※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

独自のエッジAIカメラソリューションで小売業界から始まり、リアル空間全体の課題解決や価値向上に貢献するAWL(アウル)株式会社。エンジニアの9割が外国人など、グローバルな職場環境が特長でもある。

「小売業界以外への展開も加速している」と語る代表取締役社長兼CEOの北出宗治氏に、創業の経緯や事業の特長、今後の注力テーマなどを聞いた。

AIのリアル空間への実装に可能性を感じ、起業を決意

ーー社長の経歴や創業の経緯を聞かせてください。

北出宗治:
大学在学中にインターネットビジネスを始め、卒業後はアメリカのコンサルティング会社に勤めていましたが、渡米した9月に911のテロが起こった影響でリストラの対象に。その後ニューヨークのレコード会社でWebマーケティングの仕事に就きましたが、就労ビザを延長できず帰国。その後、英会話学校のGABA、そしてインターネット企業のライブドアに入社しました。

ライブドアに入社したのは、英語とインターネットを活用して勢いのある会社で働くことに興味を持ったからです。しかし、2年目にライブドア事件が起こり、会社が大きく方針を転換、担当していた新規事業立ち上げの仕事がなくなる中で、転職することを考えましたが、これを機に自分で事業を始めようと独立し、2006年から10年ほど個人会社で企業のコンサルや事業立ち上げサポートをしました。

2015年、北海道のドラッグストアチェーン店「サツドラ」の富山浩樹社長から、北海道大学の川村秀憲教授を紹介してもらったことが、大きな転機となります。川村教授から「AIがリアルな空間に実装され、IT空間(オンライン)とリアル空間(オフライン)が融合していく未来」の話を聞き、私自身もそのインパクトやイノベーションをイメージでき、とてもワクワクしたのを覚えています。

足元で、コンサルをしているお客様から「AIを使ったソリューションを提案して欲しい」という要望を受けていたことから、クラウドのAIではなく、早速リアル空間にAIを実装するソリューションを提案し、受注できる見込みが立ったので、受け皿となる会社として急ぎAWL株式会社(当時の社名はAI TOKYO LAB株式会社)を創業しました。

ーー創業後はどのような仕事からスタートしましたか。

北出宗治:
前述したお客様は大手メーカーだったのですが、「今までパンフレットの校正を担当していた職人があと数年で続々定年退職するが、彼らのノウハウを若手に移管するのが難しい、AIを使って解決できないか?」という相談でした。

この課題を解決するために、「AIによる自動校正」を提案し、ある程度上手くいったので、同じ課題で困っていそうな銀行や旅行会社など、膨大なパンフレットやカタログを扱っているほかの企業にも営業し、受注することができました。

その後は、2019年まで「リアル空間のAI化」を軸とした受託開発事業と、AI人材を顧客の社内で育成するための研修事業を運営していたのですが、2019年にその2事業を売約し、そこで得た売却益を、自社のソリューション開発のための研究開発に投資しました。

業界でも数少ない「エッジAI」で映像解析を行う事業を展開

ーー貴社の事業内容を教えてください。

北出宗治:
「エッジAI」という端末側でAI処理を行う技術を活用して、映像解析ソリューションサービスを提供しています。たとえば、弊社のエッジAIを活用したサービス「AWLBOX(アウルボックス)」は汎用的な防犯カメラをAI化するもので、来店者の属性分析や、来店客の店舗内行動の分析、万引き犯の検知などができます。

人間がカメラをずっと監視する必要がなくなるだけでなく、人間の目よりも精度が高いため、生産性の向上につなげることが可能です。

ーー貴社のサービスの強みはどういった点ですか。

北出宗治:
そもそもエッジAI技術で映像解析をしている会社は非常に少なく、その中でも弊社のコア技術である、「AWL Engine(アウルエンジン)」を活用している点が強みです。

「AWL Engine」は、クラウドAIのように均一化されたデータセンターのような環境で大規模なAIモデルで分析する場合には不要ですが、環境がバラバラなリアル空間でかつ、マシンパワーの弱い現場の端末に小さなAIモデルを組み込んで運用するときに必要不可欠な技術になります。さらには、リアル空間は時間と共に環境の変化があります。お店であれば売り場のレイアウトが変わったり、店員のユニフォームが変わったり、季節によって光の入り方などが変わり、その度にエンジニアがAIのチューニングをするコストや手間はかけられないので、この問題を解決する必要がありました。

この「AWL Engine」を開発するに至ったのは、サッポロドラッグストアーに「AWLBOX」を導入しようとした時の出来事です。

最初の実証実験をしていた1店舗目でAIモデルが上手く稼働しても、それを100店舗に広げようとすると、それぞれの店舗でカメラの設置場所や天井の高さ、壁、床の色などの環境が違うため、同じモデルでは上手く稼働しなくなってしまうといった課題が発生しました。

これが、エッジAIを拡大するためにボトルネックになる根本課題だと認識し、解決するための研究開発に注力を始めました。当時まだエッジAI自体やその拡大に伴う課題は注目されていない頃から弊社はこの分野に集中投資し、結果として今では大手企業よりも一歩先を行くことができています。

セキュリティや安心・安全を求める企業にサービスを広めていく

ーー今後の注力テーマを聞かせてください。

北出宗治:
1つは新規業界の開拓です。現在のメインユーザーである小売店に加え、倉庫、病院、工場、自治体など、ニーズのあるさまざまな場所にもサービスを広げていきたいと思っています。

業界を絞るのではなく、セキュリティや安心・安全を担保したい企業、人手不足をAIで代替したい企業のニーズに応えていくのが目的です。また、腰を据えて一緒に事業をつくってくれるパートナー企業も随時募集しています。

弊社のサービスが多くの場所で活用されれば、例えば店舗においては、万引き被害額が減って収益をプラスにする効果が期待できますし、万引きをきっかけに大きな犯罪に手を染める人を減らすことで、地域の安心、安全に貢献できる社会的意義があるサービスだと言えます。

ーー人材採用についてはどのように考えていますか。

北出宗治:
専門職と若手の両方を採用していく予定で、若手の方に関しては僕たちにはない新しい発想で、エネルギッシュにチャレンジをしてもらいたいと思っています。また専門職にはAWLがまだ持っていないノウハウをAWLに持ち込んでもらいたいと思っています。エッジAIの領域で第一人者になるために、仕事を楽しみながら努力してくれる人が来てくれると嬉しいです。

ーー最後に、貴社の長期的な目標を教えてください。

北出宗治:
将来的に、エッジAIによる映像解析はリアル空間に広く浸透し、インフラのような存在になると確信しています。防犯カメラやドライブレコーダーなど、カメラが内蔵されるものに僕たちは今後も可能な限り関わっていきたいです。また、省人化をサポートすること、街の治安を担保する役割を果たすことにも、引き続き取り組んでいきたいと思っています。

編集後記

市場のニーズをいち早くつかみ、質の高いサービスの開発にコミットしてきたからこそ、AWLは業界内で唯一無二のポジションを築けたのだろう。人材や資金不足で、セキュリティ強化に力を入れられない店舗や施設も多い中、AIの力で安心・安全を担保する同社のサービスは需要が高く、革新的な技術として今後も求められるに違いない。さらに、2026年夏頃に新たな革新的ソリューションをリリースすべく、開発を続けているとのこと、どのようなサービスで社会を変えてくれるのか楽しみだ。

北出宗治/1978年生まれ。北海道出身。大学卒業後、米国のコンサルティング会社やレコード会社でWEBマーケティングを担当。帰国後、株式会社GABAや株式会社ライブドアでIT部門を統括。2006年に独立し、2016年に北海道大学の川村秀憲教授と共にAWL株式会社を創業、代表取締役社長兼CEOに就任。2022年「第22回Japan Venture Awards」で地域貢献特別賞、2024年「北の起業家表彰」で奨励賞、「大学発ベンチャー表彰」で新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長(NEDO)賞を受賞。