
1990年に愛知県で設立された株式会社ベンリーコーポレーション。ハウス・オフィスクリーニングやエアコンクリーニング、害虫駆除などの生活支援サービスを軸とし、フランチャイズ戦略で全国に拠点を広げている。代表取締役の前田満定氏に、創業のきっかけやサービスの魅力、今後の展望についてうかがった。
背水の陣を敷いて「便利屋」をスタート
ーー学生時代や会社員時代の経験についてお聞かせください。
前田満定:
家庭の事情により、大学には自費で通う必要があったため、学力や年間授業料、立地の面で無理のない日本福祉大学へ入学しました。起業を志すきっかけとなったのは、大学4年次に没頭した「読書」です。単位を取り終えて時間があったことから、古本屋の1冊10円コーナーにある本を手当たり次第に読んでいきました。
部屋にこもり、朝から晩まで読んだ本には経営関連の書籍が多く、人生が一度きりならば自分も(経営に)チャレンジしてみたいと思いました。いずれは起業したいと考え、まずは実店舗で接客スキルを積むために、好きなスポーツに関われる株式会社アルペンを志望した次第です。
入社後、とにかく人の3倍は働くようにしたところ、「給料は変わらないのだから損だ」と同期によく言われました。それでも私は大学時代に、障害者の方が歩行や食事といった日常当たり前の動作や習慣を、精一杯行う姿を見て、自分も一生懸命に生きていこうと思っていたのです。だらだらと働くよりも、一生懸命に働いた方が時間があっという間に過ぎ、楽しい気持ちになれますからね。
ーー事業の構想はいつ頃からあったのでしょうか?
前田満定:
30歳になったら独立しようと思いつつも、何をやるかは決まっていませんでした。そこで、自分を追い込むためにも思い切って会社を辞めることが重要だと思いました。しかし、自分の好きなことで事業を成功させるのはかえって難しいだろうと考え、まずは、空き店舗を見つけ、「ここでどんな商売をすれば繁盛するか」は、後から決めることにしたのです。
その一方で、当時の私は妻子がいて、家族を養わなければいけない状況でもありました。「何でもやります」という覚悟を書いたチラシを配り、日銭を稼がざるを得なかったわけですが、結果として「便利屋」は自分にぴったりの仕事でした。
掃除からリフォームまで担う「生活支援サービス」を全国チェーン化

ーーベンリーコーポレーションのサービスの魅力をご解説ください。
前田満定:
「誰もが安心して暮らしていける世の中にしたい」という思いから、お客様の日々の困り事や悩み事を解決する生活支援サービスを提供しています。ハウスまたはオフィスのクリーニング・メンテナンスをはじめ、水廻りの修理・庭の手入れ・害虫駆除・不用品の処理・引っ越し作業など、幅広いサービスに対応できることからリピート率も抜群です。
フランチャイズ事業にも取り組み、2024年時点で全国に約200店舗のチェーンを展開中です。1軒のご家庭から継続的にさまざまな依頼をいただけるため、景気変動やパンデミック、災害発生時といった社会情勢の影響を受けにくいビジネスモデルであると実感しています。
ーーチェーン展開に至った経緯もうかがえればと思います。
前田満定:
1980年代は、便利屋というと「胡散臭い」と感じる人がたくさんいましたが、それに対して私は、「あなたのおかげでとても助かった」と喜ばれる仕事なのに、なぜ怪しまれるのだろうという疑問を抱いていたのです。そんなある日、岐阜県在住のおばあさんから電話があり、か細い声で「病院に連れて行ってほしい」と頼まれました。
東海北陸自動車道が開通する前の出来事で、名古屋から向かうには3時間はかかる道のりです。「電話帳で県内の便利屋を探してはどうか。見つからなければまたお尋ねください」と伝えたところ、先方も了承してくれました。
電話を切ったあと、2時間ほど「良い業者が見つかっただろうか」「ちゃんと病院に行けただろうか」と考え続けた挙句、「岐阜に拠点があれば即対応できたのに」と悔やみました。
「ファミリーレストランのように身近な存在になれば、便利屋に対するネガティブなイメージもなくなるはず」という発想にも至り、チェーンの仕組みづくりを始めたというわけです。YouTubeチャンネル「全国チェーン展開中『Benry(ベンリー)』」でもサービス内容や作業風景を紹介しています。
「いつでも頼れる場所」を全国に広げ、「地域貢献」の輪を拡大
ーー経営方針や独自の取り組みも教えていただけますか。
前田満定:
会社で働く人たちに「生きがい」と「やりがい」を持ってもらうだけでなく、そこから生まれる挑戦をサポートすることが経営において最も大事な要素です。チームをつくって、みんなで話し合い、じっくり考え、出しあった意見をできるだけ採用していくことで「やりがい」が生まれます。
社員には「人の役に立って生きていきたい」と考える人が多くいますね。人からもらう「ありがとう」という言葉を原動力にできる人材を採用するため、ボランティアに携わっていた人が社員になったケースもあります。
誕生日を迎えた社員のパートナーに、手紙と5,000円分の商品券を贈る取り組みは、弊社独自のものだと思います。一風変わっているかもしれませんが、「家事を担って社員を支えてくれている人」に、感謝の気持ちを伝えたくて始めました。会社で役職を得たり、給料が上がったりする人だけが、一生懸命に働いているわけではないと考えています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
前田満定:
「ちょっとしたこと」でもお客様に呼んでいただけるように、これからも全国に店舗を増やしていきたいと思います。「住みやすいまちづくり」にも貢献できると考え、近年は消防局と協力し、地震対策や防犯対策にも力を入れています。
「地域で一人暮らしをする高齢者を支えたい」という目的から、葬儀会社やスーパーマーケット、医療機関など、弊社のフランチャイズに加盟する法人様も増えています。「誰でも歓迎」というわけではなく、「地域に貢献したい」と思う方々に加盟していただけると嬉しいですね。
編集後記
人々の働き方やライフスタイル、家族の形が多様化した現代。「誰を頼ればいいのかわからない」と困ったときに、すぐさま駆けつけてくれる「トータルライフサポート」は救世主のような存在だ。
ベンリーコーポレーションは、チェーン展開によって名前を広め、業者の「顔」をしっかりと見せることで利用者に安心感を与えることにも成功した。この先は「地域の暮らしと安全を守る」という、より頼もしく大きなステージに挑んでいく。

前田満定/1958年、愛知県生まれ。日本福祉大学を卒業。株式会社アルペンに入社後、3年間にわたって店長業務を経験。1990年に株式会社ベンリーコーポレーションを設立。「誰もが安心して暮らしていける世の中に!」という思いを胸に、便利屋事業をスタート。便利屋という仕事に対する不透明性や不安感などを払拭するため、均一のサービスと価格による「安心できる生活支援サービスチェーン」を全国に展開中。