
1955年の創業以来、陶器、ポプリ、ハーブティーなど時代に合わせて事業を展開してきた株式会社生活の木。現在は「香り」に関連する製品の開発・販売を軸に、海外でのネイチャーリゾート経営にも注力している。今回は代表取締役の重永忠氏に、事業の変遷や強み、今後の展望についてうかがった。
「香りがある生活=新しい文化」を日本中に広める活動
ーー貴社の歴史をお話しいただけますか。
重永忠:
原宿・表参道で祖父が写真館を開いたことが、代々続く家業の始まりです。1955年に、父が「生活の木」として洋食器の製造・販売をスタートしました。私の代で本格的にアロマテラピー・フレグランスのビジネスを始めたので、三代それぞれ異なる事業に取り組んできたことになります。
大学時代に家業を手伝い始め、1978年にポプリ・ハーブの輸入販売をスタートしました。そこから時間をかけて、ハーブやアロマテラピーを日本の生活に根付かせた、パイオニア的企業だと自負しています。
「他社にはできないことをやる」という、オンリーワン企業としてのプライドは仕事の喜びにもつながります。未知の文化を生活に取り入れることによって、QOL(クオリティオブライフ)が向上するお客様を見ると、ゼロから文化を広げる面白さを実感するのです。
ーー現在の事業内容と貴社の強みについて教えてください。
重永忠:
事業の柱は、ハーブ・アロマテラピーに関する製品の開発・販売です。メーカーでありながら、「商品をつくる前に文化をつくる」というスタイルに重きを置いていることが弊社の強みです。今までなかった文化を根付かせてから、モノづくりに力を入れることで、日本に浸透していなかった香りの文化にも興味を持っていただけるようになりました。
世の中に広めたい文化を体験できる「場所」があることも大切です。「生活の木」の商品を手に取って楽しめる場所として全国の百貨店や商業施設で直営店舗を展開するほか、自然・健康・癒しをテーマにした体験型ネイチャーリゾートとして、スリランカで「Hotel Tree of life」を運営しています。
ハーブティーも主力商品の一つとして広めてきた結果、食後のお茶を選ぶ際に、コーヒー・紅茶に加えてハーブティーが選択肢にあるレストランが増えてきたと感じます。現在は、心身を健康に保つ「ウェルネス」をより意識したハーブティーを周知している段階です。
アロマファンと共に育て上げた「開発力」と「ニーズへの対応力」

ーーどんな人に最も支持されているのでしょうか。
重永忠:
事業を開始した頃から、一緒に年を重ねてきた方々が多いですね。40年ほど前に、自然の香りを楽しむ「ポプリづくり」を最初に受け入れてくれたのは、小学生の女の子たちでした。少女漫画誌「なかよし」で、佐藤まり子先生がポプリをテーマにした漫画を連載したのも同時期ですね。その世代と共に歩んできたため、お客様の年齢層は40〜60代が中心となっています。
中にはプロフェッショナルを目指すようになる方もいて、深い知識を得たお客様が、さらに文化の魅力を広めてくれる良い連鎖が生まれました。弊社もスクール・セミナーを運営して、資格取得をバックアップしています。
店頭は、お客様から新たな楽しみ方や商品開発のヒントを得られる場です。最新のニーズに対応できるように開発力を磨き、お客様と共同開発してきたという感覚もありますね。老若男女問わず楽しめる商品を手がけていますが、現状はお客様の9割が女性です。知れば知るほど面白いマニアックな世界ですので、もっと男性にも魅力を知ってもらいたい、使っていただきたいと思っております。
ーー実店舗とオンラインはどのように使い分けていますか?
重永忠:
AIの力で自分が好きな香りを発見できる「KAORIUM(カオリウム)」(※)というサービスをはじめました。また、一人ひとりにお気に入りのアロマを持ってほしいという想いから「マイアロマ」というプロジェクトもスタートしました。好きな香りのアロマを長く愛用するというニーズに着目した取り組みです。
公式Instagramではスタッフが自身のアロマテラピーライフを紹介しているほか、各店舗が独自にSNSを運用しています。お客様が使い方をイメージしやすく、「お店で試したい」と思える等身大の情報発信がベストですね。
リピーターの方がいつでもアイテムを調達できるECサイトも整えつつ、店舗でしか体験できない仕掛けづくりに注力したいと思っています。そして卸売業などBtoBのお客様も新たな発見ができるよう、実店舗に足を運んでいただき「リアル」なカタログを見て、感じてほしいです。
(※)KAORIUMはSCENTMATIC株式会社の登録商標です。
暮らしも仕事も「自分の好きなこと」で満たされる時間に
ーー人財育成の方針や社風もうかがえればと思います。
重永忠:
ハーブやアロマテラピーが大好きな人たちが入社し、「自分の喜びを広める」「夢中になれる仕事で世の中の役に立つ」という志事の醍醐味を体現しています。
弊社で活躍しているのは、自ら手を挙げて新しいことに挑戦する『進取の気性』を持つ人財です。「まだそこにない文化・世界をつくること」を楽しんできた企業なので、同じ思考の方が水を得た魚のように活躍できる土壌があります。人財教育においては、何事も「自分事」として自発的に決定・行動するように促し、人間力を育てていることも特徴です。
「人生100年時代」において長く働ける会社であるために、組織構造をフラットにしてみんなでワイワイやる企業風土を築きました。これからも「志事の醍醐味」を感じている社員の多さを弊社における「社員満足度」と捉え、経営努力を続けていきたいと思います。
ーー今後の展望をお聞かせください。
重永忠:
私たちは「自然の恵み」こそが人間の原点だと考え、古き良きものを現代の生活にフィットする形で提案しています。古来より続く「香りで生活に潤いを与える文化」が当たり前に浸透すれば、企業としてもさらに成長していけることでしょう。
今は、「モノ」を増やすことで充足する時代ではないとも感じています。「心を豊かにする時間」で生活の質を上げ、皆様が幸せになれるような商品づくりをしていきたいですね。
編集後記
企業のファンと共に成長し、香りの文化を広めてきた「生活の木」。アロマテラピーの世界は、「店頭で香りを選ぶ」というアナログの体験が最も大切な一方で、間口を広げるためのデジタル化は避けられない時代となった。AIによる香り診断は、まさに今の時代に合った試みであり、「新しい文化をつくり続ける」という企業スタイルの強固さが表れている。

重永忠/1961年、東京都生まれ。20代から家業のハーブ・アロマテラピー事業に携わり、普及に励む。大学卒業後は大手流通企業へ入社。その後、経済産業省中小企業大学校経営後継者コースを経て、株式会社生活の木の代表取締役に就任。1995年、アーユルヴェーダを体験できるネイチャーリゾート「Hotel Tree of life」をスリランカにオープン。現在は「Wellness & Well-being ある社会の実現」をパーパスに、オンリーワン経営を推進中。