※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

革新的な技術が開発され、それがビジネスとして実用化されると、多くの企業が参入し、数多くのサービスが展開される。ライバル企業が増える中で経営を続けるためには、技術開発や特許取得などを通じて、他社が模倣できない独自の付加価値を提供することが重要だ。

株式会社シルバコンパスの代表取締役である安田晴彦氏は、映像分野での豊富な経験を生かし、独創的なAIサービスを開発することで他社との差別化を実現している。今回は、安田氏がどのような背景で事業を立ち上げ、そのサービスにどのような思いを込めているのか、話をうかがった。

スタートアップ支援が切り開いた挑戦の軌跡

ーー会社を創業された際のエピソードをお聞かせください。

安田晴彦:
大学では映画を専攻し、卒業後は映像制作の業界に入りました。最初の仕事として、デジタルサイネージの映像制作から配信管理、プログラミングまでを手掛け、これらの業務を通じてハードウェアの仕組みを習得しました。

その後、ソフトウェア開発を主軸とするベンチャー企業に転職し、そこで大きな成果を上げ、全国に人脈を広げることに成功したことが、2005年の起業のきっかけとなります。その頃には、広告代理店やメーカーで今までにない新しい仕組みのニーズが出てくると、「まず安田の会社に相談してみよう」という評価が自然に定着していたのです。

デジタルサイネージの運用依頼の増加により事業が安定し、次の柱となる新規事業の話が持ち上がりました。しかし、ハードウェアやソフトウェアの開発などで開発資金を回収できる程度の成果はあったものの、大きく販路を拡大するには至らない状況が続きます。

そんな中、2017年、大手企業との共創プロジェクトに参加したのをきっかけに、さまざまなビジネスコンテストでプランを提案したところ、それらの提案が高い評価を受けて出資獲得につながり、2019年、株式会社シルバコンパスの創業に至ったのです。

映像とAIの融合で生まれた新たな対話体験

ーー貴社の事業内容について教えてください。

安田晴彦:
弊社は映像とAIの融合による対話システム「Talk With」を開発・提供しています。このサービスの最大の特徴は、映像を通じて人の心を揺さぶる力にあります。「好きな相手と会話ができる」という体験を提供することで、利用者の心にポジティブな影響を与えるツールとして開発しました。

映画などにも人の心を動かす力がありますが、Talk Withは映画のように2時間もかからず、数分という短時間で癒しや励ましを感じられる点で、従来のエンターテインメントとは一線を画しています。

一般的なAI対話サービスは「質疑応答」を中心としていますが、人間同士の会話はそれだけで成立するものではありません。従来のAIでは、道案内のようなシンプルなやりとりは可能でしたが、自然な会話が持つ温かみや機微を再現することは困難でした。そこでTalk Withでは「没入型対話体験」という新しい仕組みを取り入れることで、まるで本物の人間と話しているかのような感覚を提供しているのです。

また、弊社はTalk Withの強みを活かせるパートナー企業と協力し、さまざまな分野でのサービス展開を進めています。具体的には、観光ガイドやヘルスケア、銀行や行政機関の窓口などで、従来の無機質な質疑応答ではなく、利用者が人間味を感じられるような対話型サービスの提供を目指しています。

ーー類似サービスを提供する競合他社と差別化できる強みは何ですか?

安田晴彦:
多くの企業がソフトウェアの開発ノウハウを持っていますが、映像演出のノウハウを併せ持つ企業はほとんどありません。弊社には映像演出のスペシャリストが在籍しており、さらにパートナー企業にもスペシャリストが多数存在しています。それらの技術や感性が、他社の追随を許さない大きな強みです。映像のプロフェッショナルだからこそ実現可能なメソッドを活用し、独自のサービスを開発しています。

さらに、弊社は疑似対話体験を可能にするシステムに関する特許を取得しており、他社が同様のサービスを提供することは非常に困難です。これらの要素が弊社の競争優位性を支えており、独創的なサービスを生み出す源泉となっているのです。

人々の生活を豊かにする技術革新の未来図

ーー今後の経営方針についてお聞かせください。

安田晴彦:
今後はソフトウェアの開発に注力していきたいと考えています。その中で重要になるのは、新たな協業パートナーを見つけ、市場を創出することです。弊社のプラットフォームに興味を持つ企業と連携して、共同でサービスを開発し、そのサービスを企業内で活用してもらうだけではなく、同業他社にも展開することでライセンス収益を得るビジネスモデルを構築していきます。エンターテインメントから教育、介護・医療、営業、人材採用まで、幅広い分野での展開を視野に入れています。

また、日本市場向けに制作したコンテンツを、海外でも利用可能な形で展開していきたいですね。国際標準に準拠した仕様を採用することで、海外企業からのニーズに応じた形での展開も視野に入れています。すでに海外での運用テストを実施し、問題なく稼働することを確認済みです。この成果を基に、現地の信頼できるパートナー企業を見つけ、プロジェクトの推進を加速させていきます。

ーー安田社長が描くビジョンとはどのようなものですか?

安田晴彦:
私たちは事業を通じて、弊社サービスの認知を広め、多くの方にその恩恵を感じていただくことを目指しています。具体的には、サービスを利用することで時間に余裕が生まれたり、仕事が楽しくなったり、健康の喜びを実感できるようになったりする効果の追求です。さらに、そうした変化が利用者の視野を広げ、新たなクリエイティブな挑戦のきっかけとなることを期待しています。

最終的には、弊社のサービスが日常生活や仕事に役立つだけでなく、人々の生き方や価値観を豊かなものにし、社会全体にポジティブな影響をもたらす未来を描いています。このビジョンを実現するため、これからも邁進していくつもりです。

編集後記

安田氏の取り組みには、AI技術の未来を切り開く力強いビジョンがある。他社が追随できない株式会社シルバコンパスの独創的なアプローチは、単なるサービス提供にとどまらず、AIが人々の生活をどのように豊かに変革し得るかを明確に示している。

技術と映像演出の融合が生み出す新たな体験は、生活の質を高め、未知の可能性を広げる大きな一歩となるだろう。困難を乗り越えながら挑戦を続ける安田氏の情熱が、AI産業の未来を牽引し、社会全体に新たな価値をもたらしていくことを期待してやまない。

安田晴彦/2005年の独立以降、大手広告代理店や大手電機メーカーの依頼により世界初となった案件を多数手掛ける。近年では、世界初のVR観光バスツアー「WOW RIDE」の技術プロデューサーを務める。映像演出からソフトウェア・ハードウェアまで精通する映像スペシャリストであることを強みに、映像演出家の視点から世の中の役に立つプロダクトを開発し続ける。