
自動車部品業界は安全性や機能性の確保に加え、技術革新への迅速な対応が求められる分野だ。特に、多様化する顧客のニーズに応えるためには、高品質な製品の安定供給が不可欠である。
その中で、長年にわたり確かな信頼を築いてきたのが、株式会社キーレックスだ。2024年に100周年を迎えた同社は、車体部品の製造を中心に、グローバル展開を進め、絶え間ない進化を続けている。今回は、代表取締役社長の藏田亮祐氏に、就任までの経緯、次世代を見据えた新規事業や技術開発、社内の取り組み、そして人材育成にかける思いについてお話をうかがった。
さらなる100年を見据えた新たなリーダーシップ
ーー社長就任までの道のりについてお聞かせください。
藏田亮祐:
株式会社キーレックスは、家業だった株式会社クラタと三浦工業株式会社が2001年に合併して誕生した会社です。私は2009年に入社し、基幹システムの更新、海外進出検討や営業などに従事しました。2018年にはタイの現地法人に社長として赴任し、新たな挑戦を始めました。
帰国後、2021年に副社長に就任、2023年には社長に就任しました。背景に、創業100周年という大きな節目を迎えるタイミングで、オーナー家から社長が選ばれるべきという前社長の意向があったためです。
ーー就任後、最初に取り組んだことは何ですか?
藏田亮祐:
まず私が注力したのは「次世代に向けた種まき」でした。これからの100年を見据え、会社のさらなる発展を目指して新規事業を推進しました。
その中で特に注力しているのが、広島に拠点を持つ企業との協業による一人乗りEV(電気自動車)プロジェクトです。環境への配慮と通勤などの一人・近距離移動を目的として開発され、2025年に量産の予定です。自動車では大きすぎ、バイクは安全面で不安があると感じる場面で、この一人乗りEVが新しい移動手段としての最適解となることを期待しています。
また、もう一つの新規事業として、コンテナを活用した野菜栽培プロジェクト「KEYLEX FUTURE FARM」を社内の駐車場に展開しています。このプロジェクトでは、環境制御下で野菜を育てる実証実験を行っており、将来的な展開を検討しています。今後は「食」の分野でも新しい挑戦を行い、子どもや孫の世代に対する価値の提供を目指していきたいと考えています。
デジタル化の推進

ーーDX推進の取り組みや方針について教えてください。
藏田亮祐:
社内のデジタル基盤を整備し、業務効率の向上を図っています。システムの導入は、単に「会社がこれを使え」と押し付けるのではなく、実際に利用する社員が納得し、「これなら業務が楽になる」と実感できるように進めています。一度成功体験を得られると、社員たちの間に「このシステムを使えばもっと効率的に働ける」という意識が広がり、次のプロジェクトへの意欲も高まります。このように、現場での納得感を重視したステップを踏みながら、丁寧にシステムを整備しています。社員がシステムの導入効果を実感し、業務効率化を前向きに受け入れられるような取り組みを通じて、より生産性の高い環境作りに努めています。
「キーレックス」では、さらなる技術革新を通じて他社との差別化を図り、特にデジタル化の進展に合わせて、製造ラインの自動化や設計業務の効率化AIの導入などを進め、競争力を高めています。
また、基幹システムや経理システムの刷新にも積極的に取り組み、業務を効率化しています。私自身のシステム開発経験から「ユーザーがシステムをどのように使うか」を常に念頭に置くことの重要性を学びました。その経験を活かし、現場の意見を尊重しながら、各プロジェクトを進めています。
社員の誇りと成長を支える「ブランド価値委員会」
ーー社内での具体的な取り組みについて教えてください。
藏田亮祐:
社員の働きがいや成長機会の向上を目指し、「ブランド価値委員会」を立ち上げました。この委員会は若手社員を中心に構成され、「キーレックス」のブランド力強化と社員が誇りを持てる環境づくりに取り組んでいます。
また、社員の家族に会社の雰囲気や仕事内容を理解してもらうために、毎年11月には「ファミリーデー」を開催し、社員とその家族が参加できるイベントを実施しています。これにより、社員同士の結束や会社への愛着を深めることができ、ご家族からの理解とサポートも得られるようになりました。
さらに、「キーレックス」では社員同士が部門を超えて交流できる場として、社内クラブ活動も推奨しています。クラブ活動を通じて、仕事以外でも人と人とのつながりを築くことができます。私自身も社内のサッカー部に参加しており、タイミングが合えば社員と一緒にプレーしています。また、地元でもある「熊野」を拠点に活動する「ディアヴォロッソ広島」の支援をしながら、選手を社員として雇用したところ、彼女たちが国体選抜に選ばれて優勝するなどの嬉しい出来事もありました。こうした活動を通じて、社員同士や地域社会との絆を深めています。
ーー次世代の人材育成について、どのような考えをお持ちですか?
藏田亮祐:
次世代を担う若手社員の成長支援は、企業の未来を形づくる鍵だと考えています。私たちは、若手社員が主体的にリーダーシップを発揮し、新たな挑戦を通じて成長できる土台作りに取り組んでいます。成長のためには、失敗を恐れず挑戦する姿勢が不可欠です。そのため、挑戦を促す企業風土を醸成するための社内教育も実施しています。
人材開発の重要なポイントは、一人ひとりの成長を全力で支援することです。私たちは、社員が入社後も安心して成長できる体制を整えており、社員が自分のペースでスキルを磨き、会社とともに成長していける環境を大切にしています。
先人たちから受け継いだDNAが導く明るい未来を目指して
ーー次の100年に向けた展望をお聞かせください。
藏田亮祐:
創業100周年を迎えた「キーレックス」は、次の100年に向けて新たなステージへと歩みを進めています。この節目に思うのは、弊社が幾多の困難を乗り越えてきた歴史です。その度に先人たちは、新たな技術や事業に挑戦する姿勢を持って危機を克服し、次の時代へとつながる価値を生み出してきました。
現在、自動車業界は変革期を迎えていますが、この変化をチャンスと捉えています。弊社が長年培ってきたプレス・溶接のハード技術と、設計・解析のソフト技術。この両輪を最大限に活かし、社会により大きな価値を提供していくことが私たちの使命です。
特に誇りとするのは、進化の中で育まれた柔軟な企業風土です。社内の縦横のつながりが強く、自由闊達な環境の中で、一人ひとりが持てる力を発揮できる。この組織文化と、先人から受け継いだ創造のDNAを活かし、次の100年を「明るい未来」にするべく、新たな道を切り拓いていきます。
編集後記
藏田社長が語った「次世代に向けた種まき」は、一人乗りEV開発や「KEYLEX FUTURE FARM」プロジェクトといった具体的な取り組みに結実し、環境や社会の変化に柔軟に対応する企業姿勢を鮮明にしている。また、現場の声を尊重したシステム導入のアプローチからは、人材を何より大切にする企業文化が伝わってきた。社内クラブ活動や「ファミリーデー」などの取り組みも、社員やその家族とのつながりを重視し、企業全体の結束力を強める重要な要素となっている。挑戦を軸に、長い歴史の中で培った基盤を最大限に活用する「キーレックス」。業界の最前線を歩み続ける同社の未来を楽しみにしたい。

藏田亮祐/1983年、広島県生まれ。2007年、慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社ホープスに入社し、ERPパッケージのコンサルティング業務に従事。2009年、株式会社キーレックス入社。基幹システム更新、海外進出などの業務を経験し、2018年より現地法人の社長としてサミットキーレックスタイランドに赴任。帰任後、2021年、代表取締役副社長就任。2023年、代表取締役社長就任。2015年、中小企業診断士の資格取得。