※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

ロングセラー商品「ファミリーカップシリーズ」などの家庭用のジャムやクリームに加え、パンや和洋菓子の業務用フィリング(詰め物)の開発・製造を手掛けるソントンホールディングス株式会社。その歴史は大正後期にさかのぼる。

当時、日本人の栄養不足を改善するためにピーナッツバターを製造していたアメリカ人宣教師J・B・ソーントン師の思いに共鳴した創業者の石川郁二郎氏が、製造技術を譲り受けたことが始まりだ。そしてその社名は創業者が師事したソーントン師に由来する。

創業者である祖父の意志を受け継ぎつつ、ラインナップを拡充し、アジア市場への事業拡大を目指している代表取締役社長の石川紳一郎氏に、同社の強みや今後の展望についてうかがった。

スピード感ある商品開発と多彩な品揃え BtoB事業の成功戦略

ーー社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。

石川紳一郎:
幼少期から社長だった父の姿を見て育ち、食卓にもソントンの商品が並んでいたため、自然に馴染みがありましたが、当時は家業を継ぐという意識はありませんでした。しかし、入社後、工場、営業、開発など社内のさまざまな部署を経験するうちに、徐々に会社を継ぐ意識が芽生えてきたように思います。その後、東京営業部長や東京支店長を経て、1993年に社長に就任しました。

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

石川紳一郎:
弊社では「ファミリーカップシリーズ」や「シュガートーストシリーズ」に代表される家庭用食品事業に加え、大手パンメーカーやカフェチェーン向けのフィリングを製造する業務用食品事業も展開しており、現在はBtoBの事業が全体の8割を占めています。

具体的には、企業向けのフラワーペーストやジャム、あんこやカレーなどを製造し、取引先からの要望に合わせて年間約2,000種類の商品を開発しています。商品の入れ替わりが激しいコンビニエンスストアの動きに対応し、大手の製菓製パンメーカーも次々と新商品を開発しているため、私たちもそれに合わせて迅速にフィリングの開発を進めています。

弊社の強みは豊富な品揃えと、長年培ってきたノウハウを生かした多様で柔軟な対応力です。また、安全第一で品質を徹底的に追求しているため、取引先から厚い信頼を得ていることが、弊社の誇りです。

「失敗も評価する」革新を促す新しい人材育成の仕組み

ーー貴社で働く魅力はどんなところにあるとお考えですか。

石川紳一郎:
弊社は個性を活かせる職場だと思います。たとえば、営業が「売れる」と感じたスイーツをお客様に提案し、ニーズがあれば開発部門がその商品を開発するなど、社員一人ひとりが自分の考えを形にできる環境があります。自分の存在感を高められ、やりがいを感じることができると思います。

評価制度も弊社の特徴の一つです。以前は結果で評価していましたが、それでは失敗を恐れて新しい挑戦が生まれにくいと思い、1年ほど前から行動評価を取り入れたのです。

役職ごとに評価する行動基準を具体的に設定し、結果だけでなくプロセスも評価する仕組みに変えました。失敗しても挑戦した社員を評価することで、革新的なアイデアが生まれやすくなっています。今後は、社内報に失敗談を掲載し、優れたチャレンジを表彰することも考えています。

ーー採用選考での取り組みや社内のコミュニケーションについて、お聞かせください。

石川紳一郎:
採用選考で重視していることは、若手技術者や営業社員との就職相談形式の面談を通じて、仕事内容をありのままに伝えることです。内定後には、職場見学や社員との交流の場を設けています。

採用に関しては、現場の社員が協力的に動いてくれていて非常にありがたいですね。また、入社後は半年間かけて各部署を回り、社内のコミュニケーションを深めることにも注力しています。

さらに、嬉しいことに、一度退職した社員が弊社の魅力を再認識して再入社するというケースがこれまでに3件ほどありました。元の上司が戻るように交渉してくれるなど、社員同士の強い絆を感じ、大変感動しています。

高品質でおいしいフィリングを世界へ

ーー最後に、海外展開や今後の展望について教えてください。

石川紳一郎:
現在、インドネシアで事業を展開しており、今後さらなる拡大を目指しています。安全で高品質な商品をつくるだけでなく、衛生管理が行き届いていないことも多い現地の取引先に対して、衛生指導も行なっています。この取り組みにより、現地での信頼が少しずつ高まり、私たちの存在が徐々に認められてきていると感じます。

先日視察したインドネシアでの展示会では、弊社のブースで提供した試食品が非常に好評で、多くの来場者が集まっていて感銘を受けました。現地の駐在員たちもモチベーションが高く、大変頼もしく感じています。

国内においては、2028年には新工場設立を予定しており、用地の確保が完了したところです。新しい技術の導入や生産能力の向上を目指して、現在準備を進めている段階です。

編集後記

一度退職した社員が戻ってきたことや、インドネシアの展示会で自社のブースが大きな人気を集めたことを感動体験として語った石川社長。その言葉からは、社員や会社を深く愛する姿勢がひしひしと伝わってきた。

創業当時から変わらない理念「健康で豊かな食文化」を支えるため、安心安全な商品づくりに取り組んできたソントンホールディングス株式会社。現状に甘んじることなく、自覚・自立・自発の精神を掲げて、世界市場へ新たな商品を送り出し、今一度メーカーの原点に立ち返ることを目指すという。石川社長のリーダーシップのもと、ソントンはこれからも世界中にそのおいしさを届けてくれるだろう。

石川紳一郎/1954年生まれ。東京農業大学卒業後、1981年にソントン食品工業株式会社に入社。1993年、代表取締役社長に就任。2013年よりソントンホールディングス株式会社に社名変更。