
補正下着には「窮屈で苦しい」というネガティブなイメージを抱きがちだが、そうした中でも、バストを育てる「育乳」という言葉を生み出し、着け心地の良さを前面に打ち出した商品を企画・販売しているのがHEART LAND株式会社代表取締役の横山知佳(美容下着アドバイザーちゃびさん)。
補正下着の販売を始めたきっかけや、フィッティングスクールの開校を予定している理由、ブラジャーを着ける重要性などについて、同社の代表取締役である横山知佳氏にうかがった。
専業主婦からエステサロンでの修業
ーー独立を目指したきっかけについてお聞かせください。
横山知佳:
22歳で仕事をしていない時「私の人生これで終わっていいのかな」という思いが突如芽生えました。自分が一生をかけられる仕事は何かと考えたときに、美容分野で手に職を付け、その道のプロになりたいと思ったことがきっかけでした。
働き、学びながら資金をためようと、エステサロンの門をたたきました。面接時には「独立したい」と伝えたほどです。その頃から自分のお店を持つことを心に決めていました。
ーーご自身のお店をオープンするに至った経緯について教えてください。
横山知佳:
当時のエステは高額で、ほとんどのお客様がローンでお支払いされていました。コースは半年ほどで終了しますが、ローンは数年残ります。長く通い続けられる方が少なかったため、5年間サロンに在籍した中で「きれいになるためには途中で辞めるようなシステムでは意味がない」と思うようになりました。
この経験を経て、「お客様と一緒に歳を重ねる仕事がしたい」と強く思うようになったのです。そこで、毎日身に着ける下着に着目し、自分も使用して効果を実感できたことから、下着専門店を開業することにしました。
働いていたエステ会社の社長からは「エステは利益率が良いから、系列店として新店舗を出して、その後、趣味で下着の店を運営した方がいい」と何度も助言をいただきましたが、それでも私の決意が揺らぐことはありませんでしたね。
インポートランジェリーのショップ巡りをしていたとき、たまたま訪れたお店にオーナーがいらして、談笑する中でふと「私も下着のお店を持ちたい」と口にしました。するとオーナーから「下着は横の繋がりが大切だからうちに経験を積みに来たらいいよ」と言っていただけたのです。そこから2年間修業し、1997年、30歳になる年に念願の自身のお店「Chabi」をオープンすることができました。
理想の下着をつくるためオリジナル商品を開発

ーーどのような思いから自社ブランドを立ち上げたのですか。
横山知佳:
開店当初は前職の下着会社から海外のブランド商品を仕入れることができ、「フィッティングしてからでないと販売しないお店」として、徹底してお客様の体に合う下着を提案することに努めました。
沢山のお客様に対応するうちに、販売しているブラジャーの修正をしたい箇所がいくつか見つかり、「もっとこうなれば良くなるのに」と思う気持ちがどんどんつのりました。
実は下着業界は男性社会。当時は営業もパタンナー(型紙をつくる人)も男性でした。そのため「こういった下着が欲しい」と思いを伝えても、自分で身に着けられないため、十分な理解を得る事ができなかったのです。
そこで「理想の下着を自分でつくりたい」と思い立ち、2年がかりで自社ブランドの育乳ブラ「ハピネス」の製造販売にこぎつけました。この「ハピネス」は着け心地と胸を集める機能性を追求し、着けた人に笑顔でハッピーになっていただくことを願って開発したものです。
ーー下着づくりはどのようにスタートしたのですか。
横山知佳:
私の希望するブラジャーは日本よりも歴史の長い海外製品の良いところをヒントにして、より補正力を高めたものでした。日本とはパターン(型)が全然違うため、工場に私の意図を理解してもらうことはかなり困難で、何度も諦めずにサンプルを修正してもらいました。
また、生産するためのハードルが高く、最小単位は1色で1,000本のロットであることを求められ、個人店ではかなり厳しい状態でした。色展開するためにまずは白のブラジャーを製作していただき、後はすべて私が手作業で染色しました。
当時は、仕事が終わって帰宅してから夜な夜な染色作業の日々。自宅のキッチンで数時間かけて染色し、部屋中にブラジャーを干して乾かしていましたね。今では、お客様から「もう他の下着には戻せない。次はいつ発売するの?」という嬉しいお言葉をたくさんいただくようになりました。
オリジナル商品が看板商品となったことで、日本各地からご来店いただくようになり、自分で染色作業をしなくてもよくなりました。そして100名以上からご要望をいただき、東京進出を果たします。発売より20年、ブラだけで24万本以上を生産できているのもリピーター様のおかげです。念願だった、お客様と一緒に歳を重ねる夢を実現することができ、心から感謝しています。
「育乳」で補正下着のイメージを改善。フィッティングスクール開校を決めた理由
ーー下着業界で使われている「育乳」という言葉は横山社長が考案したそうですね。
横山知佳:
一般的に補正下着には「高額で窮屈」というネガティブなイメージを持つ方が多いのです。そこで植物を大切に育てるときれいな花が咲くように、胸も手をかけて育てるとキレイに育つことをイメージしていただくために、「育乳」という言葉をつくりました。
ーー現在はスクールの準備を進めているそうですが、開校を決めたきっかけを教えてください。
横山知佳:
今まで専門学校、エステサロン様、コンテストなどで講師もさせていただいていますが、もっと下着の大切さを広めたいと思い、スクール開校を目指しています。現在は通販で簡単に下着を買える時代。だからこそ、ほとんどの方が合わない下着で体型を崩す。また肩こりなどの体の不調にも繋がっているのです。
自分に合う下着のフィッティングを通して、悩みの一因が下着にあったことを初めて知ると皆様驚かれます。美容の専門家であるエステサロン様も下着のプロではないため、改めてその大切さを学んでいただいています。
下着の知識やフィッティング技術を持つ人材を増やしたい。合う下着を身に着け、スタイルの改善と加齢への不安を払拭して笑顔になっていただきたい。笑顔は世界平和に繋がると信じています。
AIの時代でも今では私の「手に職」となった、お一人おひとりの人生に寄り添って美と健康をサポートできる「ボディメイクフィッター」は変わりのきかない職業だと思っています。
近年、コロナ禍以降、外出する機会が以前より減り、「楽」であることを求めてブラジャーを着用する方が減っています。それに伴いブラジャーの販売数が低下、労働力不足も相まって国内の縫製工場や染色工場、資材メーカーも軒並み縮小傾向にあります。
突然の工場の変更など、幾度か変化に見舞われて、驚きながら対応しています。運よくサポートしてくださる方がいることに感謝しています。
弊社もこれまで神戸、大阪、東京の直営店と、お取り扱いいただいているエステサロン様と一緒に下着の大切さを伝えていますが、まだまだ必要な方に情報が届いていない状況です。そのため「ボディメイクフィッター」を育成し、たくさんの方に周知して、業界全体を活性化していきたいと思っています。
美と健康に繋がるご職業の方、私の思いに共感してくださったら、ぜひコラボレーションなどで下着の大切さを広めていただけると嬉しいです。
ブラジャーの習慣化は自分の体を愛し、守ることにもつながる
ーー普段仕事をする上で大切にしている考えをお聞かせください。
横山知佳:
「自分を好きになり大切にすること」です。自分の胸にコンプレックスがあると胸を隠すために前かがみで猫背となります。それが原因で呼吸が浅く、冷えや自律神経の乱れ、ネガティブな感情に繋がりやすくなります。一方、合う下着を身に着けることで自分の体に年々自信が持てるようになり、気持ちも前向きになれます。下着をきっかけに、その方の人生がより楽しく幸せになることを願っています。
ーー最後に読者の方々へメッセージをお願いします。
横山知佳:
近年乳がんの罹患者が急増しています。これは食生活の欧米化が原因だといわれていますが、それだけでなく自分の体への関心が薄れていることも一因ではないかと思っています。
ブラジャーをつけるとき、鏡を見たり手で触れたりしますよね。しかしカップ付きの下着(インナー)だと胸を鏡で見ることやケアする機会が減ります。乳腺外科医の知人が切実に願っているのが「早期発見」です。私の身近にブラジャーを着けてセルフケアをしているときに自分のしこりに気づき、早期発見できた方がいます。
合うブラジャーは体を美しく見せ、形を保つだけでなく、健康を守ることにも繋がります。健康あってこその人生。多くの方に下着を通して自分の体を大切にする習慣を身につけて「ハッピーボディ」を目指していただききたいと心から願っています。
編集後記
下着のフィッティングをしたお客様が目をキラキラと輝かせ、「これが私?」と喜ぶ姿を見るのが嬉しいと話す横山社長。インタビューを通じ、ブラジャーには着ける人に自信を与え、その人の生き方も変えるパワーがあるのだと感じた。HEART LAND株式会社は、これからも美しくなりたい人たちに希望を与え、業界をけん引する存在であり続けることだろう。

横山知佳/1967年、兵庫県生まれ。嵯峨美術短期大学卒業。インテリアデザイナーとして2年間従事。美容で独立する夢を持ち、エステティックサロンの副店長を4年間勤めた後、インポートランジェリーショップで2年間修業。1997年、「日本一笑顔になれるフィッティング専門の下着店」を理想とし、神戸に「Chabi」1号店をオープン。毎日続けられることが大切と考え、つけ心地、価格、デザインにこだわり、オリジナル商品を開発。2025年3月3日、パリファッションウィークに出展。世界の女性が笑顔になれるように届けます。