
総合建設・不動産会社として、公立学校の改修工事から高齢者住宅の運営まで、幅広い事業を展開する株式会社北陽。一時は3000万円以上の負債を抱え経営危機に陥るも、人間関係を軸とした独自の営業手法で再建を果たした。
現在も「取引先との信頼関係」を第一に考え、現金決済を貫く経営方針で、堅実な成長を実現している。民間工事への進出を加速させ、ホテル建設など新たな領域へと事業を拡大する同社の代表取締役会長である北嶋隆志氏に話をうかがった。
地道な営業努力で切り拓いた事業再建への道
ーー代表就任の経緯をお聞かせください。
北嶋隆志:
私はかつて、父が創業した株式会社北嶋建設で勤務していました。しかし、私が19歳のとき、同社は多額の負債を抱え、やむなく倒産に至りました。その困難な状況の中、一緒に働いていた兄と再出発を決意したのです。そして新たな会社を設立し、北嶋建設を再興しました。
現在、私が経営している会社は、新北嶋建設の子会社として、1994年に設立されたものです。私はかねてより、「小規模でも、自分だけの裁量で経営を行いたい」と考えており、特に2006年以降は新たな挑戦への意欲を強くしていました。そうした思いから、弊社の出資者だった兄に「北陽を任せてほしい」と申し出て、2009年に代表取締役に就任しました。
ーー社長就任後はどのようなことに注力しましたか。
北嶋隆志:
入札で仕事をとろうと考えたものの、競合が80社ある中で戦うという、非常に厳しい状況でした。そのため、まずは弊社を信頼してくれる取引先を増やそうと考え、さまざまな会社の社長と食事やお茶をご一緒して親しくなることから始めました。
そのような営業努力を半年から1年ほど続けていると、「一度、仕事を任せてみようかな」と言ってくださる取引先が増えていきました。たとえ利益率が低くても仕事を引き受け、実績を重ねることに注力したところ、2〜3年後には取引先業者が7社ほどとなり、入札で仕事を取れることも増えていったのです。
現在では、23社ほどの取引先グループが形成されています。こうした結果から、地道な努力を通じて、こちらの誠意を伝えることが大切なのだと実感しましたね。
ーー大切にしている考え方や価値観を教えてください。
北嶋隆志:
人間関係において、絆を大切にしています。人に何かをし、反対に自分も何かをしてもらう。そういった関係を築く中で、「やはり絆を大切にしていてよかった」と感じることが人生において何度もあったのです。たとえば、弊社が銀行からお金が借りられず、資金繰りに悩んでいたときには、弊社社長の弟が助けてくれました。これは、相手が絆を重んじて弊社との関係を大切にしてくれた証だと考えています。
また、社員同士が良好な関係を築くために、顔を合わせる機会を設けるよう心がけています。初めの10年までは私自身が社員の皆さんとご飯を食べに行く機会を必ず年に2、3回とるようにしていました。それからは会社の従業員が増えていくにつれ、各部署・各現場の所長が社員とコミニケーションをすることも大切だと感じるようになり、今では協力会社も含めて、社員同士でご飯に行く機会を設けるように取り計らっています。
公共事業9割から民間分野への転換を図る

ーー現在はどのような事業を展開していますか?
北嶋隆志:
弊社は、総合建設を中心に、不動産事業やサービス付き高齢者住宅の運営などの事業を展開しています。事業の柱は総合建設の分野で、2024年に30億円以上の売上を計上しました。受注した仕事のうち9割が公共事業で、残りの1割が民間の戸建てやマンションの建設ですが、今後は民間工事の受注を増やす方針です。
ーー今後、どのようなところに注力したいとお考えですか?
北嶋隆志:
前述の通り、今後は民間工事の受注を増やしたいと考えています。そのためにも、営業力を強化していきたいですね。現在、知り合いの事業者が関西に4軒、中国地方に2軒のホテルを建設する予定で、ホテル建設受注、さらに受注させてもらう予定です。これからもこうしたご縁を大切にして、実績を重ねていくつもりです。
私は若いころ、取引先開拓のために朝6時から社長のお宅の前で待機し、ゴルフに向かう社長に直接アプローチしたこともありました。社長は驚きながらも私の熱意を買っていただき、後日話を聞くことを約束してくれたのです。そこまでする営業職は少ないからこそ、社長も話を聞いてくれたのでしょう。話が決まった後もスピーディーな対応と誠実な仕事を心がけたことで信頼を得ることができ、次の仕事にもつながっていきました。
こうした経験から、営業には「やってみよう」という積極性と、相手の信頼を勝ち取る行動力が必要だと実感しています。今の時代で同じやり方をすることはなかなか難しいと思いますが、仕事に対して熱意を持つということは時代を問わず重要なことだと考えています。
選択と集中で実現する経営改革
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
北嶋隆志:
会社の規模がある程度大きくなったので、事業の内容を整理して再編することを考えています。不要な事業を潰してしまうというのではなく、部署を統合するなどして経費を最適化する方針です。現在、弊社の関連会社は建設、不動産、介護、警備の4分野に分かれています。このうち、建設会社の子会社を再編の対象にするつもりです。
私個人の今後に関しては、65歳までは現役で頑張るつもりですが、その後は沖縄でのんびりとした時間を過ごしたいと考えています。今が60歳なので、これからの5年間で事業基盤を固め、次の世代に確かな経営基盤を引き継いでいきたいですね。
編集後記
当時ならではの大胆な営業スタイルを語る北嶋会長の表情は、今でも若々しい熱意に満ちていた。経営危機を乗り越え、23社もの協力会社グループを築き上げた原動力は、この情熱にあったのだろう。人との出会いを大切にし、関係を育んでいく。ビジネスの根幹には必ず「人」があるという普遍的な真理を、改めて学ばせていただいた。

北嶋隆志/1965年、大阪生まれ。大阪市立淡路中学校を卒業後、北嶋建設株式会社に入社。2009年、株式会社北陽の代表取締役に就任。地域の町づくりと啓発を推進している。