三重県四日市市からホテル事業を始め、全国で117ものホテルを運営するまでに成長した株式会社グリーンズ。同社は、アメリカ発のグローバルブランド「チョイスブランド」の展開を核に、グローバルな視点とサービスの地域性で事業を拡大している。
事業をここまで成長させた要因とは何なのか。同社の指揮を執る代表取締役社長の村木雄哉氏に、会社の強みや今後のビジョンなどを聞いた。
宿泊業界をリードする社長のキャリアと経営哲学
ーー村木社長の経歴をお聞かせください。
村木雄哉:
私は青山学院大学を卒業後、1997年に株式会社グリーンズに入社しました。2001年には取締役に就任し、弊社の事業の中核を成す、チョイスホテルズインターナショナルとのマスターフランチャイズ契約に携わりました。
2018年に社長に就任してから、まず経営ビジョンと中期経営計画の策定及び共有を行ったのですが、このとき私がこだわったのが、経営ビジョンと中期経営計画の意味を可能な限り正確に伝えることです。そのために約半年を費やして当時95あったホテルをすべて回り、社員たちとコミュニケーションをとりながらビジョンを共有していきました。
今でも私は理念や目的の真の意味での浸透にこだわっています。理念や目的には「実践」が伴ってこそ理解が進むので、常に行動で示し、組織全体に浸透させていくよう努めています。
ーー社長就任後に特に苦労したことは何でしょうか?
村木雄哉:
最も苦労したのは、2020年からのコロナ禍です。ちょうど中期計画における1年目にあたり、当社の約半年間の努力も虚しく、ホテルの稼働率は3月には40%、4月には20%まで急落してしまいました。この状況を乗り越えるためには合計280億円の資金調達を必要としました。
将来が見通せない状況の中、社員の不安を払拭するために「公式の情報に基づいて行動する」「冷静に対処をする」「今できる最善を尽くす」「将来に向けた努力を続ける」という4つの情報発信を行いました。
たとえ需要が落ち込んでも、時間が止まるわけではありません。必ず宿泊需要は回復すると信じて耐え忍びながら、今できることをやる。この信念を貫いたおかげでコロナ収束後、特に大きな問題もなく再出発ができました。
日本市場への最適化でグローバルブランドの力を引き出す
ーー貴社の事業内容を教えてください。
村木雄哉:
弊社の事業は、アメリカ発のグローバルブランドである「コンフォート」などのチョイスブランドと、60年以上のホテル運営の実績をもつオリジナルブランドから成り立っています。
チョイスブランドでメインになるのが、宿泊の快適性にフォーカスした「コンフォートホテル」です。快適性の基本となる滞在・睡眠・食事・接客を高いレベルで提供しています。特に、無料の朝食や追加料金なしで利用できるコンフォートライブラリーカフェなどが人気です。
また、オリジナルブランドは創業の地である三重県を中心に「ホテルグリーンパーク」「ホテルエコノ」「シティホテル」などを展開しています。こちらは特定のブランドにこだわらず、地域のニーズや市場環境にあわせた柔軟な運営形態が特徴です。
ーー貴社独自の強みは何でしょうか?
村木雄哉:
弊社の大きな強みは、世界的に有名な「チョイスブランド」の日本展開に成功したことです。これにより、オリジナルブランドだけでは難しかった日本全国への事業展開が実現できました。
ただ、海外ブランドはどんなに有名であっても、日本市場にマッチしなければ成功は成し得ません。私は過去事例を踏まえ、事前にサービス内容や価格を日本市場に合わせて調整した上で、万全の準備を整えてスタートいたしました。
日本で事業展開をするにあたり、細心の注意を払ったのが価格帯です。弊社の理念の一つである「便利でお値打ち、気軽で安心」に照らし合わせ、サービスと価格が最適なバランスになるよう、念入りな調整を繰り返しました。
また、チョイスブランドという一流ブランドを取り扱うことで、常にホテル業界のトレンドに触れられる点も大きな強みです。
業態の多様化と独自の人材育成で、宿泊業界の新たなニーズに応え続ける
ーー今後、特に注力したいと考えていることは何ですか?
村木雄哉:
しばらくはチョイスブランドの成長に注力しようと考えており、そのためにニーズに合わせたホテルの多様化を行っています。
同ブランドは今日まで宿泊特化型ホテルとして成長を続けてきましたが、今後はインバウンドによるレジャー需要の増加にも対応していく必要があります。そこでツインルーム割合を多くした独自性を持たせた新ブランド「コンフォートホテルERA」「Ascend Hotel Collection(TM)」などをスタートいたしました。
ーー人材の確保や育成に向けて、どのような取り組みをしていますか?
村木雄哉:
2019年の中期経営計画策定時に、今後の人材不足への対応が必要と考え、採用と分けて、人材育成に特化した人財戦略室を設置し、限られた人材を大切に育てるリソースをしっかり整えて来ました。
今年「Greens Criteria(グリーンズクライテリア)」という弊社独自の人財要件定義を設定しました。これは理想とする人材像を明文化したもので、人事評価と連動させることで企業理念への合致を担保しながら働き方の柔軟性を高める効果が期待できます。
私はこうした取り組みを通じて、弊社を「変化や挑戦を続ける会社」として成長させたいと思っています。社長就任当時に掲げた「新たな旅に踏み出そう」という経営ビジョンを体現し、変わり続ける環境の中でも前に進み続けられる組織であれば、きっとこれからも安泰でいられることでしょう。
編集後記
グリーンズのこれまでの歩みからは、ブランド力を最大限活用するための柔軟性と、成長へとつなげる将来性が感じられた。グローバルブランドを日本で最適化してきた村木社長が、今後どのようなホテル体験を生み出すのか、その可能性に期待が高まるばかりだ。
村木雄哉/三重県出身。青山学院大学卒業。1997年株式会社グリーンズ入社。2001年取締役就任。「コンフォート」ブランドの日本展開を推進し、グローバルブランドを展開する中間料金帯ホテルチェーンにおいて全国展開に成功。2018年株式会社グリーンズ代表取締役社長に就任し現在に至る。2024年11月現在、全国で117ホテルを運営。