※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

創業(1921年・創業103年)以来、「最良の製品・サービスを以て社会に貢献す」の社是のもと、IT(情報技術)・OT(制御技術)・プロダクト(製造)およびAI技術のすべてを兼ね備えた企業としてDX事業(スマート保安)・GX事業(脱炭素事業)を推進している、正興電機製作所。同社は今、AIやIoTといった最先端技術をとり入れ、飛躍を遂げようとしている。

デジタル技術と環境への配慮を軸に、新たな成長戦略を描く同社の代表取締役社長、添田英俊氏に、そのビジョンなどについてうかがった。

人材がすべて。トップの座から見えた景色

ーー経営者になりたいという思いは昔からあったのでしょうか?

添田英俊:
入社当初から経営者を目指していたわけではありません。同級生の多くが大手企業に就職していて、日立や東芝などに行った友人たちをうらやましく思っていた時期もありました。その当時は、独立して自分の会社を立ち上げるか、大手企業に転職したいと思い、勉強に励んでいましたね。営業コンサルタントとして活躍することを目指して、営業の本を何千冊も読み、準備を進めていました。

しかし、48歳くらいになって、「独立するには偏差値や知名度が高い大学を出ていることと、大企業に勤めていた経験が必要なのではないか」と考えるようになったのです。そうすると、「もう遅いのではないか」とも思うようになりました。

そのうちに50歳になったとき、起業をするのではなく、「この会社で働いている部下たちにもっと心地よさを与えてあげたい」「この会社のために頑張ろう」と。そして、弊社に留まり、会社をより良くしていこうと決心したのです。

ーー社長就任時の思いについて、お聞かせください。

添田英俊:
2018年に社長へ就任して社員のことを考えたときに、従来の事業だけでなく、保守業務を増やして仕事の量を安定させたり、役職に関係なく社員が活躍できる環境を整えたいと思いました。私は弊社に入社して以来、一貫して営業職を担当してきました。

主に公共分野や下水道の電気設備を担当し、これらの年間の売上を5億円から80億円近くまで引き上げたこともあります。しかし、こうした仕事はまず仕事を取るところから始めなければならないので、安定しているとはいえません。こうした経験から、社長として会社全体の基盤を整え、成長を牽引したいと考えたのです。

社長になったことで、全体的な人事を考えられるようになり、会社全体を管轄できるようになりました。営業本部長を務めていたころは営業部門の人材を管理していましたが、他の部門に関しては別の担当者がいたため、「こういう人事にしたらいいのに」と、もどかしさを感じていたのです。私は「会社は人材がすべてを決める」と考えているので、工場まで含めてすべて管轄できるようになったことは、私の立場の大きな変化でしたね。これにより、思い切った人事異動や組織改革を行うことができるようになりました。

健康経営で実現する、働きやすい職場

ーー社長就任後、最初に取り組んだことは何でしょうか。

添田英俊:
まず着手したのが、中期経営計画の策定です。基本方針として、「サステナビリティ経営」を掲げ、3つの重点項目を設定しました。1つ目は「デジタルファースト」で、デジタル技術による社会課題の解決を目指しています。2つ目は「脱炭素社会の実現」で、カーボンニュートラルへの取り組みを強化することにしました。3つ目は「One正興」で、グループ全体の統合力を発揮することを重視しています。

これらの項目について、グループ横断プロジェクトを立ち上げ、具体的な行動計画を策定しました。次の100年に生き残る組織づくりが私の使命ですね。特に、市場が好調な分野に重点的に投資をする戦略を取っています。たとえば、ICタグ、OTセンサー、ARグラス、AIロボットを活用した設備の遠隔監視・操作支援・巡視点検を扱うDX事業や、蓄電システム・小水力発電システムによる脱炭素事業などを展開しています。

ーー現在の注力テーマは何でしょうか。

添田英俊:
働きやすい会社づくりに注力しています。その一環として、エルダー制度を導入しました。これは、課長になる前の優秀な中堅社員を選んで、彼らに新入社員から3年目までの社員を教育してもらう制度です。「優秀な人が優秀な人を育てる」という考えに基づいています。

数年前にもエルダー制度を導入していましたが、しっかりとした運用ができておらず、形だけになっていました。その反省を活かして、今回は制度の見直しを行いました。エルダーにも教育を行い、さらにエルダーに接待費を持たせて、新入社員との交流を促進しています。こうした取り組みにより、新入社員に対してきめ細かなフォローが可能となり、世代を超えたコミュニケーションが生まれました。

ーー健康経営への取り組みについても、お聞かせください。

添田英俊:
弊社は、経済産業省によって、「健康経営銘柄2024」に選ばれています。全国で52社しか選ばれていない中で、私たちが選ばれたことをとてもうれしく思っています。具体的な取り組みとしては、「歩数競争」を行っていますね。1か月の合計歩数に順位を付け、好成績者には毎月手当を支給するのです。私自身、健康のために妻と2人で外を歩くようにしていたのですが、その経験から、ウォーキングの素晴らしさを実感し、全社的に広めようと思ったのです。そうした取り組みを評価いただき、約3000社で構成される「健康経営優良法人」の上位500社である「ホワイト500」にも認定されました。

また、過去3年間の新卒採用者60名の離職者数がゼロという成果も出ています。これは、健康経営の取り組みだけでなく、働きやすい環境づくりや充実した研修制度など、総合的な施策の結果だと考えています。

配電盤メーカーから社会インフラ企業へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

添田英俊:
中期経営計画の「SEIKO IC2026」では、かなり高い目標を設定しています。目標達成に向けた具体的な取り組みとして、人材採用に力を入れていますね。特に情報(IT)関連人材の増員を図っており、エネルギーソリューションという新しい部門を独立させました。そこでは、すでに優秀な人材が活躍し始めています。

私たちは社会インフラであれば何でもやるという方針です。今やっている事業だけをずっと続けていたのでは、会社の成長は難しいと考えています。特に力を入れているのは自動化・省人化していく分野。たとえば、巡回ロボットや監視ロボットの開発などですね。今後も健康経営や働き方改革を通じて、“配電盤メーカー”ではなく、“社会インフラを支える企業”として、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

編集後記

添田社長の言葉には、経営者としての冷静な判断と、社員を思う温かさが共存していた。エルダー制度や健康経営の推進からは、人材育成と働きやすい環境づくりへの真摯な取り組みが感じられる。社会インフラを支える企業として、技術革新と人材育成の両輪で成長を続ける同社の姿に、企業の持続的成長の鍵を見た気がした。

添田英俊/1955年、福岡県生まれ、九州工業大学を卒業。1978年に株式会社正興電機製作所に入社し、営業職に従事。2012年に取締役上級執行役員、2018年に代表取締役社長に就任。