
業務のDX推進が重視される中、人事管理や人材活用の面で企業の資産である人材に対するソリューションを提供し、企業の人事部門を支えるのが、カシオヒューマンシステムズ株式会社だ。長年の営業活動で重視してきたポイントや、社長就任後から取り組んでいる組織改革などについて、代表取締役社長の藤井茂樹氏にうかがった。
時代が変わっても大切な営業の基本
ーーこれまで人事システム事業に携わる中で得た経験についてお聞かせください。
藤井茂樹:
私がカシオ計算機株式会社に入社した1995年は、Windows 95が登場しパーソナルコンピュータが世の中に普及し始めた時期でした。こうした流れを受け、企業でもコンピュータが普及していくと考えていたころ、人事システムの営業部門への配属が決まりました。
それから10年半ほど営業活動をする中で意識していたのが、単に商品を紹介するだけではなく、お客様のニーズに合った提案をすることです。特にお客様が何に困っていて、どのような目的でソリューションを導入したいと考えているのかをしっかりとヒアリングすることを心がけていましたね。
これによりお客様との信頼関係を築き、ビジネスパートナーとして認められるようになりました。なお、私の時代は直接お客様のオフィスに出向いて営業していましたが、現在はデジタルプロモーションを活用したアプローチが一般的になりました。
ただし営業方法は変わっても、お客様との関係性を深めるポイントは同じだと考えています。そのため社員たちには、お客様の伴走者として一緒に課題を解決していく姿勢を大切にするよう伝えています。
ーー改めて貴社の事業内容をご紹介いただけますか。
藤井茂樹:
社名に「ヒューマンシステムズ」とある通り、人にまつわるソリューションを中核事業としています。1990年から企業向けの人事統合システム「ADPS(アドプス)」を提供し、人事部門の業務効率化を支援してきました。
当時は非定型の業務が多い人事部門にて、人事部門独自でシステムの構築・運用がしたいというニーズが高まっていました。そして多くの企業様も同じ課題を抱えており、弊社のシステムに対し「まさに自分たちが欲しかったのはこれだ」と高い評価をいただきました。
ITに詳しくない方でも業務に必要なシステムをつくれるような、簡易なプログラミング言語を開発し(現在でいうローコード)、利用部門でシステム構築ができる設計にしました。当時はまだWindowsが世に出ていなかったため、このシステムは画期的だと多くの企業様から反響を得たのです。
2010年以降は就業管理や人材マネジメント機能も追加し、あらゆる場面で弊社のシステムをご活用いただいています。その中のひとつが、「Hito-Compass(ヒトコンパス)」です。これは従業員の自律性を育みつつ、戦略的な人材活用を支援するタレントマネジメントシステムとなっており、従業員の基本情報から目標・評価・スキル情報などを一元化し、日々のマネジメントや従業員の育成・要員配置など組織パフォーマンス向上のために活用いただいています。
組織改革が契機となった社内改善計画

ーー社長就任後の1年でどのような取り組みを行ってきましたか。
藤井茂樹:
これまで人事システムの商品開発機能と事業戦略はカシオ計算機本体が担い、弊社は製品の販売と導入サポートを行うという位置づけでした。しかし、2024年の組織改革で人事システムの開発機能と戦略部門を統合し、商品開発から販売・導入サポートまでを自社で一貫して行うようになりました。
その結果、お客様の声をダイレクトに開発に伝えられるようになったのです。こうした組織の改編による追い風を活かせるよう、組織のトップとして風土改革を進めてきました。特に組織の壁が無くなったメリットを活かし、コミュニケーションの活性化に注力しています。
また、近年は経験者採用に力を入れており、新しいメンバーが続々と増えている状況です。転職してきた社員が弊社に馴染めるよう、人材育成や社内コミュニケーションの円滑化を推進しています。これにより、スピード感を持って商品開発を進められる環境の醸成を目指しています。
人事システムの草分け的存在ならではの強み
ーー他社との差別化ポイントや貴社ならではの強みをお聞かせください。
藤井茂樹:
1990年から35年に渡り人事システム事業を行っており、この業界では老舗といえる存在です。こうして長年にわたり培ってきた経験とノウハウが、お客様への安心感につながっていると自負しています。
また、機能ありきではなく、お客様のニーズを汲みながら機能の改善を重ね、現場でお客様が適切に活用できるシステムを提供しているのも特徴です。それに加え、お客様に寄り添った伴走型のサポートを行っている点も、弊社ならではの強みですね。さらに商品自体の使いやすさも重視し、お客様のご要望をうかがいながら継続的に機能強化を図っています。
ーー現在注力している取り組みについて教えてください。
藤井茂樹:
特に力を入れているのが、営業部門の属人化の撤廃です。これまでは1人の営業担当者が、新規開拓から商談、稼働後のサポートまで担っていました。もちろんこの方法はノウハウを蓄積でき、人材育成面で大きなメリットがあります。
その一方で属人化が進み、事業拡大の際は人員を増やすしかないのが大きな課題でした。そこで現在は営業部門の分業制を導入しています。具体的にはフィールドセールスチームはお客様との信頼関係を構築し、商談途中からクロージングチームが受注獲得まで伴走するといった形式です。こうして有能な営業スタッフに育て、会社の重要な資産となるよう人材育成に取り組んでいます。
その中で私が意識しているのが、従来の営業方法で顧客との信頼を築いてきたベテラン社員と、営業DXを進める若手社員をシームレスにつなげることです。ベテラン社員にはこれまで培った経験を活かし、対面でのコミュニケーション活動を任せるようにしています。こうして営業の効率化を進めながら関係構築を行い、顧客からの信頼獲得につなげたいですね。
自社システムの機能を強化し、管理部門領域を幅広くカバー
ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。
藤井茂樹:
現在は、自社の持続的な成長に向けた各部署に適切な人材を配置したいというニーズに応えるため、「Hito-Compass(ヒトコンパス)」を軸に、社員のスキルや経験をデータ化し、効果的な人材活用や育成の判断をサポートできるような商品開発を行っています。
人的資本経営や健康経営の視点を中心に、顧客の観点が変化しつつある流れを受け、2030年を目途に、人材データのプラットフォーマーとしての地位を確立したいと考えています。こうして新たな領域に進出していき、業界でさらなる存在感を発揮できるよう尽力していきます。
編集後記
企業にPCが普及する以前から人事システム業務に携わり、この道一筋で業界の移り変わりを見てきた藤井社長。今回話をお聞きし、これまで培ったノウハウを活かしながら、時代の流れに合わせた組織改革をけん引する姿が印象的だった。

藤井茂樹/1995年にカシオ計算機株式会社に入社。10年半人事システムの営業を経験し、その後人事システムの営業と商品企画に6年、システム事業全般の事業企画に8年携わる。2019年にシステム事業部長、2021年に執行役員を経て、2024年にカシオヒューマンシステムズ株式会社代表取締役社長に就任。