※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

社会や生活、仕事のインフラと言っても過言ではないほど、WEBサイトやアプリケーションは数多く存在する。ソフトウェアは日々進歩しており、今この瞬間にも、よりユーザビリティ・付加価値の高い内容にアップデートされ続けている。そのおかげで私たちは常に使い勝手の良い便利なサービスを享受し続けられるが、企業はアップデート作業に多大な労力を費やしているのが現状だ。

今回ご紹介するのは、ノーコードでソフトウェアテストを自動化する事業開発で注目されている株式会社MagicPodである。2012年に伊藤望氏が創業し、導入企業は500社を超え、2021年7月には3億円の資金調達を実施。代表取締役の伊藤氏から起業までの経緯や事業内容について詳しくうかがった。

社長賞受賞を経験した社員が起業を決意するまでの道のり

ーー起業に至るまでの経緯を教えてください。

伊藤望:
京都大学大学院情報学研究科を修了後、株式会社ワークスアプリケーションズに入社しました。会計システムのプロダクト開発を担当する中で、既存製品の品質の課題が非常に多いことに問題を感じました。ソフトウェアがスムーズに使えるためには、多くのテストが何度も行われ、不具合が徹底的に排除される作業工程が必要で、この工程は開発の労力の30%を占めるとも言われています。

しかし、当時のテスト作業はほとんどが手作業で行われていました。さらに、品質が低いことで現場でたびたびトラブルが発生し、その原因の追求にも時間がかかるため、悪循環に陥っていました。

この課題を解決するには、思い切ったソリューションが必要だと考えました。そこで、手作業で行うソフトウェアテストを自動化することに着目し、社内のシステムでテスト運用を開始しました。試行錯誤を繰り返し、約2年ほどで成果が見え始め、入社3年目には社長賞を受賞しました。その頃には独立の意思が固まり、退職して起業を決意したのです。

ーー起業後はどのような課題に直面しましたか。

伊藤望:
満を持しての起業でしたが、スタートは苦難の連続でしたね。テスト自動化の市場は当時の日本ではほとんど立ち上がっておらず、企業が開発ツールに対してお金を払って利用する習慣もありませんでした。

そのため、思うように自社製品を開発することができず、数年間は苦労しました。ただ、「必ず多くの企業にとって必要不可欠な製品になる」という確信があったため、啓蒙活動を重ね、市場の創造に注力しました。

やがて、海外では当たり前だった製品の継続的なバージョンアップが日本国内でも徐々に浸透していき、2018年頃になると、手作業でのソフトウェアテストの限界が明らかになり、私たちの自社製品が必要とされるようになりました。エンジニアからの認知も広がり、少しずつ市場での存在感を強めることができたのです。

時代に合わせて誰でも使いやすい製品へ改良

ーー貴社の製品について詳しくお聞かせください。

伊藤望:
弊社の主力製品である「MagicPod(マジックポッド)」は、モバイルアプリとブラウザ(ウェブアプリ)の両方に対応したAIテスト自動化プラットフォームです。ノーコード・ローコードの仕組みを採用しており、プログラミングの専門知識がなくても簡単に自動テストを実行できます。

具体的には、アプリケーションの画面画像をスキャンしクリックしていくと、入力項目の種類やラベルをAIが自動検出し、わかりやすい日本語のテストスクリプトを自動生成します。このため、開発者だけではなく非エンジニアの方でも操作がしやすく、現場の多様なニーズに応えることができます。

現在では、IT業界のリーディングカンパニーをはじめ、500社以上の企業に導入されており、ソフトウェアの品質向上と開発スピードの改善に貢献しています。お客様からは、使いやすさや、効率化への高い評価をいただいております。

ーー大手企業からも選ばれている貴社の強みはどのようなところですか。

伊藤望:
弊社の強みは、優れた技術者が開発したことで、他社製品と比べて操作が簡単で、直感的に使える点です。ソフトウェアテストを手動で行っている現場では、同じ作業の繰り返しが頻発し、時間やコストが大きな課題となっています。開発サイクルの遅延も引き起こします。「MagicPod」を導入することで、これらのテスト工程を自動化し、開発サイクルを大幅にスピードアップすることができるのです。

弊社はカスタマーサポートにも力を入れており、迅速で丁寧な対応が多くのお客様に高く評価されています。問い合わせへのレスポンスの早さと回答の的確さが顧客満足度の向上や長期的な利用の決め手となっています。

特に、手作業によるテストの効率化を目指す企業や、人の手によるテスト精度に限界を感じている方には、「MagicPod」が最適なソリューションだと考えています。

日常生活からの英語強化で見据える海外進出

ーー今後の事業の中長期的な展望をお聞かせください。

伊藤望:
今後もより多くの人に製品を使ってもらえるように普及活動を続け、圧倒的なシェアNo.1を目指します。今後、さらにAI技術が進化すると、人間の作業がいらないくらいになるかもしれません。品質管理を総合的にサポートする製品の開発を続けていきたいです。

ーーそうした取り組みには、どのような人材が必要だと考えていますか。

伊藤望:
ビジネスサイクルの短縮化やアジャイル開発の普及により、ソフトウェアのリリースサイクルはますます短くなっており、テスト自動化への注目度が急速に高まっています。エンジニアが不足しているので、お金を払ってでも作業を効率化したいというニーズは世界中にあります。

今後は海外進出もより積極的に進めていくため、英語での営業体制の強化が重要な課題です。弊社では、英語でのミーティングの増加、外国人採用、語学学習費の補助など、社員の語学力向上に積極的に取り組んでいます。

グローバル市場で戦えるクラウドサービスを目指すため、英語を駆使して世界中の顧客と信頼関係を築ける人材を求めています。世界に通用する革新的なサービスを一緒につくり上げたいという情熱を持つ方には、ぜひチャレンジしていただきたいです。

編集後記

テクノロジーの進化にともない、私たちの生活や仕事のインフラとして欠かせないソフトウェアが、いかにして高品質を保ちながら進化を続けているのか、その裏側には多大な労力と革新的なアイデアが詰まっている。伊藤社長が強調する、手作業から自動化への移行の重要性は、現代のソフトウェア開発において非常にタイムリーなテーマだ。伊藤社長のビジョンとともに、MagicPodがさらなる飛躍を遂げることを期待している。

伊藤望/京都大学大学院情報学研究科を修了後、株式会社ワークスアプリケーションズ入社、自動テストツール開発で社長賞を受賞するなど活躍。その後独立しTRIDENT(現・MagicPod)を設立。「日本Seleniumユーザーコミュニティ」設立、「Selenium実践入門」執筆、国際カンファレンス講演、「SeleniumConf」日本初開催など、長年ソフトウェアテスト自動化の普及に努めてきた、テスト自動化の第一人者。