株式会社ユピテルは、無線と映像技術の老舗企業だ。過去には会社更生法の適用を受けるなど業績不振を経験しつつも、現在は主力商品であるドライブレコーダーやオリジナルアニメキャラクターのユニット「羽衣6」のコンテンツなどが人気を博している。代表取締役会長兼CEOを務める安楽憲彦氏に、社長就任から現在に至るまでの経緯や今後の展望についてうかがった。
スカウトをきっかけに入社、目の前の仕事をやり続けて社長に
――社長に就任された経緯をお聞かせください。
安楽憲彦:
前職の会社で働いていたときに、「機器関係の仕事をしてほしい」と弊社の前身であるユピテル音楽工業株式会社の方からスカウトされ、入社することになりました。前職は大企業だったので、「こんな小さな会社で働いて大丈夫かな?」と心配したことを覚えています。
入社後は人手が少ない中で、いいものを安く生産するための仕組みづくりから始めました。具体的には半導体の仕入れ先を探したり、金型をつくる職人とやりとりしたりしていました。人がいないので、とにかく自分でやるしかありません。目の前のやるべきことをやり続けているうちに役職が上がり、気づいたら社長に就任していたという感じです。
――入社後に苦労したことや、それをどのように乗り越えたのかについてお聞かせください。
安楽憲彦:
私は入社当時から経営者になりたかったので、何度も「この会社を辞めて新しい会社を設立しよう」と考えました。経営者になるために、休日に簿記の勉強をしに行ったこともありましたね。ただ、やはり目の前の仕事や目標を達成しなければいけないという思いがあったので、今の会社で働き続けることができたのだと思います。
また弊社は過去に民事再生を経験しており、何度も成長と失敗を繰り返しています。そのような経験を踏まえて、目の前のことだけではなく、将来も見据えなければいけないと考えるようになりました。そこで2019年に「ユピテル静岡研究所」をつくり、「IT・IoT・ICT・AI・VR・AR」をテーマに将来に向けた開発や研究を行うようになったのです。
「売れない」と言われたドライブレコーダーを売れる商品に育てた
――貴社の主力商品について教えてください。
安楽憲彦:
弊社の主力商品はドライブレコーダーです。購買部長と台湾に調達に行ったときに、ある工場でドライブレコーダーを生産しているのを見たことがきっかけで、弊社でも開発に踏み切りました。日本は一般的にドライバーのマナーがいいのでドライブレコーダーは不要だと言われていましたし、私自身も「そんなに売れないだろう」と考えていました。
販売が軌道に乗ったのは3年目くらいです。それまで収益率が高くなるよう、ECサイトで販売したり、製品を改善したりという工夫を根気よく続けていました。また、ドライブレコーダーだけに限らず、無線通信機器やホームロボットなど、まだ世の中にはなかった新しい製品をゼロから開発し、コツコツと成果を積み上げることで事業を大きくしていきました。
――商品開発においてどのような考え方を大切にしていますか。
安楽憲彦:
商品開発や経営の基本方針は、「新しいことをやろう」「夢を追いかけよう」という気持ちです。これまで引き継いできた技術への信頼を持ち、さらに未来を見据えて最新のものを取り入れること。今売れている商品がこの先も同じように売れ続けるという保証はないので、そういう意識で商品開発に取り組むことが大切だと思うのです。すでに売れている商品の改善だけでなく、新しくて面白い商品をつくっていきたいと考えています。
年輪のように成果を積み重ねる努力をしてほしい
――今後はどのようなことに注力していきたいですか。
安楽憲彦:
法人向けの商品として、AIを搭載したドライブレコーダーを開発していきたいと考えています。現在は交通事故を防止するための安全基準が設けられていますが、そういった基準が不要になる未来が実現するように、AIを活用して事故を未然に防げるドライブレコーダーをつくりたいのです。自動車だけでなく、船舶やフォークリフトにもAIを搭載したドライブレコーダーをつけて、事故防止に役立てればと考えています。
――最後に、社長が望む理想の会社像と、読者へのメッセージをお願いします。。
安楽憲彦:
会社がナンバーワンであり続けて、面白いことができればいいですね。また、これから社会に出る人に「ユピテルに入ってみたい」と思ってもらえる会社でありたいと思います。働きやすい会社にするために、給与や賞与などにも気を配り、好きなことを仕事にできるような仕組みづくりにも取り組んでいます。
また、私の次に事業を担う人たちには、グローバル化だけを唯一の目標にするのではなく、樹木が年輪を増やすように一つひとつの成果を積み重ねてほしいですね。ただし、会社の年輪は樹木のように自然に増えていくものではありません。どの分野で年輪を増やすかを見極め、先を見据えて目標に到達するための努力をすることが必要です。「過去の失敗の経験を反省して次に進んでいく」という考えを大切にして、目標達成に向けて頑張ってほしいと思います。
編集後記
民事再生という失敗を経験しながらも、そこから学びを得て、新しい技術や商品の開発を続けようとする姿勢。苦難を乗り越え、新たな挑戦を積み重ねて成功をつかむ。その繰り返しが、ユピテルという大樹を形づくっているのだと実感した。これから先、同社はどのような商品を世に送り出していくのだろうか。それを目にするのが楽しみだ。
安楽憲彦/1947年、鹿児島県に生まれる。1977年、ユピテル工業株式会社に入社。取締役製造部長、取締役購買部長、取締役岡崎工場長を務める。1999年、代表取締役社長に就任。2007年、株式会社ユピテルに社名変更。2018年、代表取締役会長兼CEOに就任。