
名南歯科貿易株式会社は、歯科医師や歯科技工士向けの医療機器を輸入・販売する専門商社だ。歯科医療に関する技術は日に日に進歩しており、特に海外では最先端の医療機器が開発されている。同社の代表取締役社長である新美洋平氏は、「海外のメーカーと直接取引して先進的な医療機器を仕入れることが弊社の強み」と語る。新美社長に、自身の経歴やこれまでの取り組み、今後の展望を聞いた。
「遊び心がない」前職での上司の一言で仕事への姿勢が一変
ーー社長に就任するまでの経歴を教えてください。
新美洋平:
弊社は私の父が立ち上げた会社で、幼い頃からいずれ後を継ぐ意識はありました。ただ、20代のうちは他の会社で勉強したい気持ちがあったため、新卒で弊社に入社したわけではありません。ニューヨーク州立大学でMBAを取得した後に、コンサルティング会社のアクセンチュアに入社し、7年間の在職中には海外勤務も経験しました。
弊社に入社したのは2007年です。専務取締役として営業業務や貿易業務、薬事業務も経験し、2016年に社長に就任しました。
ーー新美社長がビジネスマンとして成長できたターニングポイントは何でしたか。
新美洋平:
アクセンチュアに勤めていた際に、上司から「新美には遊び心がない」と言われたことがありました。ただ指示されたとおりにこなすだけではなく、自分だけの良さや考えを盛り込み、オリジナルのエッセンスを入れないと、自分自身が仕事をする意味がないだろうという指摘でした。
その言葉を受けて、常に自分なりのプラスアルファを入れることを意識するようになりました。姿勢が自分主体に変わり、以前より日々の業務が面白く感じるようになったのです。この経験から仕事への向き合い方が大きく変わり、現在につながっています。
「1on1」で社員との距離を縮め組織体制も整備

ーー社長に就任して掲げた目標は何でしたか?
新美洋平:
まずは年商10億円の目標を掲げました。また、現在の企業理念である「挑戦と感謝で、歯科と製造の現場に価値あるモノとサービスを届け、全社員の幸せと繁栄を実現する」を策定したのもその頃です。以前の弊社は、会社としての目標や企業理念があいまいだったため、社長就任を機に明確化しました。
ーー社長になってから苦労したことを教えてください。
新美洋平:
社員とのコミュニケーションです。私が社長に就任した時期は会社の成長が停滞しており、社内の雰囲気も悪化し、社員から「何をどうがんばれば良いのかわからない」という意見が上がったこともありました。
対策としてまず行ったのは、社員との1on1の場を年に2回設け、直接コミュニケーションをとることです。さらに評価制度も見直して評価基準を明確化し、昇格の時期も均一化して、誰でも平等にチャンスがある昇格制度へと刷新しました。風通しの良い職場環境づくりを意識してこれらの施策を行った結果、徐々に会社全体の雰囲気が良くなり、事業が好転してきたように思います。
社長自らYoutubeに出演し、商品の魅力を伝える

ーー社長はYoutubeに自ら出演して情報発信をされていますね。なぜその活動を始めたのですか?
新美洋平:
商品の魅力を伝える媒体を自社で保有することが大きな武器になると考えたためです。歯科業界では、メーカーからディーラー、ディーラーから歯科医院へと商品が流通します。弊社は商品の良さをディーラーに伝える役割で、ディーラーは歯科医院にそれを伝える必要がありますが、近年では医療機器の構造や使用方法が複雑化しており、的確なプロモーションが難しいという課題がありました。
そこで、まずは自分たちが商品の魅力を十分に伝えるために、Youtubeを活用しようと考えたのです。最初は趣味の延長のように1人で撮影していましたが、だんだんと話題に上るようになり、現在では撮影・編集体制が整い、安定して動画を配信できています。
海外から最先端の医療機器を仕入れて情報発信やサポートにも注力
ーー現在、力を入れている取り組みを教えてください。
新美洋平:
3Dプリンターなどのデジタル機器の販売です。近年では歯科治療の器具もデジタル化が進んでいます。たとえば、以前は歯型をとるためにシリコンゴムのような「印象材」を噛む必要がありましたが、今では3Dスキャナーで歯型を採取できます。歯型のデータをそのまま技工所に送信し、3Dプリンターで出力することも可能です。
このような技術の進歩やニーズの変化に合わせて、取り扱う機器や材料もアップデートしていきたいと考えています。
ーー貴社の強みはどのような点でしょうか?
新美洋平:
主には、お客さまサポート力、情報発信力、商品力の3つですね。技術の進歩に伴い、医療機器の構造や使用方法は以前よりも複雑で難しくなりました。歯科医師や歯科技工士の方が最新の機器を使い慣れていない場合もあるため、使用方法を熟知した弊社のスタッフがサポートできる体制を整えています。
また、Youtubeのほかにも、XなどのSNSを活用してユーザーに直接、機器の魅力や使い方を伝える情報発信力も強みといえるでしょう。さらに、海外メーカーと直接取引して商品を仕入れる商品力にも自信があります。海外商品の発掘を積極的に行い、できる限り早く先進的な機器を国内に取り入れられるよう努めています。
歯科業界の未来を見据え、デジタル機器に力を入れる
ーー注力していきたい施策について教えてください。
新美洋平:
商品力の強化ですね。中でも特に力を入れているのが3Dプリンターを中心としたデジタル機器です。3Dプリンターで差し歯や入れ歯といった技工物を作成する際の材料の取り扱いも増やしたいと考えています。歯科技工物の材料はますます進歩しているため、さまざまなニーズにお応えできるようにラインアップをそろえていきたいですね。
また、マイクロスコープや口腔内カメラなど、歯科医師の視野をサポートする製品にも力を入れています。たとえばマイクロスコープは歯科用の顕微鏡で、患部を大きく拡大して検査や治療の精度を上げるものです。これまで、患部の観察には歯科用ルーペを使用するのが主流でしたが、近年ではマイクロスコープを導入する歯科医院も増えてきました。
ーー将来に向けた展望や目標を教えてください。
新美洋平:
歯科業界では、歯科技工士を目指す人の減少が課題となっています。厚生労働省が公表した「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、歯科技工士の年齢層は50代が2割強、60代以上が3割強を占めています。現在50歳以上の歯科技工士たちは10年後、20年後には退職していると予測されるため、今のやり方ではいずれ歯科医療が成り立たなくなってしまうでしょう。
今後の歯科医療を見据えると、さらなるデジタル化を避けては通れないと考えています。だからこそ、弊社は先進的な機器の取り扱いに力を入れ、医療機器の輸入・販売を通して、人々の健康に直結する歯科医療を支えていきたいと思っています。
YoutubeやSNSでは商品の実物や機能を紹介し、実演も交えながら情報を発信しておりますので、ぜひ一度ご覧ください。
Youtube
http://www.youtube.com/@MeinanDentalTrading
Xアカウント
https://x.com/meinandental
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編集後記
コンサルティング会社での経験を活かして社内改革や新しい販売戦略に取り組む新美社長。その言葉からは歯科医療全体の発展に貢献しようとする信念が感じられた。先進的な機器を取り入れれば患者にはメリットがあるが、医療現場へのサポートも必須になる。動画やSNSを総合的に駆使して情報発信する同社の活動は、顧客支援に寄与すると同時に、歯科業界全体の理解へもつながるだろう。

新美洋平/1976年、愛知県生まれ。1998年、名古屋大学法学部卒業。2001年、ニューヨーク州立大学にてMBA取得。2001年、アクセンチュア株式会社に入社し、通信業界を中心に大規模基幹システムのプロジェクトなどに参画。海外勤務も1年間経験。2007年、名南歯科貿易株式会社に入社。2016年、代表取締役社長に就任。歯科製品を紹介する「名南Youtubeチャンネル」の活動にも注力している。