日本が世界に誇るべき自動車製造業の「血液」ともいえる物流。広島市に本社を構える株式会社ロジコムホールディングスは、1959年から自動車部品を専門に取り扱う物流のプロフェッショナルだ。そのあり方は「変幻自在の物流」と表現され、顧客のサプライチェーンの最適化に貢献している。
堅固な地盤を持つロジコムホールディングスだが、代表取締役社長の大上正人氏は今こそ変革が必要だという。物流業界において「今」必要な変革とは何なのか。大上社長の取り組みやビジョンを聞いた。
積み重ねた「学び」から組織の風土改革を推進する3代目社長
ーー大上社長の経歴をお聞かせください。
大上正人:
当社は祖父が創業した会社ということもあり、私は昔から会社を継ぐ前提で将来を考えていました。企業運営には「お金の知識」と「人の知識」が大切だと考え、大学では人事論や組織論について知識を深め、その後金融機関に就職して法人営業を経験しました。
この金融機関での仕事から学んだのが、「人の思いを伝える」ことの大切さです。融資の決裁を得るためには単に財務分析や数字の説明を行うだけでなく、融資先の経営者から様々な話を聞いた上で、その会社の強みや将来性がしっかり伝わるように担当者自らが思いを込めて稟議書を作らねばなりません。この経験を通じて、物流も単に物を運ぶだけでなく、「物」を通じて人の思いを運ぶ仕事なのだと考えるようになりました。
当社に入社したのは2007年のことです。まず藤沢営業所に配属され、そこからいくつかの部署を巡りました。途中、2012年から2014年までは海外のビジネススクールへ通い、帰国後は主に海外事業を担当。その後、取締役海外事業部長を経て、2019年に代表取締役社長に就任して今に至ります。
ーー社長就任後に特に注力したことは何ですか?
大上正人:
当社をチャレンジングな組織にするために風土改革に注力しました。これまで当社は過去の成功パターンの積み重ねで成長してきましたが、これからの時代は変化なしに生き残れないと感じ、常に進化し続ける組織づくりを始めたのです。
取り組みを始めるにあたり、まず作業着を刷新しました。創業60周年のタイミングでオリジナルデザインの作業服を発表し、組織全体に向けて「変わるぞ」という雰囲気を醸し出しました。
さらに社員の意識改革として「社長塾」という管理職を対象にした研修を始めました。会社を支える当事者意識の醸成と経営者目線の獲得を目的とし、私が大学のゼミで行っていた「自分がつくりたい理想の会社像を考える」という活動をベースに、全12回のプログラムを自分で作成し、今でもその時点での状況に合わせ、毎年内容を変更しています。
半世紀以上にわたり自動車部品を配送し続け、顧客の製造現場をサポート
ーー貴社の事業内容を教えてください。
大上正人:
事業内容は主に自動車部品の物流です。部品メーカーやサプライヤーなどから提供される自動車部品を自動車メーカーへ納入しており、その過程において当社の倉庫内で保管、検査、組付け作業なども手がけています。
当社の物流は単に物を運ぶだけでなく、物流面を中心に顧客のサプライチェーンを最適化するためにあらゆることを提案しています。たとえば輸送効率の悪い形状の自動車部品があった場合には、構成部品を別々に当社まで輸送した上で、当社の倉庫内で組み付けることも行っています。同時にそれぞれの構成部品の在庫管理も行い、部品発注も代行する事により、単に輸送コストだけでなく、顧客の管理負担軽減にも貢献しています。
事業は海外にも展開しており、現在は中国、タイ、インドネシア、インドに進出している他、海外大手部品メーカーと合弁事業としてメキシコへの進出手続きを進めています。今後も海外事業は積極的に伸ばしたいと考えており、将来的には外資系自動車メーカーの物流パートナーとしても活動を広げていきたいですね。
ーー貴社独自の強みは何でしょうか。
大上正人:
1970年代から自動車部品を配送し続けている実績から、自動車部品物流にまつわるさまざまなノウハウが蓄積されていることです。また、ほとんどの日系自動車メーカーや二輪車メーカー、トラックメーカーとつながりを持っているので、この2点を組み合わせることで業界内における優位性を保てています。
また「オーナー企業」という特徴を生かしたスピーディーな投資判断も当社の強みです。ビジネスチャンスを逃さないために迅速に判断できるのはオーナー企業ならではの強みだと思います。
新たな時代で生き残れる物流会社になるために取り組むべきこと
ーー人材育成における注力テーマは何ですか?
大上正人:
これからの会社を背負ってもらうための幹部育成です。昨今、人材の確保はどんどん難しくなっており、組織の将来を担う幹部層を社内で育成する重要度が高まっています。
社長就任直後から取り組んだ「社長塾」では単に知識的なインプットを行うという事よりも、企業運営に対する広い視野と、日々の拠点「経営」に対する情熱を持ってもらえるような勉強会を心がけています。受講者はいわば熱源となる「炭」のような存在で、毎年受講者が増えるごとに周りの社員にもその情熱が伝播し、やがては熱意と活気に満ち溢れた会社へと変革してくれることを目指しています。
ーー組織の変革において特に注力したいことを教えてください。
大上正人:
まず取り組むべきは「WMS(倉庫管理システム)の刷新」です。当社は昔から自動車部品物流の特性に対応したWMSを自社開発してきました。このノウハウを生かして国内外自動車部品のサプライチェーンを支えるクラウド型WMSを開発中です。今年から各拠点に導入を開始しており、導入が完了すれば国内外において自動車メーカーや部品メーカーとの連携が容易になります。
そして「倉庫内の自動化」による業務効率化も大きなテーマです。自動車部品はサイズ差が大きく自動化が難しいのですが、2023年に福岡県に新設した倉庫では自動フォークリフトや自動搬送機を導入しました。難題に挑戦してこそ新たなスタンダードを確立できると思っているので、今後も積極的な新技術導入に挑戦していきます。
社員と会社の成長が両立する組織であるために
ーー最後に、この仕事に対する思いをお聞かせください。
大上正人:
物流業界は依然として現場重視で、かつ「レッドオーシャン」な業界というイメージをお持ちかもしれません。しかし私は、いまだにブルーオーシャンな領域が残っており、かつ幅広く新たな事にチャレンジしながらキャリアアップも実現できる、とてもエキサイティングな仕事だと思っています。
私が目指しているのは「社員だけでなく、家族も誇りを持てる会社」です。そして、そのためには社員が成長とやりがいを実感しながら、同時に組織も大きく成長させていく事が必要だと感じています。
私の挑戦は2019年に始まったばかりです。従業員全員が働きやすいように働き方改革や健康経営なども進めていますので、自分の力を高めながら新たな事にチャレンジしたい方はぜひ当社にお力添えください。一緒に物流業界に技術革新をもたらす会社を育てていきましょう。
編集後記
業界内で確固たるポジションを確立したとしても絶対的な安泰はあり得ない。大上社長が始めた数々の取り組みからは、これからも最先端で自動車製造業を支え続けるという決意が感じられる。大上社長の話を聞くほどに、製造現場の健全性が物流業界の努力に支えられていると気付かされるばかりだ。
大上正人/1978年広島県生まれ、慶応義塾大学総合政策学部卒。2001年から6年間金融機関で勤務したのち、2007年にロジコムに入社。2015年英国ロンドンビジネススクールSloan MSc修了。取締役海外事業部長を経て2019年に同社代表取締役社長に就任。