「テクノロジーでいつどこでも必要な医療が受けられる世界をつくる」をミッションに掲げ、デジタル病理支援AI搭載クラウドシステム「PidPort」の開発・提供を行うメドメイン株式会社。2018年1月の設立以来、日本国内で大学病院を有する大学の50%以上で採用される独自のAI搭載クラウドシステムを開発し、国内外から注目を集めている。
創業から7期目を迎え、さらなる飛躍を目指す同社の代表取締役CEOである飯塚統氏に、これまでの歩みと今後の展望について話をうかがった。
医療とテクノロジーの融合を目指して
ーー当初は医師を目指していたそうですが、そのきっかけを教えてください。
飯塚統:
私は昔から科学が好きで、物理学者になりたいと思っていました。一方で、体が弱く、腎臓病で長期入院を経験したり、けがで手術を受けたりと、病院にお世話になることが多かったのです。そうした経験から、医療の世界で人に貢献できる仕事がしたいと思うようになり、研究医を目指して九州大学医学部に入学しました。
入学後は、早い段階から研究室に所属し、医学研究に携わる機会を得ました。研究を進める中で、データ解析のためにプログラミングスキルが必要不可欠だと気づき、独学で学び始めたのです。それが後の事業につながる重要なスキルとなりましたね。
ーー学生時代にアプリ開発を始めたそうですね。
飯塚統:
大学での研究活動を通じて、プログラミング自体に面白さを感じるようになりました。医療現場を見ていると、「こんなアプリがあれば便利になるのに」といった思いが湧いてきて、医療現場向けのシステムやアプリを開発し始めたのです。その中の一つが、現在の弊社の主力製品であるPidPort(ピッドポート)のプロトタイプでした。
当時、細胞の動きを追跡するアプリをつくっていたのですが、それを見た大学教授から「病理診断に応用できるのではないか」というアドバイスをいただいたのです。その後、開発したアプリをシリコンバレーのピッチコンテスト「Live Sharks Tank」で発表する機会があり、そこで優勝することができました。
これをきっかけに出資の話もいただくなかで、医療機関が安心して使えるシステムにするためには、個人の開発者が作ったアプリではなく、継続的に運営・サポートできる体制が必要だと考えるようになりました。そこで、会社という組織で運営していくべきだと思い、九州大学の学生4人で弊社を立ち上げたのです。
独自のAI技術と豊富なデータで医療現場を改善
ーー貴社の強みについて教えてください。
飯塚統:
弊社の強みは、独自のAI開発技術と、豊富な医療データの蓄積にあります。PidPortは、AIによる病理画像解析、施設間連携によるコラボレーション機能、病理標本データのデジタル保管庫という3つの主要機能を持っています。また、AIの学習に使用するデータは、日本国内の大学病院を持つ82大学のうち、4分の1にあたる23大学から協力をいただいていることも、大きな差別化のポイントになっています。
特に、病理という領域は人材が不足しており、AIによる支援の需要が非常に高いのです。私たちのシステムは、医療機関の業務効率化や診断支援だけでなく、製薬企業における創薬支援にも需要があると感じています。
ーーPidPortの現在の導入状況はいかがでしょうか。
飯塚統:
現在、日本の大学病院を有する大学の55%でPidPortを導入いただいています。医療業界では、どの施設で利用されているか、どの先生が使っているかといった実績が重要視されます。そのため、先生方の口コミで広がっていくケースも多いですね。また、国内だけでなく、海外からも注目されており、東南アジアやアメリカなどでも展開を始めています。
しかし、海外展開にはそれぞれの国や地域特有の課題もあります。たとえば、開発途上国では先進国とは異なる医療の課題があります。病理診断があまり行われていない地域もあり、そういった場所では私たちの技術が大きな支援になると考えています。
人類の課題解決に向けた挑戦
ーーグローバル展開への取り組みについて教えてください。
飯塚統:
弊社は福岡で創業しましたが、当初から九州や日本の課題解決だけではなく、グローバルに人類の課題解決につながるような事業を目指していました。事業展開を検討する際は、地球儀を見ながら、どの地域でビジネスを立ち上げるのが効果的か、どこにニーズがありそうかを考えています。
今後、グローバル展開を進める上で、重要な戦略の一つが現地企業との提携ですね。医療業界では、すでに医療機関向けにシステムを提供している大手企業が多くあるので、販売パートナーとして提携し、一緒に展開していくことで、より迅速な普及を目指しています。国内では福岡本社と東京オフィス、海外にはシリコンバレーにも拠点を構え、事業展開を進めています。
グローバル展開を進めている中で、外国籍の従業員も多く、社内の英語でのコミュニケーションを促進するため、外国語学習支援制度を設けています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
飯塚統:
10年後には、弊社の事業領域のほとんどの医療機関で弊社の製品を使っていただけるようになることを目指しています。また今後、海外市場での売上も高めていきたいですね。そのためにも、常に新しい技術や製品の開発に取り組んでいます。
これまでに胃、大腸、肺、膵臓(すいぞう)、子宮頸部、乳腺、前立腺、皮膚など、さまざまな臓器を対象としてがんの検出が可能な病理AIの開発を行ってきました。これからも医療現場のニーズに応え、より多くの人々に貢献できるよう、挑戦を続けていきます。
私たちの目標は、インパクトのある事業を通じて、世界中の医療課題の解決に貢献することです。私自身の病気の経験も原動力となっており、人類への貢献を目指して、医療のデジタル化と診断支援の未来を切り開いていきたいと思います。
編集後記
飯塚CEOの熱意と先見性が、医療とAIの融合という新しい領域を切り開いている。自身の闘病経験が、世界の医療課題の解決につながる可能性を秘めており、その壮大な構想に心を打たれた。創業からわずか7期目で、日本の大学病院を有する大学の半数近くに導入されるまでになった「PidPort」。今後の海外展開を通じて、世界の医療にどのような変革をもたらすのか。メドメインの今後が楽しみでならない。
飯塚統/九州大学医学部医学科在学中に、深層学習や機械学習・Webを中心とした多くのソフトウェア開発を行う。ソフトウェアエンジニアとしてベンチャー企業勤務、シリコンバレーのピッチコンテスト優勝を経て、2018年に医療AIスタートアップのメドメイン株式会社を創業。Forbes 30 Under 30 Asia、総務大臣賞など受賞。