※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

ソフトウェア開発やSI事業を展開する株式会社利達ソフト。IT業界での人材不足が叫ばれる中、同社は中国と日本の2拠点で働くエンジニアたちの総力を結集し、30年にわたるオフショア開発の実績をもとに事業展開を図っている。「平等性」や「多様性」など、現代のグローバルビジネスに不可欠な国際感覚が企業文化に根付いていることが、市場の強みとして大きな意味を持つ。代表取締役社長の徐浩氏に、今後のビジネス展開について詳しく話をうかがった。

日本のIT業界で30年、中国出身エンジニアの社長への挑戦

ーー日本での就労のきっかけから、社長就任までについて教えてください。

徐浩:
私は中国北京生まれで、1989年に中国の東南大学を卒業後、北京工業大学で生産管理工学の教師になりました。

その頃、日本ではITバブルの真っただ中で、人材不足が深刻でした。そのような日本の時代背景の中で、中国の優秀な人材を日本に派遣するために、日本の人材会社が北京工業大学に来たのです。私は興味を持ち、その募集に応募しました。英語とコンピュータの試験に合格後、半年間の日本語学習を経て、1992年2月に来日しました。来日後は岡山の会社に配属され、2年間、日本語を勉強しながらプログラマーとして働いていたのです。

その後、一度は中国に戻って起業しましたが、やはり生活拠点を日本にしたかったことや、日本の環境が自分には合っていると感じたことで、1997年に再来日しました。2008年までプログラマー、SE、プロジェクトマネージャーなど幅広く経験を積み、中国の子会社の社長も務めましたね。

そして2009年、北京の友人が創業した北京利達智通信息技術有限公司の日本法人である株式会社利達ソフトの代表取締役社長に就任しました。弊社は北京のソフトウェア会社の100%子会社で、友人から「日本法人の社長になってくれないか」と言われた時はすぐ引き受けました。プログラマーとして経験を積みながら、いずれは社長になりたいと夢見ていたので、良いタイミングで就任できたと思います。

ーー社長就任後、特に苦労した経験を聞かせてください。

徐浩:
2009年の就任時はリーマン・ショックの影響で大変でしたし、2011年の東日本大震災では、中国人社員の2割程度が帰国してしまいました。原発事故の影響もあり、中国の家族が心配して帰国を強く求めたからです。それ以上の従業員の帰国を防ぐために、中国の本社社長に来日してもらって社員を説得したことで大半は残ってくれましたが、あのときは会社の存続をかけた正念場でした。

300名超の中国人エンジニアで日本のIT人材不足をカバー

ーー貴社の強みは何でしょうか?

徐浩:
弊社最大の強みは「動員力」です。日本ではIT人材が不足しており、短期間で多くのエンジニアを集めるのは難しいのが現状です。しかし、弊社には300名以上の開発者が携わっているので、必要に応じてスピーディにチームを編成することができます。これは、日本の同業他社にはない強みだと自負しています。中国のコストメリットを活かしながら、日本の企業に高品質なシステム開発を提供しています。

ーー特に力を入れている分野を教えてください。

徐浩:
弊社が特に力を入れているのは、金融・証券分野です。これまで野村総合研究所とのパートナーシップのもと、システムの開発などを手がけてきました。金融の世界では、システムの安定稼働が何より重要です。私たちは高い技術力と品質管理体制を徹底しているため、お客様から厚い信頼をいただいています。今後も、このドメイン知識を活かして金融ITの発展に貢献していきたいですね。

日中融合を目指す価値観と今後の挑戦

ーー大切にしている価値観や社風について聞かせてください。

徐浩:
弊社では「平等」と「多様性の尊重」を大切にしています。社員の多くは中国人ですが、日本人社員も10名ほどいます。日本人、中国人関係なく、全ての社員がお互いを対等なパートナーとして尊重し合う、そんな社風を目指したいです。

共通言語は日本語ですが、単に言葉が通じるだけでなく、文化的背景の違いを越えて、深いレベルで理解し合えるような組織でありたい。ときには考え方の違いでぶつかることもありますが、活発な議論ができる風通しの良い社風は、イノベーションの源泉だと思っています。

ーー今後の事業展開において、どのような取り組みに力を入れていきますか?

徐浩:
オフショア開発の分野で30年以上積み重ねてきた実績をベースに、さらなる成長を目指していきます。たとえば、新規取引先の開拓、営業部門の体制強化、海外展開などです。最近では、円安や経済安全保障推進法の影響で厳しい局面もありますが、むしろこれをチャンスと捉え、事業構造の転換を進めているところです。

また、金融分野の知見を活かしつつ、他業種への展開も積極的に力を入れています。DXが加速する中、あらゆる企業が効率的なシステム開発を必要としています。私たちの強みを活かして、より幅広い業種の企業のデジタル化を支援していきたいですね。

ーー日中が融合した企業として、最終的に目指すものは何ですか?

徐浩:
弊社にとって、日本人エンジニアの力は、今後ますます重要性を増していくでしょう。川崎の開発拠点では、清潔で快適なオフィス環境を整備し、日本人エンジニアが働きやすい環境づくりの取り組みを進めています。政治や経済情勢に左右されることなく、中国人エンジニアの高度な技術力と、日本人エンジニアのきめ細やかな対応力を融合させ、他社にはない独自の価値を提供していきたいと考えています。日中の架け橋としての役割を全うして、中国と日本、両国の発展に寄与することが私のミッションです。

編集後記

言葉や文化の壁を乗り越えて、顧客のことをしっかり見据えたサービス提供を目指す徐社長。困難な状況でもイノベーションへの情熱を失わない強さは、グローバル時代を生きる企業のあり方そのものを体現している。「日中の架け橋になる」という彼のミッションは、ビジネスの枠を超えて両国の未来を紡いでいく壮大な挑戦になるだろう。

徐浩/1966年中国北京生まれ、1989年中国・東南大学卒業。1992年初来日し、株式会社両備システムズへ入社し、17年間プログラマー、システムエンジニア、PL、PMなど幅広い業務に携わる。2009年、中国の北京利達智通信息技術有限公司の日本法人である株式会社利達ソフトが設立。同社の代表取締役社長に就任。