IT業界では即戦力人材の確保が課題となり、多くの企業が中途採用に傾注している。そんな中、新卒採用と人材育成に独自の哲学を持ち、25年にわたり着実な成長を遂げている企業がある。1997年の創業以来、大手コンピューターメーカーでの経験を活かし、独自の企業文化を築いてきた株式会社ソルパックだ。売上高44.5億円規模に成長した現在も、「ありがとうと言われる会社」という創業時からの理念を大切にしている。
今回は、2代目として経営を担う代表取締役社長の藤田洋一郎氏に、同社の経営哲学と次世代に向けた新たな挑戦について話を聞いた。
技術力と経験を活かした独自の企業文化
ーー創業から現在までの事業展開について、お聞かせください。
藤田洋一郎:
弊社は1997年、AS/400(エーエス400:企業の基幹業務に使用される大型コンピューター)のヘルプデスク業務を担う会社として、7名でスタートしました。創業者である父はIBMでのキャリアを経て、57歳で起業し、現在の基盤を築きました。私は社長に就任して7年が経ちますが、それ以前の2001年から事業に携わってきました。
創業当初はIBM i(アイビーエムアイ:AS/400の後継システム)を中心に事業を展開していましたが、現在では中堅・中小企業のお客様を対象に業務の分析やコンサルティングを行い、ITを活用した最適な業務スタイルを提案する形へと発展しています。
IBM・SAPを含めたシステムの開発運用サービスや、大手外資系企業のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを中心としながらも、AIやRPA(ロボティックプロセスオートメーション)、セキュリティ関連事業、さらにはスマホアプリ開発など新たなビジネス領域にも積極的に取り組んでいます。
規模の割には特定分野に特化せず、上流から下流まで幅広くビジネスを展開している点が弊社の特徴です。お客様の課題に寄り添い、業務効率化と成長を支援するパートナーとして、多様なサービスを提供しています。
ーー事業拡大の背景には、どのような戦略があったのでしょうか。
藤田洋一郎:
伸びる分野を見極めて展開してきた部分と、お客様からのご要望に応える形で広がってきた部分の両方があります。たとえば、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング:業務プロセスの改善を含めた包括的な業務受託サービス)は、20年前に将来性を見込んで参入しましたが、今では核となる事業にまで成長しています。
新卒採用へのこだわりが生む持続的成長
ーー人材採用について、特徴的な方針をお持ちだとうかがいました。
藤田洋一郎:
中途採用にはほとんど依存せず、新卒採用を軸にしています。リファラル採用で知人や社員の家族が中途入社するケースもありますが、基本は新卒を採用し、時間をかけて育てていく方針です。
多くの企業が即戦力となるエンジニアを中途採用で確保しようとしていますが、私たちは、必要に応じてパートナー企業と協力しながら、自社では新卒社員をゼロから育てることに注力しています。それが私たちの一貫したスタンスです。
ーー新卒採用にこだわる理由をお聞かせください。
藤田洋一郎:
ITは本質的にサービス業であり、プログラミングスキル以上に気配りのできる人材が重要だと考えています。また、大手企業で短期間で離職するケースが多い中、私たちは中小企業だからこそできる「育てる採用」を実践しています。文系理系を問わず、じっくりと成長できる環境を提供することで、離職率の低い安定した組織づくりを目指しています。
新卒採用には私自身が会社紹介の段階から関わっています。入社後も社員一人ひとりの顔が見える状態を保ち、どんな仕事をしているのかまで把握できていることは、弊社の大きな強みだと考えています。社員全員とまではいきませんが、新卒採用の200人については、その成長を直接見守れる環境が整っています。
事業部制と若手登用で実現する新たな挑戦
ーー貴社の組織体制の特徴について教えてください。
藤田洋一郎:
核になる事業を独立させ、そこからさらに派生する形で成長を促しています。これはIBM iを担当する部署や、BPO部門など、それぞれの事業特性に合わせた成長を可能にするためです。売上や利益率、成長性は事業ごとに異なりますが、利益を事業評価の基準としています。
また、若手を積極的に登用し、事業責任を担わせています。以前はベテランが担当していた部署にも、30代後半のプロパー社員を抜擢して約20歳の若返りを実現しました。権限を移譲した結果、1年目から利益を創出し、2年目も好調を維持しています。自社で育てた人材が会社とともに成長すること、それが私たちの目指す理想の姿です。
社員とその家族が誇れる会社を目指して
ーー社員が働きやすい環境づくりについて、具体的な取り組みをお聞かせください。
藤田洋一郎:
社員旅行を毎年実施しています。最近では台湾、今年は石垣島へ行きました。特徴的なのは、お子さんも無料で参加できることです。会社と家族を切り離すのではなく、働く人たちが自分の子どもたちに胸を張って紹介できる会社でありたいという思いから、そうしています。
ITの仕事はリモートワークが可能で、時間の使い方に柔軟性があります。家事や育児をしながらでも長期的に働ける環境づくりを目指しています。ウェットすぎず、ドライすぎない、バランスの取れた関係性を大切にしています。
柔軟性と拡張性を追求する未来戦略
ーー未来に向けた展望はどのようにお考えでしょうか。
藤田洋一郎:
1人のスタッフが1つの業務を担当する形から、1つの仕組みで複数のお客様に価値を提供できる、より柔軟で拡張性の高いサービスを目指したいと考えています。そのために、量子コンピューターをはじめとする最先端技術の動向も常に注視しています。
また、経営学部の学生に向けて、文系でもITが活用できる理由や、大企業と中小企業それぞれの特徴について講義を行っています。中小企業におけるITの現場では、学びながら成長できる環境が整っていることも特徴です。ITが得意でなくても、チャレンジする価値はある、と伝えています。
編集後記
取材を通じて印象的だったのは、「ありがとうと言われる会社」という理念が、具体的な施策として実践されている点だ。社員旅行への家族招待やスポーツイベントの開催は、一見すると古風に思えるが、そこには従業員とその家族が誇れる会社をつくるという明確な意図があった。
四半世紀という歳月をかけて築き上げた「人を育てる文化」は、確実に次世代へと受け継がれるだろう。社員とともに成長を続ける同社の取り組みは、IT業界における新たな企業像を示している。
藤田洋一郎/1972年東京都生まれ。大学卒業後、1997年建設会社に入社。4年間の修行を経て2001年に株式会社ソルパックへ入社。2010年同社取締役およびソルパックタイランド社長に就任。2018年に同社代表取締役社長に就任。