
雨の日に仕方なく使っている傘が、場合によってはその日の気分を変えてくれることもある。さらに、使うことで環境への配慮につながると気づいたら、現代では使い捨てることも珍しくない傘への意識も変わるのではないだろうか。
洋傘の企画と卸売を手がける株式会社ビコーズの代表取締役である渡辺一徳氏は、デザインや環境配慮を意識した傘を開発し、世に送り出すことで、人々に前向きな気持ちを届けたいという強いこだわりを持っている。今回は、渡辺氏に傘開発にかける思いや販売戦略、今後の展望についてお話をうかがった。
傘から広がる世界、失敗が生んだ新しい挑戦

ーー起業した際のエピソードをお聞かせください。
渡辺一徳:
バブル経済の真っただ中で社会人デビューを果たした後、24歳の頃に自分の将来や仕事に対する向き合い方を本格的に考え始めました。「自分で努力して目標を達成できた時に、感極まって涙を流すほど、やりがいを感じる仕事をしたい」という気持ちが高まり、それが起業のきっかけになりました。
傘を扱うようになったきっかけは、偶然「傘の販売が儲かるらしい」という話を聞いたことが大きな理由になっています。最初は軽い気持ちで売り始めたのですが、いざ初めてみたら奥の深い世界で、一部で成功しつつも失敗の連続でした。苦労の末にようやく思い通りの傘がつくれるようになると、お客様からも好評をいただけるようになり、私はこの仕事にやりがいを見出したのです。
ーー設立当初はどういった会社にしていきたいとお考えでしたか?
渡辺一徳:
自由で活気のある雰囲気を大切にしたいと考えていました。自分が管理しなくても社員が自主的に動ける組織にしたかったのです。管理することで安心するのではなく、信頼して仕事を任せることが重要だと考え、社員一人ひとりを信頼し、社員が自ら動いて仕事に取り組む、そんな事が自然に実現できる会社が理想だと、今でも思っています。
以前はうまくいかないことがあると他人のせいにしがちでしたが、今ではその考え方を改めました。会社で問題が発生した場合、それはすべて自分の責任だと考えるようにしています。自分の責任を認めて反省することで成長につながり、他人のせいにするよりも結果的によい結果になるのだと気づきました。
ただの雨具ではない傘づくりへのこだわり

ーー改めて、貴社の事業内容について教えてください。
渡辺一徳:
傘をはじめとするレイングッズを主力商品として取り扱い、関連製品として日傘や晴雨兼用コートも含めて企画・デザインから海外の協力工場への発注、制作、小売りまで手掛けています。主力商品であるレイングッズを単なる雨具としてではなく、ファッションの一部として楽しんでもらいたいという思いを込め、弊社のデザインチームが中心となり、こだわりを詰め込んだ製品を制作しています。
傘は天候に左右される商品ですので、昨今の異常気象問題に対しては、レイングッズを中心に取り扱う企業として責任を持つべきだと考えています。環境への配慮を実現するため、リサイクルペットボトルを原料にしたサステナブルな商品を開発しています。弊社の商品を手に取ったお客様が環境への配慮にも興味を持ち、その意識が広がっていけばと考えています。
弊社はデザイン性も追求しており、色味や形、使用するパーツに至るまで、細部にこだわって生産しています。傘を開いた時の形や、閉じた時のたたずまいに注目する方は少ないかもしれませんが、弊社ではこれを重要なポイントの1つとしております。
ターゲットの年齢層に偏りはありませんが、特にファッションに敏感なお客様にご愛顧いただいており、オシャレなファッションアイテムとしてだけでなく、日傘は快適空間を演出できるように、雨傘は気分が落ち込みやすい雨の日に差すことで嬉しい気分になれるような傘づくりを心がけています。
前向きな気持ちになれる傘を一人でも多くの人のもとへ

ーー今後の展望についてはどうお考えでしょうか?
渡辺一徳:
5年後には売上を倍増させる計画を立てており、現在は中国に現地法人を設立し、生産管理と海外販売の拠点として海外展開を進めています。取引先は中国や韓国、シンガポール、ASEAN諸国に注目しています。これらの地域は経済成長が著しくて若者人口が多く、また雨が多い気候的特徴が弊社のビジネスモデルと非常に相性が良いと考えています。
新商品の開発に関しては、より環境に配慮した商品、日傘であれば遮熱効果が高い商品、そしてデザイン性に優れた商品開発に力を入れ、EC事業に関しては、外部のコンサルタントからアドバイスを受けながら経験と知識を蓄積し、さらに力をつけているところです。
製品には自信を持っており、人々の目に触れる機会が増えれば販売数の増加につながると確信しているため、「どのように宣伝し、認知を広げていくか」についての戦略が重要なポイントだと思っています。
ささやかな理想ですが、弊社の製品を一人でも多くの方に使っていただき、ありふれた日常に花が咲くような気分を味わっていただきたいと考えています。そのような体験を国内のお客様だけでなく、海外のお客様にも広げていき、弊社の製品を通じて「今日もがんばるぞ」「今日も楽しいな」といった前向きな気持ちを多くの人々に感じてもらいたいと思っています。
編集後記
傘が単なる道具ではなく、持ち主の気持ちを前向きに変える力を持っていると信じ、デザイン、機能性、環境への配慮を徹底して追求し、これまで以上に高品質な傘を世に送り出している株式会社ビコーズ。その情熱は仲間たちの共感を呼び、彼の作り出す傘に込められた思いが使う人に伝わっていく。彼の理想への邁進の姿勢が、傘を通じて多くの人々の心に響き、道具として扱われる傘のイメージを大きく変えていくだろう。

渡辺一徳/1966年東京生まれ。婦人服メーカー勤務を経て、1993年に株式会社ビコーズを創業。