
1979年に大阪で創業した日本ビルサービス株式会社は、高層マンションや複合型マンション、団地など、さまざまな建物の管理業務を受託し、人々の快適な暮らしを支えている。さらに、マンション管理で培ったノウハウをもとに老朽化を予測し、大規模な修繕工事の計画、提案を行うことで、マンションの資産価値を高めるためのサポートも行っている。
父親の後を継ぎ、2019年に代表取締役に就任した工藤喜一氏は、コロナショックの中、経営の舵とりを担い、古い体質の会社を変えるために業務の効率化を図っている。工藤社長にコロナ禍を乗り越えた施策や大切にしている考え方についてうかがった。
コロナ禍でも居住者様の安全と快適な暮らしを守り続ける
ーー日本ビルサービスに入社するまでの経緯を教えてください。
工藤喜一:
ゆくゆくは祖父が創業したこの会社(日本ビルサービス)に勤めたいと考えていましたが、他の会社で社会勉強をした方が良いという父の意向もあり、就職活動をして不動産投資会社の営業を経験しました。4年間「売れば天国、売らなければ地獄」という営業の仕事を経験したことで、数字に執着することを学んだ後、2008年に26歳で弊社に入社しました。
ーーコロナショックはどのように乗り越えましたか?
工藤喜一:
2019年に代表取締役に就任してすぐにコロナ禍に突入し、緊急事態宣言で街から人がいなくなったとき、マンション管理において重要な“人の派遣”をどうするのか、自分なりに考えました。管理員さんがいなくなればごみの管理や清掃が行われず、住民が快適に過ごせなくなります。
また、部屋に入る消防点検をストップすれば火災が起きたときに住民の命が危ぶまれるかもしれません。そこで、私たちは世間の流れに逆行し、いち早く通常業務を行うことを決断しました。
コロナ禍を経験し、経営者として正解がない状況でも答えを見つけなければならないことを痛感しました。先代からも、先延ばしせず早い段階で決断することが重要であり、その上での失敗であればまだ取り戻す余地があると教えられました。
現場経験が豊富な役員と従業員が一丸となってマンションライフをサポート

ーー貴社の業務内容を教えてください。
工藤喜一:
私たちの仕事を一言で表すと、居住者様へのサポート業務です。分譲マンションの管理組合様と委託契約を締結し、理事会や総会の運営のサポートや、清掃やごみの仕分けをする管理員さんの雇用など、管理に関する業務を多岐にわたって行っています。また、さまざまな築年数のマンションを管理してきた経験を活かし、長期的な視点で修繕計画を提案するコンサルティング業務も行っています。
ーー貴社の強みは何ですか?
工藤喜一:
弊社は大手の不動産管理会社と違って親会社がなく、現場経験のある役員がほとんどであるため、管理組合様にも精通しており、すぐに指示や対策を出せることが強みです。また、親会社がないことで独立的に動けることも強みだと感じています。
ーー貴社の課題とそれに対する取り組みについて教えてください。
工藤喜一:
私たちの仕事は年に1回マンションの管理組合様と委託契約を結んで、毎年同じ業務を行うため、昔からのやり方を踏襲することが多いので、入社当初から「もっと生産性が上がる方法があるのではないか」という違和感を感じていました。そこで、社内の業務報告書や稟議書を電子化するなど、業務の効率化を進めているところです。
常に価値観をアップデートすることで毎日をターニングポイントに
ーー大切にしている考え方を教えてください。
工藤喜一:
異なる価値観を持つ人が集まって社会コミュニティが形成されますが、私は自分の価値観を日々改めていくことを意識しています。たとえば、私が幼い頃の一般的な子どもの将来の夢といえばプロ野球選手でしたが、今ではユーチューバーになりたいと答える子どもが多いように、時代が変化していく中で自分の価値観も改めていかなければ、凝り固まったまま歳をとってしまいます。
もっと良いサービスを提供できないか、もっと売上を上げることはできないか、昨日より今日もっとできることはないかと、常に考えることで、毎日がターニングポイントになると思っています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
工藤喜一:
「守破離」という言葉があるように、先代の考えやアイデンティティは守りつつ、時代に合った方針に変えて、新しいものを生み出していきたいと思います。また、下請業者に業務を外注する構造ですが、お金を払う立場だからといって権利を行使するのではなく、事業者同士が尊重し合ってフラットな関係でいられるような業界に変えていきたいですね。
編集後記
経営者として、問題を先延ばしにせずその場で決断することが重要だと語る工藤社長。コロナ禍の緊急事態宣言の最中、マンションに住む人々の暮らしを最優先し、これまで通りの業務を続けるという決断は容易ではなかっただろう。
「居住者様の快適な暮らしを守る」という軸をぶらさず、常に時代の価値観に合わせて努力をする工藤社長が率いる日本ビルサービスは、今後も管理組合や居住者から信頼される企業であり続けるだろう。

工藤喜一/1982年、北海道生まれ。大阪学院大学卒業。2008年、日本ビルサービス株式会社に入社。理事会運営などのフロント業務を経験後、工事部、管理部などの現場担当を経て、2018年、取締役部長に就任。2019年、代表取締役に就任。