※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

医療機関向けの統合型データ管理システム「FORZシリーズ」を製造・販売する株式会社エクセル・クリエイツ。同社は、超音波検査やレントゲン、MRIなどの画像管理から血液検査データの統合まで、医療現場に欠かせないシステムを手がけている。また、フィリピンでの導入実績を持ち、2024年にベトナム・ハノイに駐在員事務所を開設。加えて、日本の医療システムの海外展開を推進する経済産業省のプロジェクトにも参画し、アジア地域の医療発展に寄与する取り組みも進めている。同社の代表取締役、棚田誠氏に話をうかがった。

未経験でSIerに入社し、自信をつけて起業に踏み切る

ーー独立前はどのような仕事をしていましたか?

棚田誠:
私は1989年に大学を卒業し、株式会社オービーシステムという企業のシステム開発を担うSIer(システムインテグレーター)に就職しました。IT関連の業務は未経験だったのですが、「この会社であれば自分が成長できるのではないか」と考えて応募し、プログラマーとして採用されたのです。このときは、いずれ独立するなどという気持ちはなく、「会社員として働いて、給料がもらえればいいかな」くらいの気持ちでした。

未経験の領域への参入だったので、情報処理の資格を持っている人たちと比べると、かなり出遅れたスタートだったと思います。正直なところ、入社後3ヵ月で退職を考えることもありました。最初の1〜2年くらいは、先輩に懇切丁寧に教えていただいて、勉強しながらついていく、というスタイルでした。諦めずに地道な努力を続けることで、何とか乗り切ることができましたね。その後、プログラマーからシステムエンジニアになり、営業を経験しました。

ーーその後、起業するまでの経緯を教えてください。

棚田誠:
前職の会社は、ようやく社内ネットワークが普及し始めたような状況で、自社ホームページもなければメールアドレスもありませんでした。そういったものを社内に取り入れるにあたって担当者の社内公募があり、手を挙げたところ責任者に抜擢され、プロジェクト全体のまとめ役を任されたのです。

責任者という立場を経験したことで、多くの知識やスキルが身につき、周囲の人から重宝される存在になることができました。それに加えて営業の経験をしたことで自信がつき、「自分で事業を始めてみようかな」という気持ちになり、独立に至りました。

ーー起業後はどのような苦労がありましたか?

棚田誠:
経営のことは何も知らない素人同然の3人でつくりあげた会社だったので、本を読んだり勉強会に参加したりしながら、経営の知識を積み重ねました。「みんなでつくりあげた会社」という意識が高まったのはよかったのですが、開業から半年くらいは仕事がなくて困りましたね。

開業前に外部の営業の方から、「こういうものをつくっておけば売れるので、つくっておいてください」と言われたので、つくりさえすれば売れるものと思っていたのですが、見事に当てが外れました。

起業したばかりの頃は、銀行もなかなか相手にしてくれず、1,300万円の資本金を注ぎ込んだものの、最後には貯金が数十万円まで減ってしまうという状態だったのです。大阪商工会議所中央支部の支部長が銀行を紹介してくれたおかげで、何とか融資を受けることができました。

電子カルテと連携する統合システムで医療DXを推進

ーー貴社の事業内容を教えてください。

棚田誠:
弊社は、医療機関向けの統合型データ管理システム「FORZシリーズ」の製造・販売を行っています。具体的には、超音波検査やレントゲン、MRIなどの画像をまとめるシステムや、血液検査や尿検査などの検査システム、健康診断のデータ管理システムなどの、各部門ごとのデータ管理システムが弊社の主力製品です。

前述した各システムを統合し、電子カルテと連携することによって、患者さんの検査結果の履歴が一目でわかるような仕組みになっています。画像を拡大して見やすくできるほか、病院の形態に合わせて機能をカスタマイズできるなど、使いやすい機能を搭載しています。2024年12月末時点で、フィリピンの1施設を含めた1,700箇所もの医療機関で導入していただくことができました。

また、弊社の子会社であるAIメディカル株式会社では、医療機関で撮影した画像を専門の先生に読影してもらえる、「健診向け遠隔読影サービス」を提供しています。11名の専門医と契約して、健康診断や人間ドックなどにもスピーディーに対応できる体制を整えました。

そのほかには、鹿児島大学・鹿児島放送と協力して、気象情報を加味したヒートショック注意情報を発信するサービスも展開しています。

ーー貴社の魅力はどのようなところですか?

棚田誠:
福利厚生が充実しているところです。社員旅行も頻繁に行っています。創業10周年の際はグアムに、創業20周年は沖縄とハワイの2組にわかれて記念旅行に行きました。私は、「楽しく仕事をしたい」と考えており、社員とも「いろいろな楽しみを見つけながら、一緒に仕事をしましょう」というスタンスで接しています。

東南アジアを中心に海外事業の拡大を目指す

ーー海外進出もしているそうですが、どのような事業を展開していますか?

棚田誠:
弊社は経済産業省参加の「Medical Excellence JAPAN(MEJ)」という組織に所属しており、日本の医療を海外に広める取り組みを進めてきました。これまでの実績としては、フィリピンにある健診施設で弊社の画像システムが使用されているほか、2024年11月に、ベトナムのハノイに駐在員事務所を開設しました。まずはベトナムでの活動に注力し、その後、東南アジアを中心とした海外展開を加速させたいと考えています。

ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。

棚田誠:
弊社はIT企業なので、高品質なソフトウェア・サービスを開発して、医療機関に提供し続けたいという思いがあります。そのために、技術を磨いていくつもりです。前述の海外進出においても、日本製の高品質なソフトウェアを提供したいと考えており、日本のIT技術で世界の医療を支えられるようになりたいですね。

編集後記

医療現場のデジタル化という社会的な課題に向き合いつづけてきた棚田社長の言葉には、技術を通じて医療に貢献したいという強い思いが込められていた。SIer時代の経験を基に起業し、幾多の困難を乗り越えて成長してきた道のりは、システム開発企業の経営者としての矜持を感じさせる。自社製品の海外展開にも積極的に取り組む姿勢からは、日本の医療システムの価値を世界に広げようとする意欲が伝わってきた。

棚田誠/1965年、大阪府生まれ。1989年、龍谷大学経営学部卒。大学卒業後、株式会社オービーシステムに入社。PG、SE経験後、営業を担当。2004年、株式会社エクセル・クリエイツを創業し、代表取締役へ就任。