※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

日本の主食であるお米の卸売と食品開発を行う株式会社むらせ。同社は生産者から集めたお米を、用途に合わせて最適な品質で提供するほか、「ソフトブラン玄米」などの加工食品開発にも注力している。生産者の生活を支えながら食文化の発展に貢献する同社の代表取締役社長、村瀬慶太郎氏に話をうかがった。

逆境をバネに挑む、工場の本気改革

ーー貴社へ入社した経緯を教えてください。

村瀬慶太郎:
大学卒業後は家業である弊社には入らず、スポーツ用品を扱う会社に入社しました。そこでの仕事が楽しかったため家業に戻る気はありませんでしたが、26歳で結婚することになり、状況が変わりました。彼女の父親と話した際に「これからどうするのか」と聞かれ、今後のキャリアを考えたときに弊社を継ごうと思ったのです。そこで父に頼み、弊社に入社することとなりました。

入社後4年でグループ企業である株式会社九州むらせの取締役に就任しましたが、これは父の意向でした。早期の就任だったため、役員としての仕事の仕方が分からず、周囲の役員からは厳しい言葉をかけられ、悔しい思いをしたものです。しかし結果として、この逆境が私の仕事へのモチベーションを高めることになりました。

ーーこれまでで特に印象に残っているプロジェクトをお聞かせください。

村瀬慶太郎:
2007年ごろに担当した埼玉の工場の立ち上げです。私は工場の経験がほとんどない状態で工場長を任されたので、生産現場の社員は私の言うことを聞いてくれないだろうという不安がありました。そこで「私1人でもつくれるくらいになろう」と決意し、機械メーカーに何度も足を運び、自ら設計や仕様について議論を重ねました。

特に注力したのは精米したお米の搬送方法です。玄米は空気にのせて運ぶ「エアー搬送」が可能でしたが、精米の場合は割れや傷といったリスクがあるため、容器に入れてコンベアで運ぶ「バケット搬送」が主流でした。しかし、私は効率化のために精米もエアー搬送できないかと考え、約10か月の期間を経て、配管内を加湿するという方法を開発しました。この取り組みを通じて、現場の社員からも「この人は本気だ」と認められるようになりました。

用途に合わせた提案力とブレンド技術で米の常識を打ち破る!

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

村瀬慶太郎:
弊社の主力事業は生産者からお米を集め、さまざまな取引先に販売するというものです。主な販売先はコンビニやスーパー、飲食店などで、売上の9割以上を占めています。

業務用のお米における弊社の強みは、用途に合わせた提案力です。お客様の業態によって求められる品質や特性が異なるため、それに合った品種を提案したり、複数の品種をブレンドして安定した品質を確保したりしています。このブレンドは品質を向上させるために行うもので、コーヒー豆のブレンドと同じ発想ですね。コンビニのお弁当など大量生産が必要な場合に、美味しさを維持しつつ多くのお米を供給するための重要な技術となっています。

ーー食品開発にも力を入れているとうかがいました。

村瀬慶太郎:
食品開発に取り組んでいる理由は、お米に新たな価値をつけるためです。お米は日本の主食であるにもかかわらず、小麦などと比べると加工による付加価値が少ないという現状があります。生産者から適正価格でお米を買い取り、彼らの生活を守るためには、お米の価値を高めていく必要があるのです。

現在は「ソフトブラン玄米」という、玄米の栄養価を保ちながら簡単に炊飯できるよう開発した商品を展開し、多くのお客様からご好評をいただいています。こうした加工食品開発には、他業界の経験を持つ人材で構成される専門チームが、日本の食文化や農業を守るという強い使命感を持って取り組んでくれています。

社員の声を大切にする経営で日本の食と農業の未来を支えていく

ーー人材に関する貴社の特徴的な部分をお聞かせください。

村瀬慶太郎:
社員の意見を積極的に採用し、学び、成長できる会社だと思います。現在進行中の取り組みとして、選抜メンバーによる「次世代経営幹部育成研修」があります。メンバーは関連会社の中から幅広い年齢層で選出し、女性も多数います。これを機に皆どんどん躍進していってほしいと願っています。これからも社員の声を大切に、社歴に関わらず果敢に挑戦できる環境をつくっていきたいです。

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

村瀬慶太郎:
これからの5年間で、加工食品事業を米卸売事業と並ぶ第2の柱に育てていきたいと考えています。さらに10年後を見据えると、日本の農業は担い手不足という課題に直面しているため、生産分野にも関わっていくつもりです。将来的には、生産から販売までの全工程を一貫して手がけられる企業に成長できたら理想的ですね。これからも、お米を通じて日本の食文化と農業の未来を支える企業として、一歩一歩着実に前進してまいります。

編集後記

村瀬社長の言葉の端々に感じられたのは、お米という伝統的な食品に新たな価値を吹き込もうとする情熱だ。お米のエアー搬送技術の開発から「ソフトブラン玄米」の商品化まで。常に革新を追求する姿勢こそが、日本の食文化を守り、支えていくのだと感じた。

村瀬慶太郎/1973年、神奈川県生まれ。国際武道大学卒業。大学卒業後、株式会社アルペンへ入社。1999年に株式会社むらせへ入社。2003年、株式会社九州むらせの取締役に就任。2005年、三井物産株式会社への出向を経験。2014年、株式会社むらせの代表取締役社長に就任。CSRの取り組みにも注力している。