※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

自動車教習所は、少子化による生徒数減少が業界の大きな課題となっている。そんな中、独自の経営哲学で業界の固定観念を打ち破るのが、株式会社北豊島園自動車学校だ。「教育業であり接客業」という考えのもと、フレンドリーな指導スタイルの確立や、動画教材による学科教習の強化、個人相談でのフォローアップなどで学科合格率の向上を実現。卒業生からの紹介で新規入校者が増えるという好循環も生まれている同社の取り組みについて、代表取締役社長の相原伸年氏に話をうかがった。

建築業界での起業から一転、自動車学校へ

ーー入社前はどのようなお仕事をしていたのですか?

相原伸年:
20代のころ、建築業界に職人として就職しました。空調や設備、電気など、さまざまなところに携わる業種で4年ほど働くうちに、多くの人脈ができ、仲間内で「この業界を盛り上げたい」という気運が高まっていきました。そこで、同僚4名と会社を立ち上げようということになり、25歳のときに建築分野で起業。その会社で7年間働いたのち、1996年に弊社に入社したのです。

ーーなぜ建築業界から転職しようと考えたのですか?

相原伸年:
弊社は私の父と、父の兄が創業した会社です。そのため、会社や親への感謝の気持ちから入社した側面が強かったですね。私には弟がおり、先に入社していたのですが、兄弟ともに「私たちが不自由なく育ててもらえたのは、この会社のおかげだ」という気持ちを持っていました。もちろん、建築の分野で起業するにあたって「ずっと建築業界で頑張っていこう」と決意していましたから、退職するかどうか非常に悩みました。それでも、「親のために何かをしたい」という気持ちから、前職の会社を退職して、弊社に入社することを決意したのです。

生徒の学びを支え、褒めて伸ばす教習スタイル

ーー自動車教習所としての貴社の特色を教えてください。

相原伸年:
教習所は教育業でもあり、接客業でもあると私は考えています。そのため、教育業と接客業を両立させる育成方針が、弊社の特色と言えるでしょう。

教育業としては、運転技術だけでなく自動車の危険性や、運転時に必要なメンタル面も指導し、「横断歩道で一時停止する」「煽り運転をしない」など、昨今問題になっている危険運転についても教えています。

一方で、接客業としては「先生が生徒に怒る」ということは好ましくありません。昔の教習所は先生が生徒に怒ることもあったため、「怖い先生がいる場所」というイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。しかし弊社では、運転技術に関してしっかりと指導しながらも、褒めるべきところは褒めるという方針で教えています。

また、弊社は「目指せ!フレンドリースクール」というスローガンを掲げています。先生が巡回して勉強中の生徒に声を掛けたり、個人相談で苦手分野をリカバリーしたりすることで、生徒の学習を手助けしているのです。そうした取り組みの結果、卒業する生徒に行ったアンケートでは、「フレンドリーな学校で学べてよかった」「楽しかった」という声が多数寄せられました。生徒に笑顔で接することで、卒業した生徒が次の生徒を連れてきてくれるという良い流れもできています。

ーー貴社の強みはどのようなところですか?

相原伸年:
学科試験の合格率を上げるための取り組みをいち早く行ってきたことが、弊社の強みです。学科については、どこの自動車教習所も悩んできた部分だと思います。生徒にとって、学科を学ぶ50分間は非常に長く感じられるようです。

そこで、弊社は生徒が少しでも学科に興味が持てるように、「DON!DON!ドライブ」という教習教材を採用しました。これは、個性的なキャラクターが交通ルールや安全運転に関する知識をわかりやすく教えてくれる動画教材です。九州の教習所で発売されたものを、弊社が都内で初めて導入しました。導入後は、生徒の皆さんがより興味を持って講義を聞いてくれるようになり、学科の合格率が年間平均で20%ほど上昇するという効果が表れています。

これまでのイメージを一新し、笑顔あふれる教習所へ

ーー社長が大切にしている考えをお聞かせください。

相原伸年:
一般の方が教習所に抱くイメージは、「運転技術を習いに行く場所」というものがほとんどで、「働く場所」と考える人は少ないと思います。私がこの業界で働き始めたばかりのときに感じたのは、「こんな商売の仕方があるだろうか」ということでした。当時の教習所では、「先生の印鑑をもらうために、生徒が黙って怒られる」という光景が珍しくなかったのです。お子さんを教習所に通わせる親御さんの中で、「教習所は怖い」というイメージをお持ちの方は少なくないでしょう。

こうした状況に対し、「お金をいただいている立場なのに、なぜ威圧的な接客をするのか」と、私は疑問を感じました。そこで、これまでの商売の仕方を変えるべく、先生の服装をラフなジャンパーにして挨拶を徹底するなど、イメージの刷新に努めてきたのです。少子化で生徒数が減っていく中で弊社が生き残るためにも、このような取り組みが大切だと考えています。

ーー最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。

相原伸年:
人と話すことや車が好きだという人は、教習所で働くことに向いていると思います。好きなことを生かせる環境で働ければ、仕事も長続きするはずです。

昔は終身雇用制度が採用されて、一つの会社で定年まで働くのが一般的でした。しかし現在は、いつ潰れるかわからない会社や、大手であっても規模を縮小している会社もたくさんあります。そのような中で大切にすべきなのは、「自分が何をしたいか」という目的意識だと思います。若いうちはさまざまなことに挑戦して、自分の引き出しを増やすべきです。

「車やバイクの構造に興味がある」「人に教えるのが好きだ」ということであれば、教習所業界は就職先として魅力的な選択肢の一つになるでしょう。弊社は、スタッフが気持ち良く働くための環境づくりにも取り組んでいるので、教習所で教えることに興味がある人は、ぜひ弊社も選択肢の一つに入れてほしいです。

編集後記

自動車教習所というと、多くの人が「厳しい先生」のイメージを抱いたり、「怒られた思い出」を持っていたりするのではないだろうか。しかし相原社長は、そうした業界のマイナスイメージを払拭するべく、教育の本質を見据えた改革を進めてきた。ジャンパー姿の指導員や、アニメーション教材の導入など、従来の常識にとらわれない改革の数々は、教習所のあり方そのものを問い直すものだ。「お金をいただいている立場で、なぜ怒る必要があるのか」という素朴な疑問から始まった改革は、確実に成果を上げている。

相原伸年/1970年、東京都生まれ。1991年に建築業界へ入り、1996年に仲間と共に建築関連の会社を設立。約7年間建築業界に携わったのち、1998年に株式会社北豊島園自動車学校へ入社。2023年に代表取締役社長へ就任。