
コロナ禍で多くのホテルが苦境に立たされる中、団結力と集客力を強みに乗り越えたのが株式会社アベストコーポレーションだ。北海道から沖縄まで日本全国にホテルを展開しており、現在もさらなる拡大を目指している。
同社の代表取締役、松山みさお氏は、ホテル業界未経験から事業の拡大に成功した人物。業界の知識ゼロでコロナ禍を乗り越えた同氏の経営観とは、一体どのようなものなのか。同社の強みや社内での取り組み、今後の展望をうかがった。
ウィークリーマンション経営の経験を活かしてホテル経営に挑戦
ーー社長就任の経緯を聞かせてください。
松山みさお:
もともと夫から引き継いだウィークリーマンション事業の会社を経営していたのですが、お客様から「1週間や1ヶ月ではなく、もっと短期・単発で泊まれる施設がほしい」という声をいただくようになりました。そこで「それならホテル事業を始めたら良いのでは」と考えたのが、現在のアベストコーポレーションの始まりです。
ホテル経営を始めた当初は、メンバー全員がホテル業界素人でした。しかし、ウィークリーマンション経営を通して集客には自信があったので、そのノウハウを使ってどんどんお客様を増やすことができました。
ーー未経験からホテルを経営することになり、困難なこともあったのでは。
松山みさお:
私自身が楽観的で他人ができていることは自分もできると思っています。しかし一番大事なのは「社員力」で当社であればどんな壁でも乗り越えられる自信がありました。
最初、ホテル業界経験者も弊社に入社しましたが、逆に「ホテルはこうあるべきだ」という固定観念があり、他と違ったホテル作りをしたい思いと正反対でした。
そこで、まずは私たちがつくりたいホテルというものをメンバーですり合わせし、それから今までのノウハウを活かして集客を進めたところ、お客様が順調に増加。結果として、リピーターの獲得にもつなげることができました。
ーーコロナ禍の経営状況はどうでしたか。
松山みさお:
2021年の売上は通常時の3分の1以下で、本当に苦しい状況でした。ただ、社員を辞めさせたくない思いが強くあり、赤字になりながらも社員たちの給料やそのほかの支払いは絶対に遅らせないようにしていました。
また、コロナ禍に守りと攻めの経営で新規ホテル5棟約1000室をオープンさせました。コロナ禍でみんなのメンタルが弱っていましたが、みんなも私も元気に「ピンチをチャンスに変える!」を合言葉に潰れない範囲で攻めの経営をしてきました。部屋数2倍の1000室に増やし不安もありましたが人を守る=活躍の場を増やす事が社員力を高めることになりました。
より良いホテルにするために必要なのは、スタッフが幸せに働ける環境

ーー貴社の強みについて教えてください。
松山みさお:
弊社は離職率が低く、結束が強い組織だと感じています。たとえばレストラン部門が忙しければほかの部門からスタッフを派遣したり、部署の垣根を超え、助け合いながら運営しています。
今までの弊社の歴史やストーリーを理解しているメンバーが多いからこそ、結束が強く、お互いに助け合い、サービスの品質を高く保つことができているのだと思っています。
ーー結束を強めるために、どういった取り組みをしていますか。
松山みさお:
取り組みの1つが、新入社員が入社したら、役職者と新入社員がペアを組む「ブラザー制度」です。役職者が会社のことを教えたり、場合によってはプライベートの相談に乗ることもあります。
また、スタッフが幸せに働くために最も重要なことは福利厚生だと考えています。そのため弊社では、スタッフ自身やその家族の誕生日、結婚記念日にはお祝い金や図書カード、お花やケーキを持って早帰りしてもらい家族でお祝いの時間を大切にしてもらいます。他にも勤続祝いとして3年ごとにお祝い金を渡し、ボーナスを年3回支給するなど、福利厚生の充実に努めているところです。
また、神戸ポートタワーホテルでは今夏に宿泊者専用のスナックをオープンしました。目的はお客様とのエンゲージメント向上と従業員満足度向上です。スナックでは、ホテルに勤務する社員が男女問わずママとなりお客様と歌を歌ったりおしゃべりしたりお客様とのコミュニケーションを増やす場としています。普段接しない社員同士の交流の場となることの他にも、お客様とも仲良くなり、カラオケの練習にもなって楽しいととても好評です。もっとみんなで遊びたいという声から就業時間内に部署でお弁当付きのカラオケ(2時間)ができるという福利厚生もできました。
粋な接客のホテル「粋SUI」の拡大と社会貢献活動に注力したい
ーー今後の展望をお願いします。
松山みさお:
「粋SUI(スイ)」シリーズのホテルを増やしていきたいと考えています。「粋SUI」は江戸時代の文化が育んだ美意識、洗練された心配りをコンセプトにしており、チェックアウト時は法被を着用し旅の安全と成功を祈る気持ちで切り火と元気よくいってらっしゃいませ!のお見送りを大切にしています。日本のお客様だけでなく、海外のお客様からも非常に興味を持たれており、今後も数を増やしていきたいです。
また、ホテル拡大に必要なことは、採用だと考えています。長く働いてくれる、できれば若手の人を採用して育てていけたらなと思います。思考力(おもいっきり思い、おもいっきり考える)、熱意、笑顔があり、人と話すのが好きな人に来てもらえると嬉しいです。
また、弊社は行政とともに行う仕事も多くあります。自治体と協力して子ども食堂を開くなど、社会貢献につながる仕組みの構築にも力を入れていけたらと思っています。
編集後記
社員全員が財務会議に参加するなど、当事者意識を根付かせる取り組みも欠かさないアベストコーポレーション。同社の強い団結力の背景には、松山社長の高いマネージメント力があることがうかがえる。人々にくつろぎと安らぎを与えながらも、スタッフの幸福も追求する同社は、顧客と社員の両方を大切にする企業のあるべき姿だと感じた。

松山みさお/1970年生まれ。兵庫県出身。21歳で結婚し2児の育児をしながら不動産の仕事を経験し宅地建物取引士を取得。2003年にアベストコーポレーションを設立し、代表取締役に就任。2010年、神戸市より賃借し、神戸ポートタワーホテルを運営開始。2012年、神戸市・神戸港振興協会より神戸ポートタワーホテルを取得。現在21棟のホテルを運営。