
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に伴い、多くの企業がサブスクリプション型ビジネスモデルへの転換を進めており、特にBtoB領域では、従来の売り切り型ビジネスからストック型収益モデルへの転換が顕著である。
しかし、このビジネスモデルの課題は、契約期間中のプラン変更や解約、オプション追加など柔軟な対応が求められる一方で、正確な料金計算、請求処理、売上管理の煩雑さが企業の経営資源を圧迫していることだ。本来顧客への価値提供に注力すべきリソースが、バックオフィス業務に費やされてしまうのである。
このような業界の課題に対し、革新的なアプローチで解決を図るビジネスインフラが注目を集めるアルプ株式会社。新たな時代の企業経営を支えるプラットフォームの可能性について、代表取締役CEOの伊藤浩樹氏に話を聞いた。
複雑な料金計算を自動化し、企業の本質的な価値創造を支援
ーー起業までの経緯をお聞かせください。
伊藤浩樹:
モルガンスタンレーやボストンコンサルティンググループでの経験を経て、2013年にピクシブ株式会社に入社。新規事業開発や開発組織のマネジメントを担当し、2017年には代表取締役社長兼CEOに就任しました。そして、翌2018年に新たな挑戦として現在の会社を立ち上げることを決意したのです。
前職での経験から、ユーザーへの価値提供こそが企業の本質だと考えていました。多くの企業が決済や請求管理などのバックオフィス業務に多大なリソースを割かれて苦労している現状を目の当たりにし、それらの業務を柔軟に吸収できる基盤があれば、企業はより本質的な価値創造に集中できるのではないかと思ったのです。また、私自身が「ゼロから事業を立ち上げたい」という強い思いがありました。
さらに、当時は資金調達も非常に前向きな状況であったことに加え、創業メンバーとの出会いという好機にも恵まれ、「複雑な料金計算に対応する販売管理や決済基盤といったビジネスインフラを日本で構築したい」という事業構想が実現可能だと思えるようになり、起業を決意したのです。
ーー具体的な事業内容について教えてください。
伊藤浩樹:
BtoBのサブスクリプションビジネスや継続課金型ビジネスモデルに対応する販売管理システムと請求・決済のシステムを提供しています。両プロダクトをお使いいただくことで、受注から請求書発行、売上回収〜消し込みまでをワンストップで管理する特徴を持っています。最大の強みは、複雑な料金計算や契約内容の変更に柔軟に対応できる点です。
たとえば、1年契約の途中でプラン変更やオプション追加が発生しても、適切な金額計算や請求処理を自動的に実行できます。また、過去の契約状況の把握や売上の可視化も容易で、リアルタイムにレポート作成が可能な点が高い評価を受けています。
当初はSaaS企業や通信業界が中心でしたが、現在では業種を問わず導入されており、リース・レンタル、オフィス清掃、警備など、BtoBで月額料金が発生する全ビジネスが対象です。特に最近では、IoT関連企業からのニーズが高まり、工場のスマート化など、新規事業として継続課金型のビジネスを始める大企業も増えてきていますので、業務フローの構築から支援をさせていただいております。
真摯さを貫き、ビジネスプラットフォームの未来を築く

ーー貴社のビジネスや組織運営において、大切にしてることは何でしょうか?
伊藤浩樹:
「真摯であること」を最上位の理念に掲げています。システムの導入で終わりではなく、この領域のエキスパートとしてお客様の課題に寄り添い、継続的な価値提供ができるよう信頼関係の構築に努めているところです。新規のお客様に対しても、私たちがどういう存在で、どのような価値を提供できるのかを認知させることを大事にしており、必要とされるタイミングで弊社を思い出してもらえることを目指しています。
社内組織に関しては、理解と円滑な組織運営を目指す戦略的なコミュニケーション手法である「オーバーコミュニケーション」を重視しています。特に開発とセールスなど、異なる専門性を持つメンバー間でも、コミュニケーションの質と量を徹底して高めることで、スムーズな協働を実現できると考えているからです。また、物事には完璧な正解は存在しないので、「まずは行動してみよう」という姿勢を推奨しています。
ーー今後の事業展望についてお聞かせください。
伊藤浩樹:
売上規模としての目標もありますが、より重視しているのは提供価値の深化です。具体的には、商談後の業務をほぼ完全に自動化する世界の実現を目指しています。これまでの直接取引に加え、さまざまなパートナーシップも活用しながら「ビジネスインフラの経済圏」を広げていく考えです。
常に真摯であることを大切にし、自分自身に対して、チームに対して、そしてお客様に対して誠実であり続けることが、結果として最大の価値を生み出すと確信しています。これからも、企業の本質的な価値創造を支援し続けることで、社会全体の発展に貢献していきたいです。
編集後記
インタビューを通じて特に印象的だったのは、「企業の本質的な価値創造を支援する」という一貫した軸の存在と組織運営における「真摯さ」の徹底である。昨今、多くのスタートアップが短期的な成長を追求する中、バックオフィス業務の革新を通じて企業の持続的な成長を支えるという視点は、極めて本質的なアプローチであると言えるだろう。
今後さらに加速するサブスクリプションビジネスの広がりの中で、時代の変化を見据えた新しいビジネスインフラの提供は、企業の競争力を左右する重要な要素となっていくと考えられる。同社の今後の取り組みに注目したい。

伊藤浩樹/モルガンスタンレー、ボストンコンサルティンググループを経て、2013年にピクシブ株式会社に入社。ピクシブでは新規事業開発、開発組織のマネジメントを経て、17年に代表取締役社長兼CEOに就任。18年にアルプ株式会社を設立。