
三重県に本社を置く中央物流株式会社の代表取締役社長を務める平賀憲人氏は、証券会社出身という経歴を持つ。トラック運転手だった女性を常務に就任させるなど、社員のやる気や実力を第一に考えた人材戦略を手がけ、新ビジネスに果敢に挑戦するなど同社の経営を軌道に乗せてきた。平賀社長に、将来につながる戦略や思い、展望などをうかがった。
成績トップの証券マンから物流会社の経営者へ
ーー経営者になるまでの経緯をお聞かせください。
平賀憲人:
もともと資産形成や資産の増やし方に興味があり、祖父が株好きだったこともあって、バブルの真っ只中に新卒で証券マンとしてのキャリアをスタートしました。もともと出世欲があったわけではありませんが、いざその世界に足を踏み入れると、負けるのが嫌でがむしゃらに働きましたね。結果的に、毎月の成績で1位を取るようになり、月末前になると同僚の営業成績をチェックし、さらに上を目指していました。
ーー証券マンとして成功を収めた要因はどこにあったのでしょうか?
平賀憲人:
成功の要因のひとつは、日頃から小さな努力を積み重ねたことです。また、銘柄ごとの値動きを予測する中で、リスクとリターンを冷静に分析し、高い確率で利益を出せたことも大きな要因だと思います。現在は経営者として会社を預かる立場ですが、証券会社時代に培った競争心や地道な努力の大切さが、今の私を支えているのです。
ーー証券の世界から、物流業界で起業をしようと考えたきっかけについて教えてください。
平賀憲人:
物流業界は起業の規制が比較的緩く、自分でも物流業界で挑戦できるのではないかと思いました。しかし、実際に起業して物流業界に参入してみると、時代の流れとともに運送業界の規制が強化され、結果的に厳しい規制の中で勝負しなければならなくなったのです。
最初は知り合いの物流会社で勉強させていただき、数年間修業したのちに有限会社として独立しました。その後、合併や吸収を繰り返し、今に至ります。
社員の思いに支えられ困難を乗り越えた経験
ーー起業してからこれまでに体験した中で最大のピンチについて教えてください。
平賀憲人:
これまでで一番の大きなピンチは、予定していた3億円規模の融資が土壇場でなくなったことです。弊社を強力にバックアップしてくださっていたある会社の専務に、事業拡大の相談をさせていただきました。
当初、その方の後押しがあり、弊社に融資が決まって準備を進めていたのですが、融資の約1週間前にその方が急死されたのです。当然、進んでいた融資の話もなくなり、悲しむ間もなく急遽資金繰りに奔走しなければなりません。このピンチは、経営には何が起こるかわからないと痛感した出来事でした。
ーー大きな困難を乗り越えてきた中で忘れられないエピソードはありますか?
平賀憲人:
今でも忘れられないのは、金策に走り回り、途方に暮れていたときのことです。社員が自分の貯金や親から借りたお金を集めてくれたのです。「会社を何とかしたい」と思っていたのは自分だけではなかったと、社員も一緒に考えてくれていたことに、大きな勇気と力をもらいました。
物流から喫茶店フランチャイズ事業まで多角的な事業展開への情熱と戦略

ーー物流会社でありながら飲食店や喫茶店事業を展開されています。その辺りも詳しくお聞かせください。
平賀憲人:
現在、弊社では群馬県に喫茶店「コメダ珈琲店」のフランチャイズ店舗をオープンさせました。1号店の開店から3年強かけて3店舗まで拡大させ、現在は群馬だけでなく福島と東京にも店舗を構えています。ちなみに、「コメダ珈琲店」の全国各地の店舗の中で、覆面調査員による評価が高かった5店舗のうち、2店舗は弊社が運営している店舗です。
ーーなぜ、物流事業ではなく飲食事業に参入されたのでしょうか?
平賀憲人:
群馬県館林市に倉庫を借りて展開していた関東事業所では、東日本大震災やリーマン・ショックをきっかけに大口取引先がなくなり、売上が激減してしまいました。
何とか起死回生を図るために、物流以外の事業も視野に入れて何かアイデアはないかと社員に相談したときのことです。トラックの運転手を経て事務職をしていた女性社員が「『コメダ珈琲店』が好きだから、やりたい」と言ったのです。あまりにも単純明快な動機に、「好きだったら飲食店もできるのでは」と光を感じました。今では、その彼女が専務として弊社の責任者となり、飲食事業を担っています。
弊社の「コメダ珈琲店」のフランチャイズ事業は、今では収益のかなりのウエイトを占めています。これは、経営に大きなインパクトとなる決断でした。
ーー経営者として大切にしていることは何ですか?
平賀憲人:
弊社には熱意ある社員が多く、彼ら彼女らの力を存分に発揮させるために、「トップダウンではビジネスを進めない」と心に決めています。私が何かを指示している限り、それ以上の成果は期待できません。社員一人ひとりが自分の判断や思いで動くことができれば、想像以上の力を発揮すると考えています。
私が重要視していることは、採用時や社員を評価する際に結果にコミットできているかどうかです。成果主義や実力主義というと厳しい印象を受ける方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。だからこそ見えるやりがいや、成長が感じられるはずです。社員自身の行動と成果、それに対する評価が見合うものになるべきだと思いながら経営に取り組んでいます。
ーー今後の事業展開についてお聞かせください。
平賀憲人:
現在、具体的に進めているのは結婚相談所事業です。また、イベント・エンターテイメント事業にも取り組んでおり、少しずつ準備を進めています。引き続き、飲食事業にも力を入れていく予定です。
今の会社があるのは、社員一人ひとりが夢を追いかけ、全力で取り組んでいるからだと感じています。今後も、社員が夢を持ち続けられる企業として成長し続けるために、挑戦し続ける決意です。
編集後記
融資の突然の頓挫という困難を、従業員の支えで乗り越えた経験を持つ平賀社長。社員一人ひとりへの信頼と、社員の力が会社の力になるという信念が、インタビューの言葉の端々に感じられた。予測困難な時代だからこそ、柔軟性と人の力を大切にして事業を展開できることが、成長する企業の鍵であると改めて気づかされた。

平賀憲人/1964年、三重県四日市市生まれ。大東文化大学を卒業後、バブル真っ只中に証券会社に就職、10年弱で退職し物流業界で起業しようと弊社の前身である物流会社に就職。ノウハウを得て4年後に起業、お世話になった物流会社と合併し、現在の中央物流株式会社となる。その後、社員から、やりたいことを募集しカレーハウス おに家・コメダ珈琲店・焼肉ライク・人材派遣・投資運用業等を開始。