※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

腸内細菌叢(腸内フローラ)検査によって個人の健康状態を可視化し、一人ひとりに最適な健康習慣の形成を支援している株式会社サイキンソー。同社は、DNA解析技術を用いた腸内環境の分析方法をいち早く取り入れ、17万件を超える検査実績を積み上げてきた。

企業の福利厚生として、腸内細菌叢検査を提供することで健康経営の新たな選択肢を提示するなど、BtoB、BtoCの両面でサービスを展開している。病気の予防に留まらず、その前段階で自然と健康になれる状態を目指す「0次予防」という概念を掲げ、腸内環境の改善を通じた健康づくりの普及を目指す、代表取締役 CEOの沢井悠氏に話をうかがった。

テクノロジーを活用した健康サービスの可能性を追求

ーー社長のこれまでのご経歴について教えてください。

沢井悠:
私は前々職で新規事業のプロデュースを生業としていました。IPS細胞が話題になった2006年から2010年の間に、コンサルタントとして先端医療ベンチャーのスタートアッププロジェクトに携わったことで、最先端技術を事業化していく仕事の面白さを知ったのです。

しかし、さまざまな仕事を経験するうちに、「次のキャリアを目指したい」と思い、法人向けの微生物ゲノムを解析する会社に転職して、主に経営企画の仕事に携わることにしました。資金調達や会社運営など一通りの仕事を学ぶうちに、自分の中に「起業にチャレンジしたい」という思いが芽生えたのです。

ーーなぜ腸内細菌という領域で起業しようと考えたのですか?

沢井悠:
私が起業を決意したころに、DNA解析技術を用いた腸内フローラの新しい分析法が登場しました。弊社が設立した2014年は、この新技術の登場によって腸内細菌の話題が非常に盛り上がった時期だったのです。海外のヘルスケアサービスなどを参照した結果、「個人向けの腸内細菌叢検査はこれから広がる分野かもしれない」と感じて、この領域で起業することを決めました。

また、私は前々職・前職の時代から「世の中に知られていない最先端の技術を、誰でも簡単に受けられる一般消費者向けのサービスとして育てたい」という気持ちを持っていました。さまざまな経験を積み、会社設立のノウハウを学んだことで、「起業できるかもしれない」という自信がついたことも、起業に踏み切った理由の一つです。

腸内細菌叢検査の領域で新しい市場を切り拓く

ーー貴社の事業内容について教えてください。

沢井悠:
弊社は、腸内細菌叢検査サービス「Mykinso(マイキンソー)」のほか、医療機関向けの同サービス「Mykinso Pro」、細菌叢研究のサポートサービス「Cykinso Research」を展開しています。

個人向けの腸内細菌叢検査については先行するサービスがすでに日本国内にありましたが、前述のDNA解析技術を用いた分析法を取り入れた検査方法に関しては、弊社が先駆者と言えるでしょう。この方法で現在までに17万件の検査を行っています。この検査実績によって構築された国内最大規模の腸内細菌叢データが弊社の資産であり強みです。

法人向けの福利厚生プランは、1万円以下に価格を下げることが難しい腸内細菌叢検査を、1人でも多くの人に受けてもらうために考えました。会社から補助金を出してもらって被検者の個人負担を軽減し、健康診断のようなスキームで検査を普及させることが目的です。企業の福利厚生や健康経営の一助になればと考えているので、今後も試行錯誤を続けて、多くの企業に利用していただけるようにしたいですね。

ーー新領域で市場を切り拓く上で苦労したことなどはありますか?

沢井悠:
創業初期の段階で苦労したのは、サービスの内容を理解していただけないケースが多かったことです。サービスがどのように役立つのかということが伝わらず、「こういう使い方をするのか」と理解してもらえるようになるまでに時間がかかりました。腸内細菌の分布を数値化して、オリジナルのスコア指標をつくり、「50点」「80点」などと評価する技術を開発したことをきっかけに、検査が普及し始めました。

開発当初はBtoCのサービスとして個人のお客さまを主な対象に想定していましたが、実際に市場に出してみると、予想以上に法人のお客さまからの利用が多かったです。特に、2015年に機能性表示食品制度がスタートしたことが追い風となり、食品開発を手がける企業からの依頼が増加しました。これは弊社の技術が新たな形で市場に受け入れられた証であり、非常に嬉しい出来事でした。

組織体制の強化で未来への布石を打つ

ーー今後はどのようなビジョンを実現したいですか?

沢井悠:
お客さま一人ひとりに、もっと自然な形で健康習慣を普及させるという目標を突きつめていきたいと考えています。これまでは「健康を普及させる」というビジョンをもとに事業を展開してきましたが、これからはそのビジョンを広げて、「0次予防」という概念を採用していくつもりです。「0次予防」という言葉には、病気にならないようにする「一次予防」のひとつ前の段階という意味が込められています。

腸内フローラの状態は、一人ひとりまったく違うものです。それらを正しく分析し、最適なタイミングと頻度で健康改善のアドバイスをしたり、必要な健康商品を提案したりするようなコンセプトの事業展開を想定しています。「腸内環境をメンテナンスして、健康づくりをする」という習慣を自然に身につけてもらえるサービスを目指して、さまざまなラインナップの商品を販売したいです。

ーー最後に、創業から現在までの10年の総括と社長の抱負をお聞かせください。

沢井悠:
この10周年という節目の年が、弊社のターニングポイントだと受けとめています。10周年を契機として組織体制の見直しを図り、これまで私が主導する立場で行ってきた新規事業や新商品の開発を、システム・組織化したいと考えているのです。

今は、そのための組織づくりに私の関心が高まっています。中でも、CFOやCOOといった役員が配置されたことで、3〜4年前まで私が行っていた資金調達や事業運営などの仕事を、彼らに任せられるようになったことは大きな変化でした。幹部体制が充実したことで、今後はより一層、弊社の経営を効率化できると思います。腸内細菌叢検査サービスを一般的なものとするために、さらなる企業努力を続けていきたいです。

編集後記

沢井社長の話を聞いて、科学技術の社会実装の難しさとその可能性を改めて考えさせられた。最先端の技術をどのように人々の生活に溶け込ませるか。その答えを模索する中で、同社は腸内細菌叢検査という新しい健康管理の手法を確立してきた。17万件を超える検査実績は、その取り組みが着実に実を結んでいることを示している。検査の普及によって「0次予防」という新しい健康観が当たり前になる未来は、そう遠くないだろう。

沢井悠/1983年、福島県生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業。イーソリューションズ株式会社にて、先端医療ベンチャープロジェクトのコンサルティングに5年携わる。その後、微生物ゲノム解析技術により有用化学品のバイオプラント開発を手がけるベンチャー企業の経営企画職を経て、2014年に株式会社サイキンソーを設立し、代表取締役 CEOに就任。