
2014年に創設された株式会社マディソンブルーは、シャツ6型からスタートし、「HIGH CASUAL(ハイカジュアル)」をテーマに、上質でオーセンティックな洋服とカジュアルなスタイルを提案する日本発のファッションブランド。今回、代表取締役であり、自ら全コレクションのデザインも手がける中山まりこ氏に、起業までの経験やブランドの魅力、今後の展望をうかがった。
スタイリストを軸に「ファッション」を学びブランド創設
ーーキャリアの流れを教えてください。
中山まりこ:
服飾専門学校に通う中で「自分は作り手側ではない」と感じ、アシスタントを経てスタイリストとして独立する道を選びました。ここでいうスタイリストは、雑誌のモデルからテレビや映画の俳優やミュージシャン、広告まで幅広くコーディネートを提案する職業です。
今振り返ると、私は「スタイリスト」を軸に、ファッションだけでなく様々な業界に携わりたかったのだと思います。90年代に受けた雑誌のインタビューでは、22歳の自分が「世界に通用するプロになりたい」と語っていました。
その後、単身ニューヨークに渡り、23歳になったタイミングで全米デビューを目指すミュージシャンのスタイリングを任されました。ファッション誌の「VOGUE」と契約した、当時ではめずらしい女性のカメラマンと一緒に仕事できたことは大きいですね。
ーー帰国後はどのような経験をされたのでしょうか?
中山まりこ:
ニューヨークで仕事をしていた間に、日本を離れていたからこそ「日本の広告」の良さに気づき、28歳で帰国してからは雑誌だけでなく、音楽や映画、広告の仕事も舞い込むようになりました。師匠から習っていないことでも、自分なりに仕事を進めていった期間でした。
大手企業の案件が増えた中でも、憧れの化粧品メーカーの仕事ができたことは幸せな記憶として印象強く残っています。30代ではどんどん外に出ていき、引き出しを増やしただけでなく、2児の母として一般的な母親・父親のファッションにもふれました。子どもを持って初めて、自分がすごくニッチな世界にいたとわかり、この時の学びが今の服づくりにも生きていると感じます。
ーー起業した背景についてもうかがえますか。
中山まりこ:
小さいころから「大人になったら何になろう?」と考え続けていました。45歳の時に起こった東日本大震災では社会貢献や仕事の意義について考え、「ファッションを通じて自分の思いを伝えていきたい」と強く思ったのです。
また、クライアントの要望を受けて「レシーブしてきた人生」から、「サーブを打つ人生」に切り替えたいという思いもありました。大好きなファッションを生み出すことでサーブを打つ、これが創業した理由です。今の自分が手がけている服を見ると、20代からのスタイリストとしての経験は「作り手になるための準備期間」だったのかもしれません。
女性の魅力を引き出すスタイルと「国内生産」を重視

ーー事業内容と強みを教えてください。
中山まりこ:
「ハイカジュアル」がテーマのファッションブランドとして、年2回コレクションを発表しています。強みは、「日本の優れた職人さんや工場を守りたい」という思いから、国内工場での製造にこだわっていることです。
ブランドの核となる定番コレクションの「ESSENTIAL(エッセンシャル)」は、業界の閑散期にあえて発注を入れることで、工場の稼働率を高めています。工場がなければブランドは存在できず、お客様とも知り合えません。一人では何もできないと知った「大人」のブランドだからこそ、ポジティブなエネルギーを動かし、三方よしを大切にしています。
ーー商品に込めている思いもうかがえますか。

中山まりこ:
マディソンブルーは「スタイル」を提案するブランドです。「女の子は丸襟のブラウスを着る」「50代はミニスカートを履かない」といった価値観を壊して、私が思う「女性が魅力的に見えるスタイル」を提案しています。
たとえば、ファーストコクレションのひとつでありブランドの定番アイテムである「HAMPTON(ハンプトン)」は、メンズのワークシャツを元にしていますが、大きめのシャツを女性が着ることで華奢なラインが際立つといったギャップが生まれ、あえて胸元を大きく開けてジュエリーを目立たせて着こなすのも素敵です。
理想のスタイルを目指す上で、ポケットやワッペンの位置や加工にも細かくこだわります。工程を一つ省くだけでコストが下がるとしても、「大人の遊び心」が分かる方に選んでいただきたい、という思いがあるのです。
ーー社風にも独自性があるのでしょうか?
中山まりこ:
譲れない信念がある一方で、人の話を聞いて柔軟に対応することを心がけています。製造工程でミスがあった場合も、「これも面白いんじゃない?」と発想を転換しますね。「こだわらないこと」がこだわりの一つです。
フラットな目線は「好きな服を好きなように着てほしい」という思いにもつながるため、スタッフとも共有したいところです。心を開いた状態で思考を続けることが好きな人たちと、一緒に働きたいと思っています。
「より多くの人へブランドを届けたい」という思いから販路拡大へ

ーー今後の展望をお聞かせください。
中山まりこ:
2024年11月に百貨店への出店を果たし、今年2月には東京・青山に旗艦店を移転、「MADISONBLUE TOKYO」をグランドオープンしました。顧客の皆様とより向き合いつつ、もう一歩先のお客様にまで商品を届ける時期が来たと考え、大手ともニッチとも違う私たちらしいブランドコミュニケーションを構築していきたいと考えています。
「マディソンブルー」を扱う地方のお店を訪ねた時に、「一枚のプロダクトが私を旅に連れ出してくれた」とワクワクしました。「一つのシャツを通して人に会いにいきたい」という発想で世界に目を向けるとしたら、ヨーロッパの避暑地にあるホテルにアイテムを置いてみたいですね。バカンスを楽しみに来る人は、心のゆとりというラグジュアリーを知る人です。私が旅に出た時に、そんな人たちと出会えたら素敵だと思います。
編集後記
ブランド初となる百貨店第1号店を、伊勢丹新宿店本館にオープン、今年に入ってからは旗艦店を東京・青山に増床移転したマディソンブルー。人気ブランドとして知られつつも、これまでは「消費されたくない」という思いから意図的に広告も打たず、販路も狭めてきた。創設10周年を迎えて「こだわりを共有できるファン」との絆を実感したからこそ、新しいステージに挑むことを決めたのだろう。多くの人を惹きつけるコレクションには、夢を実現してきた中山氏の人生と強い意志が反映されている。

中山まりこ/1964年生まれ。1980年代より、広告・雑誌・音楽のスタイリングをメインにスタイリストとして活動。2014年、自身のブランド「MADISONBLUE」をシャツ6型からスタート。株式会社MADISONBLUEのCEOとして、またデザイナー兼ディレクターとして、洋服すべてのクリエーションを担う。