※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

世界的なアニメ人気の高まりを受け、声優という職業に憧れる人が年々増えている。しかし、プロになったからといって必ずしも活躍できるわけではなく、声優業だけで生活できるのはごく一部だ。そんな厳しい現実の中で、声優養成所「スクールデュオ」の運営などを通じて、声優の発掘・育成に注力しているのが株式会社賢プロダクションだ。

同社は、声優マネジメントに加えて、イベントやテレビ・ラジオ番組、舞台演劇の企画・制作など幅広い事業を展開している。今回は、同社の代表取締役・内海賢太郎氏に、社長就任までの道のり、経営者としての信念、そして今後の目標について話をうかがった。

会社の危機をきっかけに入社し、10年の修業を経て社長に

ーー事業内容について教えてください。

内海賢太郎:
弊社は、芸能プロダクションの運営をはじめ、アニメや外国映画の吹き替え、ナレーション、朗読、読み聞かせ、各種イベントやコンサートの企画・制作、そして声優の育成などを行っています。これまで『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』『東京リベンジャーズ』など、数々の人気作品で活躍する声優たちを育ててきました。

特に力を入れているのが、声優の育成です。技術だけでなく、「人間として魅力ある人材」を育てることを重視しています。なぜなら、スキルがあるだけでは長く続けられず、人としての魅力が次の仕事を呼び込むと考えているからです。

創業者である父は生前、「役者である前に、人間としてあれ。感性を磨け」と常に語っていました。その言葉は、今も社内に受け継がれ、“賢プロイズム”として根付いています。

ーーもともと声優業界に興味はあったのでしょうか?

内海賢太郎:
両親が声優という環境で育ちながらも私は声優業界に対してそれほど強い興味を抱くことはなく、自分自身が声優を目指すことや会社に入る意思も持っておりませんでした。また両親から会社を継いでほしいとも言われたこともなく、大学を卒業したら別の道を歩むつもりでおりました。

ところが、大学3年のとき、弊社の一部タレントやマネージャーが一斉に辞めるという“独立事件”が起きました。父母の苦労する姿を見て、少しでも力になれればと思い、在学中にアルバイトとして入社することを決意しました。

そのまま大学卒業後も正社員として入社し、営業マネージャーとして10年間、タレントの売り込みや現場対応、音響制作などの仕事に従事しました。共演者、ディレクター、プロデューサーなど多くの人と関わる中で、「人とのつながり」が非常に重要な業界だと実感しました。

社長就任後の葛藤と、仲間意識を育てた組織改革

ーー実際に社長に就任してからはいかがでしたか?

内海賢太郎:
もともとは「両親が大変だから」という理由で入社したため、基礎知識も乏しく、右も左も分からない状態でした。そのため入社当初はこの仕事に対してやりがいを見つけることが難しい状況でした。

社員やタレントから、「本当に社長が務まるのか?」と陰で言われたり、実際に辞めていった人もいたりと、本当に辛い時期でした。でも、それが逆に「いつか見返してやる」という原動力にもなったのです。

先代である両親と同じことを繰り返すのではなく、自分なりのやり方でこれまでにない新しい挑戦をしていくことを目標に掲げました。

他事務所が取り組んでいない分野に果敢に挑戦する姿勢を大切にしています。また、私はサーバントリーダーとして社員の“上”に立つのではなく、“同じ目線”に立ち彼らを支えながら一緒に進んでいくことを意識しています。その結果、社員たちからは「共に頑張る仲間」として信頼を得ることができ、組織全体の結束力も徐々に高まるようになりました。

弊社では発掘・育成の段階からタレントと深く関わることが多いため、所属するタレントとはまるで家族のような温かなつながりを感じています。タレントたちの帰属意識の強さにおいては他の事務所にも決して劣らないと自負しております。

すべてのタレントが「声優業で食べていける」未来を目指して

ーー今後の展望についてお聞かせください。

内海賢太郎:
現在、弊社には約200名のタレントが所属していますが、そのすべてが声優業だけで生計を立てられているわけではありません。プロになることは簡単でも、職業として成り立たせるのは非常に難しいのが現実です。 だからこそ、私たちは常に「どうすれば彼らを“一握りの成功者”にできるか」を考えています。

タレント一人ひとりの人生を預かる立場として、その魅力や能力を最大限に発揮できる仕事を提供し、豊かな人生を歩んでもらうことが私たちの使命です。

そのためにも、営業力の強化はもちろん、より幅広いジャンルの仕事を獲得していきたいと考えています。最近では、声優の認知度向上により、仕事のジャンルも多様化しています。国内の案件を取りこぼさず、さらにグローバルな展開も視野に入れていくつもりです。

当面の目標は、「すべての所属タレントが、声の仕事で生活できるようにすること」。それが、“家族”として共に歩む仲間への、私の責任だと思っています。

編集後記

「最初は声優業に興味がなかった」という内海氏の言葉からは想像できないほど、今の彼は情熱と責任感にあふれている。声優たちの人生を背負う経営者として、そして“育ての親”として、未来を見据えた事業に日々取り組んでいる姿が印象的だった。 アニメやゲーム、配信コンテンツの成長により、声優業界の可能性はますます広がっている。そんな中で、賢プロダクションがどのように存在感を強めていくのか、今後の展開に注目したい。

内海賢太郎/1974年神奈川県横浜市生まれ。桜美林大学国際学部卒業。1997年、株式会社賢プロダクション入社。10年間の現場経験を経て、2007年に代表取締役に就任。2023年より声優事業者協議会の理事長を務め、業界の発展に尽力している。