※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

現金決済が主流の日本で、銀行口座から直接支払いを可能にする「デジタル現金払い」という革新的なソリューションが注目を集めている。グローバルな視点と独自の技術で、日本の決済文化の変革に挑んでいるのが株式会社Jammである。同社を創業したニューヨーク育ちの代表取締役、橋爪捷氏が描く、キャッシュレス社会への青写真とは──。

多文化環境で培われた挑戦の精神

ーー橋爪社長はどのような幼少期を過ごしたのですか?

橋爪捷:
実家がニューヨークで日本料理店を経営しており、私もニューヨークで生まれました。家庭では日本語、外では英語というバイリンガル環境で育ちました。このような多文化的な背景は、私の視野を広げ、挑戦する意欲を育む助けとなったと思います。

大学はペンシルベニア大学ウォートン校でビジネスを専攻しました。在学中、効率的な米国の決済システムに触れ、日本との格差を感じたことが、将来日本で金融と情報技術の融合であるフィンテック分野に挑戦しようと考えるようになったきっかけです。

ーー大学卒業後のキャリアについて教えてください。

橋爪捷:
卒業後はマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、さまざまな業界の経営課題に取り組む中で、日本市場の構造的な問題に気づくことができました。特に、金融サービス分野では、高額な決済手数料や現金依存による非効率性が顕著であり、この分野で自ら解決策を提供したいと感じましたね。この思いが、Jamm設立の原動力になったのです。

決済革命への情熱と起業

ーーJammを設立した経緯をお聞かせください。

橋爪捷:
日本のキャッシュレス化の遅れに課題を強く感じたことです。私はアメリカで過ごす中で、フィンテックが日常生活に与える利便性を目の当たりにしてきました。一方、日本は現金中心の取引が依然として主流であり、クレジットカードの手数料が事業者に重い負担をかけています。

こうした背景から、手数料を削減し、簡単かつ安心な決済手段を提供するサービスを構築しようと考えました。それが弊社が取り扱っている「デジタル現金払い!Jamm」というサービスです。

ーー具体的なサービス内容とその特徴を教えてください。

橋爪捷:
「デジタル現金払い!Jamm」は、銀行口座から直接支払いを行える決済システムです。ユーザーは顔認証やワンクリック操作で簡単に決済を完了できます。現在、300以上の金融機関と提携し、手数料削減やクレジットカード以外の決済手段の充足を求めるオンライン事業者を中心に導入が進んでいます。

このサービスの強みは、事業者の決済手数料を大幅に削減できる点です。たとえば、低利益率のECサイトでは、わずか数%の手数料でも経営を圧迫しますが、Jammを導入することで、その負担を軽減し、運営を継続することが可能になります。

消費者にとっては、顔認証やワンクリックで支払いが完了する手軽さが魅力です。クレジットカードを持たない若年層や高齢者にも使いやすく、幅広い世代に安心して利用してもらえる仕組みを目指しています。さらにJammで買い物をすると1%の値引きが適用されるため、節約した現金を貯蓄や投資に回すことも可能です。

ーーサービスを提供して感動したことや苦労したことをお聞かせください。

橋爪捷:
今後導入を予定している店舗から「Jammのおかげで、クレジットカードを持たない、持っていてもあまり使わないユーザー層に対しても、自社サービスの提供を拡大できるようになる」との声をいただいていることです。サービス提供を通じて事業者の成長に貢献しうることを実感した瞬間でした。

一方、仲介業者に支払う手数料が削減できる銀行間直接決済という仕組み自体が、日本ではまだ馴染みのないものであるため、今後その導入が進むにつれてさまざまな苦労が予想されます。導入に伴うコストや新しいシステムへの信頼性に対する懸念など、多くの壁が立ちはだかっています。しかし、加盟店側のメリットを丁寧に説明することで理解を深め、金融機関と戦略的に提携していくことで、少しずつ普及を進めています。

新時代の決済インフラを目指して

ーーフィンテック業界の今後の課題を教えてください。

橋爪捷:
私は日本市場の課題は現金やクレカ依存だと考えています。多くの人が現金を使い続ける理由の一つには、クレジットカードが抱える不正利用や情報漏洩のリスクが挙げられます。これが安全性への不信感を生み、特に10代や20代の若年層ではカードを持たない、または利用を控える動きがあります。

一方、コンビニ払いや後払い決済については、支払いの度に店舗に足を運ぶ必要性や、利用可能な場面の限定性といった問題があり、ユーザーに多くの負担を強いるケースも少なくありません。こうした課題を解決し、より安全でスムーズな決済体験を提供する仕組みが急務だと考えています。

ーー貴社の具体的な対応策とビジョンを教えてください。

橋爪捷:
事業者と消費者の双方にメリットをもたらすサービスを広げていきたいと考えています。短期的には加盟店を増やし、Jammを導入することで実現できるコスト削減効果を、より多くの企業に実感してもらうことが目標です。

また、消費者に対しては、事業者との安全で手軽な銀行間直接決済をより身近に提供することを目指しています。これが長期的には日本全体の決済インフラを効率化し、経済の活性化に寄与できると信じています。

「ジャムる」フィンテックがつくる明日の常識

ーー今後の事業展開について教えてください。

橋爪捷:
目標は、5年から10年以内に「ジャムる」という言葉を日常会話に定着させることです。たとえば、「ペイペイ」が決済手段の代名詞となったように、「デジタル現金払いの新常識」としてJammを浸透させたいと考えています。その実現に向けて、営業部門の強化や国際人材の積極採用を進めるとともに、加盟店の拡大に力を入れ、より多くの店舗でJammを利用できる環境を整えていきます。

編集後記

インタビューを通じて印象的だったのは、橋爪社長の「本質を見抜く力」だ。米国で培った国際感覚と、コンサルタント時代の知見をもとに、日本の決済システムが抱える構造的な課題を的確に分析している。そこから導き出された「デジタル現金払い」は、事業者と消費者双方に価値をもたらす画期的なソリューションだ。

新しい決済文化の創造に挑む株式会社Jamm。金融インフラの再構築を通じて、日本経済の競争力向上にも貢献していくだろう。

橋爪捷/ニューヨークの居酒屋「力(りき)」の長男として生まれる。ペンシルベニア大学ウォートン校を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、株式会社estieの事業開発担当として新規事業立ち上げに携わる。日本の現金依存や高い決済手数料の課題に着目し、2023年に銀行間直接決済サービスを提供する株式会社Jammを設立。代表取締役として、決済手数料を削減できるキャッシュレス化を推進し、事業者と消費者の双方に新たな価値を提供している。