
1892年に設立され、「ござ」の輸出事業で創業した萩原株式会社。現在は、家具やい草製品を中心に、素材の特性を生かした家具やカーペットの開発・販売をしている。代表取締役社長の萩原秀泰氏に、就任後の取り組みや事業内容、今後の展望についてうかがった。
創業130年を超える「ものづくり企業」の組織改革に着手
ーーご経歴や社長としての取り組みをお話しいただけますか。
萩原秀泰:
大学卒業後、家業として父が代表を務めていた「萩原」に入社しました。物流倉庫での出荷作業や営業部門に携わったのち、敷物事業の取締役などを経て、現職に就任したのは35歳のときです。
「萩原」は途中、事業部門ごとに3社に分社化し、2010年に再合併した経緯があります。2018年に私が社長に就任してからは、分社時代に生まれた業務や文化の違いを整理すると共に、「指示系統がきちんと通る組織」を目指して「脱オーナー企業」を掲げています。
新しい組織づくりを目指した背景には、役割や仕事を1人で兼任する場面が多かったことが挙げられます。企業は、従業員のポジションを明確にした上で、担当者に決裁権を委譲するべきだと考えました。トップからの指示をそのまま実行するよりも、現場がやりやすい形に変えて対応できる組織が理想です。同時に、役員と私がキャッチボールできる仕組みも必要だと考え、ボトムアップも見直しました。
ーー入社してから特に印象的なエピソードはありますか?
萩原秀泰:
2022年に創業130周年プロジェクトとして、花火を打ち上げたことが印象深いですね。私の提案で有志のプロジェクトチームを結成したものの、地域には「一企業が花火を上げる」という前例がありませんでした。警備体制の構築や会場探しに難航しましたが、最終的には地域の町内会や、行政に協力してもらい実現できました。
防火面では古くからの取引先に消防団の方がおられて協力いただいたり、県議会議員の方にも警備に関するアドバイスをいただきました。前例がないことであっても「社員と協力しながら課題をひとつひとつ解決し、実現することができる」という達成感を得られたのはとても大きかったですね。
何よりも「萩原」が築いてきた関係性を生かす形での開催となり、先代から「人とのつながり」を大切にしてきた企業であることを実感しました。
い草の栽培から製品化までを担い、卸売・直営を両立

ーー事業内容について教えてください。
萩原秀泰:
い草を使用した「ござ」の問屋から始まり、現在は、敷物から家具まで幅広いアイテムを取り扱っています。自社内で企画した製品を海外や国内の提携工場にて生産し、小売店のお客様へ卸すのがメイン事業です。
卸販売は、まとまった売上規模を見込める一方で、「自分たちで売り場をコントロールできない」というデメリットがあります。そこで、自分たちが良いと思う製品を自由に販売できるように、直営店舗と自社ECサイトの展開にも力を入れるようになりました。
EC事業を成長させた結果、売り方や売れ筋などの「ノウハウ」と「商品」を、セットで卸先に提案できることが弊社の強みとなっています。今はインターネットの発展によって、誰もが販売側に回れるため、簡単にモノが売れる時代ではありません。小売店としても、問屋が売るノウハウを持ち、一般消費者へアプローチできた方が助かるのだと感じています。
ーーい草製品における独自の取り組みをお聞かせください。
萩原秀泰:
畳を使う和室の減少など、さまざまな要因から「い草製品」の市場は年々縮小しています。い草専門の業者や生産者をはじめ、川上に行けば行くほど限界に近づいている状況を打破するべく、弊社独自で業界を守るための活動をスタートしました。
い草は、植え付けと収穫を経て「ござ」を織る作業まで終えて、初めて商品価値が出る農作物です。お金に変わるまでの期間が長いので、農業の中でもリスクが高いことは間違いありません。
農家の苦労とリスクの改善策を知る手段として、2人の若手社員が静岡県・焼津でい草の栽培を始めました。また、消費者の方にも興味を持ってもらうことで、い草製品の需要を拡大できればと思っています。いずれはスマート農業に挑戦し、国内最大の産地である熊本県八代市の農家さんにフィードバックできるようになればいいなと思っています。
祖業はい草製品ですが、弊社は「素材の良さと丁寧な仕事を感じられる製品」をテーマに商品を開発しています。また、取り扱いは国産い草だけではなく、自社で栽培管理した中国製のい草製品や、自社工場で製造している樹脂製のござもあり、すべて素材から管理しています。
い草業界でこれだけ多岐にわたった商品を取り扱っている会社は弊社のみとなっています。弊社にできることは、素材を問わない「畳文化の需要喚起」であり、業界にかかわるすべての人を幸せにする方法だと考えています。
従業員に働きやすさと責任感を与える「脱オーナー企業」計画
ーー独自の福利厚生はありますか?
萩原秀泰:
弊社では働きやすさを重視した福利厚生を提供しています。たとえば、従業員が抱えている一次的な金銭の問題を軽減する取り組みとして、100万円まで低金利で利用できる一時的な貸付制度を設けました。30歳までの従業員を対象とした、大学奨学金の代理返還制度もスタートします。
また、2022年に開園した企業主導型保育園は、従業員が優先的に利用できる保育園の運営を行い、安心して産休育休から復帰できるようにサポートしています。「畳の上での保育」を大切にしたいと思ったことから、保育室は約20畳の畳敷きにしました。そこで遊んだり、お昼寝をしたり、子どもたちがのびのびと過ごせる環境になっています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
萩原秀泰:
私が理想とする企業像は、「従業員が自分の子どもを就職させたいと思う」会社です。そのために、自分たち自身で会社を運営し、より良い会社に変革していってほしいという思いから、株式の保有割合を変更しました。具体的にはオーナー家の保有割合を下げ、役員持株会と従業員持株会で51%以上保有しています。
これにより、私自身も自分の責任をしっかりと果たし成長し続けなければ解任される立場になり、より一層経営にも緊張感を持つことができています。また、役員や従業員にも経営者意識を持ってもらいながら、その裏にある責任を自覚し、ともに成長したいと考えています。
社員にも「私が駄目だと思ったらクビにしなさい」と伝えています。もし、そうなったときは私以上に従業員が信頼できるリーダーが育っている証拠で、本当の意味での「脱オーナー企業」に生まれ変わります。最終的には、従業員とその家族が、この会社を通して幸せになってくれることが一番ですね。安定的な運営を続けるためにも、売上や利益、働きがいを追求していきたいと思います。
「萩原製造所」
創業当時から取り扱っているい草製品を中心にラグ・カーペット・インテリア小物を販売。
https://hagiharaseizosho.shop/
「Qualial」
「インテリアで暮らしを豊かに」をコンセプトにロープライスでオシャレな家具を販売。
https://qualial.shop/
「はぎもの舎」
独自開発のふわもち素材「ソフティル」をいかしたインテリアアイテムを販売。
https://www.hagimonoya.com/
編集後記
「会社の記念イベントに花火を打ち上げる」という派手な企画に必要なものは、お金だけではなく「人とのつながり」だった。長い歴史の中で多くの人に愛され、幅広い製品を手がける企業となった「萩原」が、業界全体に及ぶ影響力を持っていることは明らかだ。「い草」という日本が守るべき文化の存続と拡大に取り組む同社から、これからも目が離せない。

萩原秀泰/1984年、岡山県生まれ。國學院大學を卒業。2007年、萩原株式会社に入社。2014年に常務取締役、2017年に代表取締役副社長を経て、2018年に代表取締役社長へ就任。