※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

食品容器に多く見られるプラスチックと資源問題は切っても切れない関係にある。とはいえ、プラスチック容器が私たちの生活にもたらす恩恵は大きいものだ。株式会社シンギは、そんな業界のジレンマに正面から向き合いつつ、利便性だけではない、食の魅力を引き出す商品作りに注力する会社である。

代表取締役の田中友啓氏は、環境に配慮した商品の製造にとどまらず、商品を使う顧客のブランド価値にまで気を配った「提案型営業」を重視する。シンギの事業がどのような価値を生み出し、どんなビジョンへとつながっていくのか。その取り組みと展望について、田中社長に話を聞いた。

跡取りとして責任を果たすために多くを学び、組織のアップデートに取り組む

ーーまずは経歴についてお聞かせください。

田中友啓:
株式会社シンギは1932年から続く家業です。そのため、私は幼いころから跡継ぎとして育てられ、祖母からの熱心な教えの影響もあって、学生の頃から会社を継ぐことを意識していました。

社会人になってからは、経営者に必要な知識や経験の習得に励みました。まず、大学卒業後に約3年間、アメリカのアリゾナ大学で経営学や経済学などを学び、帰国後にみずほ銀行の営業職として7年間勤務。その後、稲盛和夫氏による経営塾「盛和塾」にも参加し、会社が持つべき倫理観や責任について学びました。盛和塾で学んだ「会社の存在意義は利益ではない」という価値観は、今でも私の経営理念に反映されています。

シンギに入社したのは2003年のことで、入社後は広島支店長と大阪支店長を務めたのち、2014年に父の跡を継いで3代目社長に就任しました。

ーー社長に就任してから、特に注力したことを教えてください。

田中友啓:
社長就任後に特に注力したのが、理念の明確化と組織への浸透です。当時は社員たちが「顧客第一主義」という理念の真意を理解できていない状態だったので、私が盛和塾で学んだことや、シンクタンクの日本生産性本部による「経営品質の考え方」を取り入れながら、理念を浸透させる仕組みをつくっていきました。

また、顧客に対する営業の姿勢も見直しました。当時の顧客の意見を絶対とした「御用聞き営業」では、持続可能な関係を構築できないと感じ、顧客と一緒に商品を作り上げていく「提案型営業」へと転換を図ったのです。これによって顧客との関係をより深化させ、結びつきを強固なものにしてきました。

私は、仕事を楽しく続けるには、給与や福利厚生といった「制度」に加え「働きがい」が大切だと考えています。そのためにも仕事をする意味を理解し、目的意識を持って働いてほしいのです。

「食を彩る役割」を果たしつつ「環境への配慮」にも最大限取り組む

ーー貴社の事業内容について教えてください。

田中友啓:
弊社の主な事業は、紙器および、プラスチック製食品容器の企画・製造・販売です。その他に、業務用の急速凍結機の代理店や食品検査サービスなども行っています。

弊社の容器は、主に駅弁やデパ地下のお弁当、スポーツスタジアムのフードなどに使われています。特別なシーンにふさわしいパッケージを作ることで、体験との一体感を演出することにこだわっています。また、本社がある広島県のお好み焼き店などでは、環境に配慮した水滴が付きにくい弊社のパッケージが活用されていますね。

弊社は、食品容器を販売する会社として自然環境に責任を持つことが大切だと考えており、環境負荷の少ない容器作りに取り組んでいます。環境に配慮した容器の例としては、世界一成長の早い木として知られるファルカタ材を使った「エコウッド」や、紙や植物繊維などを使った「バガスモールド」、CO2削減や海洋プラスチック問題に配慮したリサイクルプラスチックを使用した容器などがあります。

ーー貴社独自の強みは何でしょうか。

田中友啓:
弊社の強みは「豊富な品ぞろえ」と「提案力」です。弊社では約20万種類という膨大なラインナップから顧客のニーズに応じた最適な提案が可能で、必要に応じて国内外1,000社以上の仕入れ先から商品を調達することも可能です。

さらに、SDGsの重要性がますます高まっている現代において、顧客のブランド価値を高めるための、環境に配慮した商品を提案できる強みもあります。単なるパッケージ販売にとどまらず、顧客のブランディングや商品価値を高めるためのパートナーであり続けられるように、信頼構築に努めています。

自社の責任や強みを理解し、積極的な顧客価値の創造を目指す

ーー今後、注力したいことを教えてください。

田中友啓:
環境問題への取り組みを強化したいと考えています。廃棄される容器の環境負荷を減らすことは、食品容器を販売する会社として当然果たすべき使命だと思っています。

これは弊社だけの問題ではなく、弊社の商品を使う顧客や、さらにその先にいる一般の消費者にもかかわってくることです。今後はリサイクル業者との連携も進めていき、業界全体で環境に配慮できる仕組みをつくっていきたいですね。

また、事業においては、急速凍結機の総代理店としてのポジションを活かして売上拡大につなげる方針です。急速凍結機は顧客企業の省人化にも効果を発揮するため、国内外に展開して、流通の効率化や食品の品質向上に貢献していきたいと思います。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

田中友啓:
まず短期的な目標としては「顧客価値を創造する会社」という目標を掲げ、社員一人ひとりが自発的に提案できる体制を目指していきます。特に、年々重要度が増している環境問題に対する提案は、社会貢献を果たすために優先すべきことです。

また、長期的な目標としては「Something New(何か新しいこと)」をスローガンに掲げ、常にチャレンジしていく「止まらない会社」でありたいと思います。会社とは止まった瞬間から衰退していくものなので、動き続け、学び続ける姿勢を忘れず、現状維持に甘んじない組織づくりを続けていきます。

編集後記

田中社長が掲げる「提案型営業」は、環境への配慮がブランディングのカギとなる今後、ますます必要性が高まっていくはずだ。「容器」という消費者が接する機会が多い商材だからこそ、その意義は大きい。プラ容器と資源問題の解決の糸口は、きっとシンギのような積極性を持った会社から生まれてくるのだろう。

田中友啓/1970年、大阪府生まれ。小学校〜高校まで広島で過ごす。明治学院大学法学部を卒業。その後、アメリカのアリゾナ大学に編入。帰国後は、みずほ銀行にて営業職として7年間勤務。2003年に株式会社シンギに入社し、広島支店長・大阪支店長を歴任したのち、2014年に代表取締役に就任。