
PXC株式会社は、店頭販促やキャンペーン・イベント企画、Webマーケティングなどのセールスプロモーション事業を展開する企業だ。2021年に同社の代表取締役社長(現・代表取締役CEO)に就任した菅野健一氏は、商社勤務を経て起業し、社長・社外役員として複数の企業の上場に携わってきた。同社は現在webやAIを活用した多くの事業を展開しているが、菅野代表の就任前はデジタル化に苦慮していたという。
今回は菅野代表に事業を成功に導く秘訣や経営者としてのポリシー、中期経営計画で掲げる方針について話を聞いた。
複数の企業の顧問を歴任。計3社の上場に携わる
ーーまず、ご経歴についてお聞かせください。
菅野健一:
慶應義塾大学法学部を卒業後に商社へ就職し、審査部で経験を積みました。その後、31歳でインターネットで与信管理を行うリスクモンスター株式会社を設立。商社審査部での経験を活かして事業を拡大し、立ち上げから4年半ほどで大証ヘラクレス市場(現・東証スタンダード)へ上場しました。リスクモンスターでは社長や会長を務めましたが、それ以外にも複数の会社の社外役員を務めており、リスクモンスターを含めて計3社の上場に関わりました。
弊社の関与が決まったのは、ちょうどリスクモンスターを退社しようと決めたときです。日本のインターネットブームは1990年代後半から始まり、現在ではインターネット販売やデジタル広告が広く普及しています。インターネットを活用した販促事業は先代の頃から弊社の悲願でしたが、ノウハウがなくデジタル化が難航していたのです。そこで私に声がかかり、2021年に社長に就任しました。
外部目線で「無駄」を改革し、事業を成功に導く

ーー貴社の事業・サービスの内容を教えてください。
菅野健一:
弊社はセールスプロモーション領域を中心とした多種多様なサービスを展開しています。中でも主要な事業は販促特化のマッチングサイトである「ハンソクエスト」と、AIを活用した記事生成エンジン「AMAIZIN(アメイジン)」の2つです。
「ハンソクエスト」は、コロナ禍の事業再構築補助金を活用して始めました。小さな町工場など、中小企業では自社のホームページを持っていないケースも珍しくありません。そのような企業は販促ルートが限られてしまい、優れた技術を持っているにもかかわらず、顧客に認知される機会がない場合があります。仮にデジタルが苦手でホームページがなくても、「ハンソクエスト」にサービス内容を掲載すれば販促物を制作したい人の目にとまり、成約につながる仕組みです。
「AMAIZIN」では販促物の活用方法などの記事を、AIを活用して大量に制作しています。ここから「ハンソクエスト」にユーザー導線をつなげているため、自社のサービス内でビジネスを完結することが可能です。
ーー代表に就任後、多くの事業を成功に導いています。その秘訣はどのような点にあるとお考えでしょうか?
菅野健一:
私は異業種から販促業界に入ったため、外部の目線をもって改革を行えたことが大きいと考えています。たとえばドラッグストアやコンビニエンスストアにはさまざまな商品の販促物が設置してありますが、販促物の制作や配送にかかる費用はメーカー側が負担しています。メーカーによって使用する販促物が異なるため、私の目には素材や流通方法に無駄があるように映るのです。
私が業界の外から来た人間だからこそ、このような商慣習などの常識を疑えるのだと思います。弊社なら、今まで築いてきたつながりやノウハウと先進的な技術を両立し、新しい事業スキームを生み出すこともできるでしょう。
ポリシーは「公明正大」と「信賞必罰」
ーー経営者としてのポリシーや考え方を教えてください。
菅野健一:
「公明正大」と「信賞必罰」を大事にしており、新たな挑戦をした人には正当に報いることを心がけています。変化したい・挑戦したいと思っていても、実際に行動できる人は多くありません。その中で、一歩踏み出した人がビジネスの世界で勝ち上がれると考えています。
また弊社では、基本的にどんなチャレンジでも奨励しています。従業員の立場からは、挑戦してよいことと悪いことの判断がつかない場合も多くあるかもしれません。そこで会社が背中を押してあげれば本人の成長につながり、結果的に会社にも還元されるため、Win-Winになると考えています。
ーー貴社の従業員に期待することは何でしょうか?
菅野健一:
会社に頼りきりになるのではなく、一人の人間として自立して生きる力をつけてほしいと思います。従業員は会社の持ち物ではなく、従業員にとって会社は家族ではないからです。
弊社は自社商品や製品を製造・販売する業態ではないため、従業員一人ひとりのパフォーマンスが業績に直結します。たとえ会社が大きくても、担当者の力量が不足していると売上高は上がりません。会社の名前に関係なく、一人のビジネスパーソンとして活躍できる力を身に着けたほうが、従業員の人生も豊かになるでしょう。
また、優秀なプレイヤーがより仕事に打ち込めるよう、人事制度の改定も検討しています。たとえば、将来的に年収が一億円を超えるようなプレイヤーを複数人生み出せるような制度、自分の成果をダイレクトにエンジョイしたい人に合った環境を整備することが重要であると考えています。もちろん、従来型の比較的安定した給与体系を希望する人はそちらも選択できるようにする方針です。法令の範囲内で、自由な働き方を選べるようにしたいですね。
ーー貴社で活躍している人にはどのような特徴がありますか?
菅野健一:
自由な人や仕事を楽しんでいる人、最先端のものに敏感な人です。時代の先頭を走るような事業なので、パイオニアスピリットがある人にとっては非常にエキサイティングな職場でしょう。
挑戦する気持ちを忘れない人にとっても活躍しやすい環境です。弊社では、入社したばかりだからといって新人扱いはしません。スキルと経験によっては入社当初からリーダーを任せて数字を追ってもらうこともあります。
ーー企業の経営において、どのようなポイントが重要だとお考えでしょうか?
菅野健一:
正しいリスクマネジメントが重要であると考えています。リスクマネジメントには「行動した結果引き起こされるであろうリスクの管理」と「行動しなかったことにより被るであろう損失の管理」の2種類があり、日本では前者が重視される傾向にあるように思います。
しかし私は、後者の「行動しなかったことにより被るであろう損失」への管理こそがリスクマネジメントの本質であると捉えているのです。正しいリスクマネジメントは、企業だけでなく日本全体の経済成長にとっても欠かせないポイントになるでしょう。
世界の一隅を照らす星になる「スタープロジェクト」を立案
ーー今後貴社が力を入れたい領域は何でしょうか?
菅野健一:
BtoBのWebマーケティング支援です。BtoCの販促はイメージが付きやすいと思いますが、BtoBでも採用活動やインターネット広告、社内イベントの告知、社内報の制作など、さまざまな広報活動やマーケティングが必要です。これらの支援を行う企業はまだそこまで多くないため、ブルーオーシャンを狙って事業を展開したいと考えています。
「ハンソクエスト」と「AMAIZIN」を組み合わせた事業にもさらに取り組みたいですね。ホームページ制作やパンフレット制作、Webマーケティング、イベント企画などを一括で提供し、シナジーを生むサービスを構想中です。
ーー5年後、10年後にどのような会社にしていきたいとお考えでしょうか?
菅野健一:
2025年1月に発表した中期経営計画では、世界の一隅を照らす星になることを目標とする「スタープロジェクト」を掲げました。まずは5年以内に上場し、次の5年で世界的な企業を目指します。
広告業界やWebマーケティング業界は規模が拡大し続けています。また、インターネットの発達により、昔と比べて多くの人が手軽に情報にアクセスできるようになりました。しかし、企業と消費者・取引先の間には、依然として情報の非対称性があります。企業は自社の情報を伝えたい、消費者や取引先は商品・サービスの情報を知りたいと思っているのに、なかなかうまく伝わらないのです。
企業と消費者・取引先のミスコミュニケーションを解消するのが広告やマーケティングの役割です。AI等の最新テクノロジーを駆使し、より円滑に効率よく企業の魅力を伝えて、世の中に貢献していきたいと考えています。
編集後記
自由と挑戦を重視する菅野代表の話から、エネルギッシュに仕事に取り組み変化を楽しむことが、数々の事業の成功につながっているのだと感じた。日本が「失われた30年」を取り戻すためには、変化や失敗を恐れすぎずに行動することが求められているのかもしれない。

菅野健一/1993年日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。2000年に与信管理クラウドサービスを行うリスクモンスター株式会社を創業し、取締役就任。2004年、代表取締役社長に就任。2005年にリスクモンスター株式会社を大証ヘラクレス市場に上場させる(現在は東証スタンダードに上場)。2018年取締役founder就任(2021年退任)。2021年PXC株式会社代表取締役社長、2024年代表取締役CEO就任。