※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

1963年にデンマークで誕生し、革のなめしから企画・製造・販売までを一貫して自社で行い、クオリティの高いシューズやレザー製品を世に送り出しているブランドECCO(エコー)。その日本法人であるエコー・ジャパン株式会社に今、新しい風が吹いている。

「新しいECCO」というビジョンのもと、ブランドの革新に向けた施策が矢継ぎ早に展開されているのだ。率いるのは、プラダ、ロレアル、バリーなど世界的なブランドを渡り歩いて手腕を発揮してきたパンソップ・シム氏。2024年に同社代表取締役社長に就任したシム氏に、その戦略と展望をうかがった。

ブランドの価値観に惹かれて入社を決意

ーーこれまでのキャリアについてお聞かせください。

パンソップ・シム:
マサチューセッツ大学の大学院でデザイン学を専攻し、修了後はさまざまな仕事に携わりました。たとえば、韓国のギャラリア百貨店で店舗開発のコーディネーターとして店舗のリニューアルに参加した際、私が担ったのは、百貨店側と店舗デザイナーとの橋渡し的な役割です。また、プラダでは、ビジュアルマーチャンダイジング(※1)を担当しました。

(※1)ビジュアルマーチャンダイジング:商品をより魅力的に見せるために陳列を考え、店内の演出などを行い、消費者の購買意欲を高めるマーケティング手法のこと。

ーーECCO(エコー)に入社されたきっかけは何ですか。

パンソップ・シム:
プラダを皮切りに、ロレアル、バリー、サムソナイト、サムスンといった世界的企業で経験を積み、フランス人のビジネスパートナーとブランドコンサルティング会社を設立しました。その際、ECCOから韓国法人設立に向けたブランドコンサルティングの依頼を受け、韓国市場における事業展開の具体的な提案を求められたのです。

1か月の準備期間を経て、香港にあるECCOのアジア本社でプレゼンテーションを実施したのですが、その日の夕食会でディレクターたちと話した際に「ぜひうちに来てほしい」とお誘いを受けたことが、入社したきっかけです。

ーー入社を決めた理由をお聞かせください。

パンソップ・シム:
プレゼンテーションの準備過程で、ECCOの企業理念を詳しく調べる機会があり、その中でいくつかの点に深く魅力を感じました。特に印象的だったのは、ECCOが長年にわたりコアバリュー(企業が経営を進める上で最も重要視する価値観)を守り続けている点です。そして何より、その価値観が製品であるシューズに見事に反映されていることに感銘を受け、入社を決意しました。

一貫生産体制が生み出す品質と独自性

ーーECCOの特徴と強みを教えてください。

パンソップ・シム:
ECCOは1963年にデンマークで誕生して以来、さまざまなライフスタイルや年齢層、国籍や文化に対応したシューズを作り続けてきました。現在では約90か国で展開するグローバルブランドに成長しましたが、一貫して変わらない特徴があります。それは、革のなめしからデザイン、製造、販売まで、ほぼすべての工程を自社で行っていることです。これこそがECCOの最大の特徴であり、強みだと考えています。

また、ECCOのシューズは、幅広いライフスタイルをカバーするラインナップや、原料の革から自社で開発する徹底したこだわりも特徴です。これらはすべて、最高の履き心地を追求するという揺るぎない信念に基づいています。派手さや目新しさに走ることなく、シンプルで機能性を重視したデザインコンセプトのもと、履く人に確かな快適さを提供することに特化しています。こうした姿勢の一つひとつに、ECCOの価値観が凝縮されていると思いますね。

「新しいECCO」変革を象徴する新たな戦略

ーー2024年2月、エコー・ジャパン株式会社の代表取締役に就任された背景を教えてください。

パンソップ・シム:
2022年まで韓国法人のゼネラルマネージャーを務めた後、アジアパシフィック・リージョナルディレクターに就任しました。当時、ECCOは、中国、韓国、日本、インド、モンゴル、パキスタンなど、アジアだけでも数十か国に展開していましたが、広域化によるビジネスの効率性の低下が課題として浮き彫りになったのです。

マーケットの編成後、重要市場である日本と韓国については、私が代表取締役社長に就任しました。この新体制のもと、両国市場での成長をさらに加速させたいと考えています。

ーーリーダーとしての経営哲学をお聞かせください。

パンソップ・シム:
社長として、まず求められるのは商品のマネジメントですが、それと同様に重要なのがリスクのマネジメントだと考えています。社員が決断や挑戦をする際、そのリスクを負うのは私の役目です。私がリスクを引き受けることで、社員たちは心理的な安全性を確保し、さまざまな課題に果敢に挑戦できる環境が生まれると信じています。

リスクを負わなければというプレッシャーから解放された社員たちは、より大胆に行動し、新しい可能性を切り拓けるはずです。こうした安心感と挑戦の場を提供することが、リーダーとしての私の使命であり、責任だと考えています。

次世代層への訴求と直営店拡充で描く未来像

ーー今後はどのような事業展開を予定していますか。

パンソップ・シム:
現在、日本ではプレミア層(※2)を中心に売り上げが伸びていますが、現状に満足することなく、さらなる拡大を目指します。

同時に、新たな客層へのアプローチも重要な課題と捉えており、特に焦点を当てているのが次世代層です。従来のメインターゲットである40代後半から50代の客層に加え、これまでECCOの製品に馴染みの薄かった20代から30代の若年層を取り込むため、次世代層にもブランドの魅力を届けることに注力しています。

具体的には、SNSをはじめとするデジタルメディアでのコミュニケーション戦略を強化するとともに、都内では若年層が集うエリアへの出店を計画しており、新しいECCOを象徴する情報発信の拠点として活用する予定です。

さらに、国内主要都市での存在感向上を目指し、2025年以降は大阪と名古屋に、2026年には福岡に旗艦店のオープンを計画しています。すでに全国の百貨店で取り扱われていることから、この展開は新規進出というよりも、直営店による商品の拡充とブランド価値の浸透が目的です。

(※2)プレミア層:クオリティの高い商品に対して、それに見合う対価を惜しまない消費者層。

編集後記

パンソップ・シム氏の言葉から、ECCOというブランドが持つ揺るぎない信念と革新への情熱を強く感じた。デザインから製造、販売までを自社で一貫して手掛ける姿勢は、単なるビジネスモデルを超えた確固たる哲学が感じられる。さらに、次世代に向けた大胆な展開計画には、伝統を礎としながらも、未来を切り開こうとする強い意思が込められている。「新しいECCO」がどのように日本の靴文化を変えていくのか。その挑戦に期待が膨らむ。

パンソップ・シム/1970年韓国ソウル市生まれ。マサチューセッツ大学大学院デザイン学修了。ギャラリア百貨店(韓国の百貨店)、プラダ、ロレアル、バリー、サムソナイト、サムスンで、コーディネーターの仕事や、ビジュアルマーチャンダイジングなどに携わったあと、2012年ECCOに入社。韓国法人の設立に従事し、設立後はエコー・コリア株式会社の事業拡大に貢献する。2022年まで韓国法人のゼネラルマネージャーを務め、その後、アジアパシフィック・リージョナルディレクターに就任。2024年、エコー・ジャパン株式会社およびエコー・コリア株式会社の代表取締役社長に就任。