※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

出版科学研究所の調査によると、2022年の日本コミック市場は過去最大の規模となる6,770億円に達した。紙媒体の市場は前年から縮小傾向にある一方、電子コミック市場は2014年以降、毎年成長を続けている。

国内に数多くの電子コミックサービス会社が存在する中で、2024年オリコン顧客満足度1位を獲得したのが、コミックシーモアを運営するエヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社だ。今回は、代表取締役社長の朝日氏に事業内容や、未来への展望について話をうかがった。

人と人をつなぐ架け橋として通信業界を希望し、多岐にわたる業務に携わる

ーー貴社に入社するまでの経緯を教えてください。

朝日利彰:
私は工学系の大学を卒業しましたが、その頃から、人と人をつなぐ通信需要の高まりを時代の流れとして感じており、「通信業界には大きな可能性があるのではないか」と考え、縁あってNTTに入社しました。

入社後の最初の業務は、電柱に登って工事を行う現場作業です。しかし、不思議なことに同じ分野に長くとどまることはなく、現場設備の業務から研究開発、光回線のアプリケーション開発など、さまざまな仕事を経験したのです。

2011年には、ベンチャー企業を立ち上げるという貴重な機会に恵まれました。その背景には、日本のエネルギー自給率を向上させるという目的があり、センサー技術に強みを持つ京都のオムロン株式会社と、NTT西日本が有する通信技術を融合させる取り組みが始まったのです。この取り組みを通じて設立されたのが、株式会社NTTスマイルエナジーです。

2002年に設立したエヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社を見本に、ゼロから会社をつくり上げていきましたが、現在、私がそのソルマーレの代表であることは、不思議なご縁であると思います。このときのベンチャー企業を立ち上げるという経験が、私のキャリアの中でも非常に大きな糧となりましたね。

その後、再びNTT西日本に復帰し、2020年7月に現在の会社で代表取締役社長に就任しました。専門性という観点では、一つの分野に長く従事したほうが良い場合もあるかもしれません。しかし、会社を経営する立場になった今では、これまでさまざまな部署を経験してきたことが、結果としてプラスに働いていると強く感じています。

電子書籍のECサイトを運営しながら、お客様に最適なサポートを提供する書店員でもある

ーー改めて貴社の事業について聞かせてください。

朝日利彰:
弊社の事業内容は大きく分けて3つありますが、メインとなるのは、コミックシーモアを代表とする電子書籍事業ですね。コミックシーモアは昨年で20周年を迎えた事業であり、単なる電子書籍の販売に留まらず、オリジナル作品の出版事業も展開しています。

次に、ゲーム事業です。こちらでは主に女性向けのゲームアプリを展開しており、北米市場を中心に事業を拡大しています。最後に、新規ビジネスでもあるその他事業です。具体的には、マンガやアニメに加え、キャラクターやストーリーの制作など、コンテンツの新たな楽しみ方を提供する事業を展開しています。

ーー貴社の強みはどのような点にありますか?

朝日利彰:
弊社の強みは業界最大級の品ぞろえを誇る点で、マンガを中心とした書籍を152万冊以上取りそろえ、月間利用者数は4,000万人に達しています。弊社では、この膨大なデータを活かし、お客様が単にコミックを読むだけでなく、その「探す過程」にも楽しみを感じていただけるように努めています。

AIや機械学習を活用した徹底的なマーケティングにより、お客様に最適な作品をおすすめし、思いがけない作品との出会いや心に響くストーリーを見つける機会を提供することで、デジタル時代の書店の役割を果たしていると自負しています。

加えて、マンガ文化を広めるために、タレントがマンガの一部を紹介するYouTubeチャンネルの運営や、ファン同士が交流できるシーモア島というコミュニティサイトの提供、声優による「聴くマンガ」のイベント開催などを積極的に展開し、さらにコミックシーモア内では毎月約2,000件ものキャンペーンを実施しています。

もちろん、「売ること以外はコストだ」という考え方もあるかもしれません。しかし、弊社では単なる利益追求にとどまらず、コミックとの出合いや探す過程そのものを楽しめる環境を提供しつつ、コミックファンの生活に彩りを添える仕組みづくりにも力を入れています。

こうした取り組みを通じて、「ファンの方、作家の方、出版社の方々に喜んでいただけていること」が、弊社の最大の強みなのではないでしょうか。

「No.1マンガ総合プロデュース集団」を目指して

ーー最後に今後の展望について詳しく教えてください。

朝日利彰:
現在、国内におけるコミックの市場は、約70%が電子、30%が紙媒体といわれています。物流や資源、人件費の問題を考えると、今後も電子の需要はさらに伸びていく可能性がありますし、たとえ人口が増えなくても電子書籍市場の拡大余地は十分にあると見ています。

国内に関しては、マンガという文化自体をさらに広く知っていただけるよう単に販売するだけではなく、新しい読み方や楽しみ方を引き続き紹介していきたいです。

一方、海外に目を向けると、日本のマンガはようやく翻訳され始めた段階で、普及率はまだ約10%と言われています。そのため、まずは人口規模や言語の影響力を考慮し、北米市場、特に英語版の展開に注力していく計画です。ただし、単に日本のマンガを英語に翻訳して輸出するだけでは十分ではなく、それぞれの国の文化や市場ニーズに合わせたマンガカルチャーを育てていくことが重要だと考えます。

また、国内外問わず、お客様一人ひとりに最適な作品を提案するために、マーケティングオートメーションの導入を進めています。さらに、マンガの「動かない」特性を活かしつつ、AI技術を活用してマンガを動かすような新たな表現方法の研究・開発にも取り組んでおり、このような最先端技術を取り入れることで、既存事業をさらに魅力的で価値のあるものへと進化させていきたいです。

弊社の強みの一つである販売データの活用にも力を入れていきたいですね。販売データを深く分析し、その傾向を作家の方々の創作活動に役立てるとともに、新たなトレンドを生み出していきたいと考えています。

さらにキャラクターの制作や新しいジャンルを開拓することで、業界全体の発展に寄与できるよう努めていきます。これらの取り組みを通じて、国内外でのマンガ市場のさらなる成長を牽引し、ファンの皆様、作家の皆様、そしてパートナー企業の皆様にとって、価値ある存在であり続けたいと考えています。

編集後記

ネットの世界でありながら、あたかも「書店員」のようにお客様一人ひとりの声に耳を傾け、最適な作品との出合いを提供する。その情熱と細やかさに、筆者は心を動かされた。そこにNTTグループという通信の巨人が誇る技術力と組織力が融合することで、他にはない特別な存在感が生まれている。

作品を通じて顧客の生活を豊かにし、日本文化を世界に広める未来を描く同社の挑戦は、単なるビジネスの枠を超え、日本の誇りと希望を背負った壮大なプロジェクトそのものだ。

朝日利彰/1992年、日本電信電話株式会社に入社。設備の現場業務でキャリアをスタートした後、設備企画、人材育成、R&D、サービス開発、ベンチャー創業、法人営業と幅広い業務に従事。2011年にオムロン社との合弁による株式会社NTTスマイルエナジーの設立に取締役として参画し、4期目の単年度黒字を見届けた後、NTT西日本へ復帰。2020年にエヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社 代表取締役社長に就任。