますが、自分で選ぶとサイズやセンスが合わず、苦労される方が少なくありません。
そこで弊社に相談いただければ、スタッフが丁寧にヒアリングして最適な一着をご提案します。結果として第一印象が大きく向上し、「成婚率が劇的に上がった」「SADAさんに任せれば安心だ」と、結婚相談所のご担当者様からも感謝の声をいただきました。
インターンを通じてカルチャーに共感する人材を採用
ーー組織の未来を見据え、新卒採用の手法をどのように変革されましたか。
佐田展隆:
来年度の入社を見据え、初めての試みとして1年以上前からインターンシップの募集を開始しました。面接だけでは会社の本当の姿は伝わりきらないため、まずは現場のマネージャーや店舗スタッフと直接関わってもらい、弊社のミッションやビジョンを正しく理解してもらう形へと大きく変えたのです。
その結果、弊社のカルチャーにしっかりとマッチする方から内定承諾をいただけるようになりました。また、入社1年目の社員には先輩がメンターとしてつく制度も機能しており、企業文化を後輩に引き継げるメンバーが育って受け入れ体制が整ったため、来期は採用人数を倍の10名に増やす予定です。
ーー中途採用において最も重視しているマインドや素質は何ですか。
佐田展隆:
世代交代の時期を迎えており、引退される方の分も中途採用を行っています。以前は出店数ありきで採用していましたが、現在は企業カルチャーに合うかどうかをしっかりと見極める方針へと転換しました。業務経験は後からついてくるものなので、何よりも「おもてなしの心」を持っているかどうかです。お客様に対してだけでなく、上司や部下、家族、そして自分自身に対しても一貫しておもてなしの心を発揮できる人が本物だと考えています。
さらに、そのおもてなしは短期的ではなく、中長期的な目線に立ったものであることが重要です。その場しのぎの優しさではなく、時には厳しく指導することも、相手の未来を思えばこそです。そうした真の思いやりを持った人材を採用し、次世代のリーダーとして育てていきたいと考えています。
ーー企業カルチャーを組織全体へ浸透させるための工夫を教えてください。
佐田展隆:
目標管理制度の中に、会社のフィロソフィーに即した目標を一つ盛り込んだり、また、毎週月曜日に朝礼の動画を配信して、私自身の思いを直接メンバーに伝えています。さらに、社内SNSを活用し、年に1回自分のチャレンジについて投稿してもらって表彰する制度や、社員同士の食事会を支援する制度も導入しました。
次世代リーダーの育成に関しても、部長やマネージャーが店舗を回り、上昇志向のある人材を積極的に店長やマネージャーに引き上げる仕組みをつくっています。弊社は優しい人が多い会社なので、今後はさらに貪欲さや向上心を持った人を増やしていくことが組織としての課題です。
おもてなしの心で日本人のスーツ姿も世界一に
ーー商品の魅力を伝えるために、何か行っている取り組みはありますか。
佐田展隆:
私自身、自社のフルオーダースーツを着て何度も山登りに挑戦しており、その様子をYouTubeチャンネルなどで公開しています。その背景には、1万9,800円から買えるフルオーダースーツを大々的に打ち出した際に、「安かろう悪かろうだ」と、誰も信じてくれなかったことがあります。
そこで、弊社のスーツの耐久性と品質の良さを証明するために、自ら行動を起こしたのです。この数年間でも、日本百名山に何十座も登頂しており、アンデス山脈にある南米最高峰の山であるアコンカグアに挑戦した際には、事前に標高3,000メートル環境の低酸素トレーニング施設に通って準備も進めていました。
実際に富士山から始まり、北岳や奥穂高岳、槍ヶ岳などをスーツ姿で制覇しています。さらに、マレーシアのキナバル山や台湾の玉山、ヨーロッパのモンブランなど、海外の山にもスーツで登りました。実は、合成繊維が登場する前の昔の登山家は、天然の高機能素材であるウールのスーツで山に登っていました。保湿性や吸水速乾性、通気性に優れたスーツの素晴らしさをアピールする、絶好の機会になっています。
ーー今後の事業拡大と海外展開のビジョンをお聞かせください。
佐田展隆:
まずは国内での売上高を現在の倍以上に成長させることが目標です。そしてその先には、海外展開も視野に入れています。日本製のオーダースーツに対するイメージが良いエリアであれば、非常に面白い事業展開ができると期待しており、企業の制服としての導入や、代理店連携の強化も含め、多方面へアプローチしていく方針です。国内の店舗数については、80店舗規模までは拡大できると考えており、同時に一店舗あたりの売上高もまだ伸ばせる余地を残しています。
ーー貴社がフルオーダースーツを通して果たすべき使命とは何ですか。
佐田展隆:
そもそもビジネススーツとは、相手に礼を尽くすための最上級のおもてなしのアイテムです。私は、日本人のおもてなしの心は世界一だと思っています。だからこそ、おもてなしのアイテムであるスーツの着こなしも世界一であるべきです。何のためにビジネススーツを着るのかを日本人に思い出してもらい、日本人を「世界トップのスーツの着こなしができる国民」にすることが弊社の存在意義であり、果たすべき使命だと考えています。
編集後記
「相手に礼を尽くすためのおもてなしのアイテム」。取材中、佐田社長が並々ならぬ熱量で語ったこの言葉が、深く胸に刻まれた。効率化やカジュアル化が進む現代において、私たちが忘れかけていた「衣服を通じた他者への敬意」のあり方を、オーダースーツSADAはフルオーダースーツという形で体現し続けている。採用の手法を変え、真摯に学生と向き合う姿勢からも、その確固たる信念が組織全体へ浸透し始めている息吹を感じた。同社が仕立てる一着が、袖を通す人の自信を呼び覚まし、日本中のビジネスパーソンに誇りを与えていく未来は、もうすぐそこまで来ている。

佐田展隆/1974年生まれ。1999年に一橋大学経済学部を卒業後、東レ株式会社に入社しテキスタイル営業を担当。2003年、家業である株式会社佐田(現:株式会社オーダースーツSADA)に入社し、2005年に代表取締役社長に就任。会社の黒字化を果たすも、バブル期の有利子負債により2007年に会社を再生ファンドへ譲渡し、2008年に一度退社。2011年の東日本大震災で宮城工場が被災したことを機に呼び戻され、2012年に代表へ復帰。直販事業の強化により3期連続増収増益を達成し、以降も事業規模を拡大し続けている。自社のフルオーダースーツの耐久性を証明するため、スーツ姿での富士山・モンブラン登頂やスキージャンプなどの動画を配信し、自ら広告塔としても活躍する。