
近年、ビジネスの多様化が求められる時代に突入し、他業種への事業参入に力を入れる企業が増えてきた。デジタル化やグローバル化の進展に伴い、他業種に参入した結果、思わぬ形で新たなビジネスチャンスが生まれた事例もある。オーエーセンター株式会社は、通信事業からフードサービス事業へと、一見何の関連もない事業へと領域を広げて成功を収めてきた。
代表取締役の吉武太志氏は、既存のビジネスモデルにとらわれない柔軟な発想と先見の明を持ち、新しい価値を創造し続けてきた。今回、吉武氏がどのようにして異なる業種間でのシナジーを生み出し、企業の持続的な成長を実現したのか。その挑戦の背景にある理念と、次なる未来を見据えたビジョンを詳しくうかがった。
斬新なアイデアで大きな事業展開を成功させる
ーー代表取締役に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
吉武太志:
九州産業大学を卒業後、両親が創業した弊社に入社しました。学生時代はサーフィン部に所属し、オーストラリア留学も視野に入れていたことから、入社には葛藤がありましたね。しかし、幼少期から忙しく働いてきた両親の姿を見ていたので、「家業の力になりたい」と考え、入社を決意したのです。
1994年頃から弊社はNTT西日本の代理店として通信機器の販売・施工・保守事業を展開。のちにNTTドコモの携帯電話販売代理店業務も手がけるようになり、その際に私は北九州一号店のドコモショップの立ち上げに携わることになりました。
当時、携帯電話はまだ一般にはあまり知られておらず、私にとっても未知なものでしたが、「この分野は必ず成長する」という確信があり、やりがいを持って仕事に臨んでいたことをよく覚えています。
アナログからデジタルへの移行期でもあり、事業は予想通り順調に拡大。4名でスタートしたドコモショップは、入社して10年ほどで6店舗を構えるまで成長し、従業員も100名以上に増えました。
そんな中、私は25歳で店長に抜擢され、責任ある立場で業務に取り組むことになったのです。若さゆえにお客様対応や会議運営では苦労する場面も多くありましたが、さまざまな経験を重ねて成長することができ、2001年に代表取締役に就任しました。
ーー代表取締役に就任されてから、具体的にどのような取り組みを行いましたか。
吉武太志:
長く店舗で店長をしていたこともあり、社長就任をした際には色々なことにチャレンジしようと心に決めていました。最初の大きなチャレンジとなったのは、2002年の夏に、北九州のショップのオープンに携わったことです。
当時、翌年オープン予定の複合商業施設にドコモショップの新設が決まっていましたが、商業施設側からは3階か4階への出店を提案された一方、NTTドコモ側は人通りの多い1階を希望していました。両者の意見が対立し、なかなか合意に至らなかったため、私は「ドコモショップとカフェのコラボレーション店舗を1階に設置する」という新しい提案を行ったのです。
その結果、複合商業施設のオープンと同時にカフェも開業し、これが大成功を収めました。ドコモショップのお客様は購入手続きの待ち時間にカフェでくつろぎ、カフェの利用者はドコモのサービスに興味を持つという相乗効果が生まれたのです。
この試みは西日本初の事例であり、当時は全国から視察団が訪れるほどの注目を集めました。両業態の強みを活かしたこの取り組みは、弊社の成長を支える重要な事例のひとつとなりました。
世界遺産登録がきっかけ「ネジチョコ」誕生までのストーリー

ーー貴社は現在どのような事業を展開していますか。
吉武太志:
現在は、主に「システム事業部」と「フードサービス事業部」の2つの事業を展開しています。私が代表取締役に就任した当初、ドコモショップの経営は非常に順調でしたが、多店舗展開を進めるうちに、携帯電話ショップやパティスリーの運営には成長の限界があると感じるようになりました。
そこで、「メーカーとして商品を生産し、卸売業へと業態転換するべきだ」と考え、現在の事業展開へとシフトしたのです。このように、店舗運営から製造・販売への転換を図ることで、より広範な市場を視野に入れたビジネスモデルを構築しています。
創業当初から取り組んできた「システム事業部」では、最先端の情報通信ソリューションを提供し、お客様の業務効率化と満足度の向上を目指しています。NTT西日本情報機器の専売店として、ICTを活用した通信サービス環境の構築や、業務改善の提案を行い、生産性向上の支援をしています。
一方、「フードサービス事業」は、ドコモショップとのコラボカフェ運営を通じて手応えを感じたことをきっかけに、世界進出を視野に入れ事業展開してきました。2003年にスイーツショップ「グラン ダ ジュール」を立ち上げ、現在は、北九州市で2店舗を運営しています。
ーー大ヒット商品「ネジチョコ」誕生の経緯を教えてください。
吉武太志:
商品を開発するきっかけとなったのは、2015年に北九州市の八幡製鉄所を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されたことです。当時、北九州市には象徴的な土産物がほとんどなく、JR小倉駅や北九州空港の売店には「博多名物」が並んでいる状況でした。
市や商工会議所から「世界遺産のロゴを使った土産物をつくれないか」と相談を受け、「鉄」をモチーフにした商品開発に取り組むことにしたのです。「ネジチョコ」は2016年2月のバレンタインシーズンに発売し、弊社の看板商品となりました。メディアで紹介されたことで注目が集まり、売り切れが続出。SNSでも「手に入らないチョコ」として話題になり、予想を超える大ヒット商品に成長しました。
デザインにはこだわりましたが、正直なところ、ここまでのヒットは想定していませんでしたね。当初は20名のスタッフが手作業で製造していましたが、チョコレートを型から抜く工程が難しく、生産が追いつかずに大変苦労しました。
この経験から、2020年に生産の大幅な自動化を図り、新工場「ネジチョコラボラトリー」を設立。今では3Dプリンタの技術も進化し、製造の可能性は無限大です。これからも、お客様が楽しんでくれて、思わず誰かに自慢したくなるような土産物をつくり続けていきたいと考えています。
社員が誇れる会社をつくるために心身ともに充実した日々を送る
ーーこれからの展望と目指す企業像についてお聞かせください。
吉武太志:
社員が安心して長く働き、誇りを持てる企業であり続けるために、常にワクワクするような事業展開を目指していきたいです。そのためにも、まずは私自身が元気で充実した日々を送ることが重要だと考え、プライベートではトライアスロンに挑戦し、北九州を盛り上げるためにNPO法人を立ち上げるなど積極的に活動しています。
また、ゴルフを楽しんだり、ワインエキスパートの資格を取得したりと、さまざまなチャレンジをしています。これらの活動を通して得られる新しい視点やインスピレーションが、仕事のアイデアにも大きな影響を与えてくれます。
今後は、会社のロゴをプリントしたオリジナルチョコレートや、キャラクターの形を再現したチョコレートを製作して販売したいと考え、大量受注を受けられるように生産体制も整える予定です。新しい価値を生み出すことで、社員、地域、そしてお客様すべてにとって誇れる企業でありたいと考えています。
編集後記
同社が通信事業からフードサービス事業へ事業を拡大したことは、業界の枠を超えた挑戦の象徴である。異なる分野の強みを最大限に活用することで、新たな価値を創造した。特に「ネジチョコ」の成功は、地域資源とアイデアの融合が生み出す可能性を示したといえよう。吉武社長が仕事とプライベートで前向きに新たなチャレンジを続ける姿勢は社員にも好影響を与え、オーエーセンター株式会社の成長を牽引するだろう。

吉武太志/1972年福岡県生まれ。九州産業大学卒業。北九州市立大学大学院卒。2001年オーエーセンター株式会社、代表取締役社長に就任。