※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

総合食品の卸売企業として広島の食を支える中村角株式会社。豊富な品ぞろえ、顧客のニーズに合わせた提案、徹底した品質管理により、地域の企業から信頼を寄せられている会社だ。近年は、PB(プライベート・ブランド)の商品にも力を入れるなど、新しい分野へ果敢に挑戦している。今回、代表取締役社長の中村一朗氏を取材し、同氏の経営観や組織づくりに対する考えや、今後の展望などを聞いた。

「会社を継ぐことが自分に与えられた仕事」という使命感から銀行を退職

ーー前職での経験や貴社を継いだ経緯について聞かせてください。

中村一朗:
大学卒業後は日本興業銀行(現:みずほ銀行)へ入社し、社会人のいろはや数字の見方などを教えてもらいました。このときに養った「企業の信用力を判断する力」は、経営者になった今でもとても役に立っています。また、特に中小企業においては、信用力を測るという意味では「会社に後継者がいるかどうか」も、重要な要素になることをそこで学びました。

そういったこともあり、6年ほど銀行で働いた後、父が社長を務める中村角へ入社することを決意しました。後継者として会社に戻ることが、私に与えられた大切な仕事だと思ったからです。会社を継ぐと父に話したとき、表立って嬉しそうな顔はしていませんでしたが、人づてに「お父さんが喜んでいたよ」と聞くことができたときは、私も嬉しく思いました。

ーー社長就任後、どのような社内改革を実施しましたか。

中村一朗:
入社当時、銀行と比べ弊社は、いろいろな面で遅れていると感じていました。特に強く感じたのが、社内業務のデジタル化が進んでいないことです。たとえば当時は、電話やFAXなどさまざまな手法で受発注のやりとりを行っており、それらすべてを手作業で処理していたため人為的ミスも一定起こっていました。

それだけでなく、工数も残業も増えている状況で、これをどうにか改善しようと、LINEで簡単に入力できるシステムを導入したのです。弊社はJFSA(日本外食流通サービス協会)に加盟しているので、実際に社内改革を行う際は、ほかの加盟会社からデジタル化の取り組みについてヒントなどを得ながら進めていきました。

デジタル化に力を入れているのは、社員の待遇を向上させたいという強い思いがあるからです。デジタル化が進めば、業務が効率化されて無駄が減る分、会社の利益が増え、その利益で社員の待遇をより良いものにできます。社員の待遇を改善する手段として、私はデジタル化の取り組みを進めたいのです。

そのほかに、直近ではIT人材の採用を社内改革として行っています。今後、IT人材の育成に力を入れるため、来春からはSE候補という形で新卒採用も行う予定です。

社員の幸福を追求し、企業理念を実現することで「いい会社」を目指す

ーーより良い職場環境づくりへの取り組みについて教えてください。

中村一朗:
私は何より中村角を「いい会社」にしたいと思っています。私が考える「いい会社」とは、企業理念を実現している会社のことです。たとえば弊社では、企業理念を社員たちに唱和してもらっていますが、理念の1つに「会社の成長を通じ、社員の物心両面の幸福を追求する」があります。

また、「いい会社」とは「強い会社」のことでもあり、この「強い会社」とは「儲かる会社」だと考えています。これからも会社として強くあり続けるためにために、弊社では企業理念の実現と利益の追求を妥協しません。

たとえば「社員の物心両面の幸福」を実現するために、懇親会やフットサル同好会の試合などのイベントを開催し、部署を横断して楽しめる機会を積極的に生み出しています。弊社の職場環境について、インターンシップなどで訪れる学生たちから「雰囲気が良い」「仲が良さそう」という感想をよくいただきます。私も、社内が和気藹々としていると感じています。

また、努力している社員に対して適切に決算賞与を支払っているのも、社員の幸福を考えた取り組みの1つです。会社が得た利益は、社員にできるだけ多く還元したいという思いがあります。

ーー社長と社員の関係性について、意識していることはありますか。

中村一朗:
社員の本音や要望を直接聞けるよう、私からも積極的に声をかけて、意見を吸い上げるように心がけていますね。また、社員たちのモチベーションが少しでも上がればという思いから、励ましの言葉をかけることも意識しています。

時には懇親会を実施し、社員とコミュニケーションをとったり、社員と同じフロアに席を置いて同じ空間で仕事をしたりと、社員と距離を縮める工夫もしています。

PB商品の開発・販売を通して地域の人々に貢献したい

ーー今後の注力テーマを聞かせてください。

中村一朗:
1つは営業部門の強化です。弊社の営業部門は家庭用と業務用に大きく分かれており、今後は特に業務用を強化したいと考えています。今までは大手企業を中心に取引をしてきましたが、今後は地元企業との取引も増やしていきたいです。理由としては、地方の商品の仕入れを弊社に任せたいと言ってくださるお客様もいますし、こうした商品は利益率も高いケースがよくあるからです。

そのため、大手企業との取引もこれまでどおり重視しつつ、中小企業とも深い関係を築ける会社になりたいと考えています。実際に弊社は地域に密着した企業として、中小の企業とも密な関係を築ける体制づくりを進めています。売り上げのみにこだわるのではなく、商品の品質を上げて利益を追求する。そして、お客様との信頼関係を築く。この2つが、今後はより一層重要になってくるでしょう。

また、物流コストの削減も1つの課題となっているため、力を入れて取り組んでいきます。現在、今まで人が仕分けしていた作業を機械化できるよう進めており、新しい機械の据え付け工事をしているところです。

ーー今後の展望をお願いします。

中村一朗:
現在、弊社は卸業の枠を超え「PB(プライベート・ブランド)の商品」も手がけており、例えばですが、コシがしっかり残ることを意識して一般の麺とは製法を変えた焼きそば麺や、広島のお好み焼きによく入っていて地域の人から馴染み深いソフトなイカ天などを開発しており、イカ天は「オタフクお好みソース」とコラボした商品です。

今まではPB商品の開発等には挑戦していませんでしたが、弊社にしかない商品で独自性を出していきたいと考えています。本当に良い商品を地元の方々に販売したいため、安さではなく品質の高さで勝負できるよう、企画や開発を進めています。そして最終的な目標としては、業務用も含めた総合卸の会社として、地域で圧倒的な1番になりたいと考えています。

編集後記

試行錯誤を繰り返しながら、会社を成長させてきた中村社長。業務効率化の取り組みや懇親会の開催など、どの取り組みも「社員の幸福のため」が前提にある。今後はPB商品にも力を入れるとのことで、同社の挑戦が、広島県をさらに盛り上げてくれるだろう。

中村一朗/1968年広島市生まれ。1992年に東京大学経済学部を卒業し、日本興業銀行に入社。途中2年間ほど運輸省(運輸政策局)に出向。家業を継ぐ決意をして1998年に同行を退職、中村角株式会社に入社。2010年に社長就任。