
DXコンサルティングを手がける株式会社ファーストデジタル。従業員数は50名ほどの規模だが、同社のウェブサイトにはさまざまな業種名とともに、「グローバルクライアント」など国際的な企業クライアントであることを示すタグが並ぶ。その背後にはどのような戦略と努力があるのか。そして、どのようにして現在の地位を築いたのか。創業者であり代表取締役社長の粕谷浩和氏に話をうかがった。
「必要になる日が来る」先見の明が拓いた事業
ーーこれまでの経歴を教えてください。
粕谷浩和:
大学卒業後、新卒で外資系コンサルティング会社に入社し、3年半ほど企業向けコンサルティング業務に従事しました。その経験を活かして、フリーのコンサルタントとして独立することを決めたのです。
当時、フリーのコンサルタントはまだ少なかったため、外資系企業で収益が海外拠点に流れる部分を差し引いた金額でサービスを提供することで、価格競争力による需要を見込めると考えたのです。実際、その戦略はうまくいき、2006年、仲間とともにアンダーワークス株式会社を設立しました。
ーーなぜ貴社の設立に至ったのですか?
粕谷浩和:
弊社設立の背景には3つの理由があります。1つ目は、コンサルティング業務へのこだわりと、日本発の国内資本によるコンサルティング会社をゼロから設立し、運営したいという強い思いがあったことです。2つ目は、私たち独自のサービスを通じてデジタルネイティブ世代が活躍できる場を創出し、世代間の格差を解消することに貢献したいと考えたことです。
3つ目は、デジタルコンサルティングの需要が必ず高まると確信していたことです。この3つ目の予測は見事に当たり、2018年には経済産業省が初めて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を使用し、デジタル化の波が国内で一気に広がりました。
「コンサル・デジタル」二つの専門性で築く品質の強み

ーー貴社の事業の強みは何ですか?
粕谷浩和:
弊社の強みは、デジタル分野における高度な専門性とコンサルティングの品質の高さにあります。近年、DXコンサルティングを謳う企業が増えていますが、中にはコンサルティング経験がないまま設立された会社も少なくありません。
弊社は、10年以上デジタル領域でのさまざまなコンサルティングサービスの提供をおこなっており、事業戦略からシステムの導入支援まで対応することができます。経験豊富なコンサルタントが結果と成果にこだわった質の高いサービスを提供できる体制を確立しています。
具体的には、クライアント様の理想的な姿をDXの具体的な戦略として結びつけることはもちろん、必要なシステムの要件定義やシステム構築のプロジェクトマネジメントまで、一貫して対応可能です。
その結果、社員数約50名という規模にもかかわらず、売上規模が5,000億円から1兆円を超えるような大企業の案件を多数受注しています。また、従業員への待遇においても外資系コンサルティング会社と同等の年俸水準を維持しております。
ーー運営上で大切にしていることは何ですか?
粕谷浩和:
弊社が大切にしている企業カルチャーは、「フラットで風通しが良い環境」をつくることです。職階は存在しますが、上位の立場に立つ人は優秀である分、より多くのフィードバックを惜しみなく他者に提供すべきだと考えています。
そのため、私を含め社内の全員が地位に関係なく丁寧語で話すルールを設け、2週間に1回の頻度で、夜に飲食店で自由に従業員と話せる場を設けています。この場では従業員からの提案を受けることもあれば、私から理念や方針を伝えることもあります。このような取り組みを通じて、入社1年目の従業員でも、私に直接フィードバックを求めてくる風土が根付いています。
ーー社員に伝えている理念や方針は、どのようなものですか?
粕谷浩和:
私が大切にしている言葉のひとつに「精力善用・自他共栄」があります。これは、心身の力を良い方向に使い、自他ともに繁栄するという意味です。
この理念に基づき、従業員には常にクライアント様への徹底的なコミットメントを求め、課題の本質を深く理解し、それを自分ごととして捉えて解決していくことを重視しています。もちろん、課題を解決する際には費用対効果の高さも欠かせません。結果として、クライアント様の課題が解決され、同時に私たち自身も成長・発展できると考えています。
規模拡大より品質を追求、新時代のブランドを目指す
ーー今後、どのようなことに取り組んでいきますか?
粕谷浩和:
現在、より良い人材を採用するための取り組みを進めています。たとえば、採用面接では人事担当者に候補者の学歴を伝えない仕組みを採用しています。また、働き方に関してもいくつかの選択肢を用意し、多様なニーズに対応しています。
さらに、採用後の人材教育も重要な課題です。コンサルティング業界では通常、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が基本ですが、優秀な先輩の手本を真似て後輩が成長する仕組みを、より体系的に構築すべく試行錯誤を重ねているところです。
ーー中長期的な目標についてお聞かせください。
粕谷浩和:
中長期的な目標としては、まず品質の維持・向上を最優先に考えています。ブランド力は、単に従業員数や売上規模を拡大するだけでは高まりません。
従業員一人ひとりの専門性や提供するサービスの質、それらを支える教育体制など、あらゆる面で「超一流」を追求してこそ、真のブランド価値が確立されるものと考えています。「ファーストデジタルブランド」を、日本全国に広く知られる一大ブランドに成長させることが私たちの目標です。
編集後記
粕谷浩和社長へのインタビューでは、そのリーダーシップを実感させられた。内容を事前にまとめ、いつの間にか主導権を握っている。テンポ良く、わかりやすく、しかし深みのある言葉で語るその手腕に引き込まれた。株式会社ファーストデジタルの未来を語る社長の眼差しには、揺るぎない信念と尽きることのない情熱が宿っている。
この会社が日本を代表するコンサルティングブランドとなり、やがて世界にその名を轟かせる日も、決して遠くはないだろう。

粕谷浩和/慶應義塾大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)戦略グループにて、事業戦略、マーケティング戦略、DX推進のプロジェクトに従事。独立後、仲間と共同で、デジタル領域のコンサルティングに特化したアンダーワークス株式会社を設立。2015年株式会社ファーストデジタルを設立。