
注射薬を封入する容器や真空採血管など、医薬品・医療品向けのガラス製品を製造している村瀬硝子株式会社。1934年から続く長い歴史を持つ会社であり、中外製薬株式会社、旭化成ファーマ株式会社、アステラス製薬株式会社など、多くの大手メーカーを顧客に持つ。
同社が高い信頼を得ているのは、代表取締役社長である村瀨弘一氏のリーダーシップのもと、常に自らを進化させていこうとする革新的な企業風土にある。2034年の創業100年を見据える同社が掲げ、目指すものとは何か。村瀨社長にうかがった。
父の継いだ会社を残すため本気の変革に取り組む
ーー村瀨社長の経歴をお聞かせください。
村瀨弘一:
弊社は、私の父が前社長を務めていた我が家の家業です。私も大学卒業後に家業を継ぐことを意識しましたが、まずは自分の可能性を広げるために製薬会社に入社しました。
弊社に戻ってくることになったのは、製薬会社に入社して2年目のときに父が病気になったことがきっかけです。幸い、父の病気は深刻なものではありませんでしたが、会社の将来も考えて家業に戻ることを決めました。
弊社に入社して驚いたのは、約7割もの製品が顧客へのサービスとして作っている赤字製品だったことです。私は会社の成長と社員の幸せのために、ラインナップの取捨選択をするとともに経路依存の経営体質を見直す決意をしました。
この取り組みは2007年に私が社長に就任してからも続き、つい最近、約25年もの期間をかけてようやく完了しました。
振り返ってみると、私の経歴は会社の体質改善と共に歩んできたようなものです。長年続いてきたことを変えるのは大変なことですが、より良い会社になるには改革から目を背けることはできません。今後も現状に甘えることなく、つねに改善できるポイントを探しながらリーダーシップをとっていく所存です。
ーー社長として大切にしている考え方や価値観を教えてください。
村瀨弘一:
特に大切にしているのが、ものづくりに携わる使命感を持ち、その精神の核心を磨き続けることです。弊社はものづくりに情熱を燃やしてきた祖父から始まった会社なので、その思いを高め続けてこそ進化できると考えています。
また、シンプルなことですが、社内で共有できる目標を立てて、繰り返し社員に伝え続けることも大切にしています。
たとえば、2016年に策定した「ロードマップ2025」という長期ビジョンでは、「効率化」「合理化」「設備改革」という3つの観点から、持続可能な成長を続けられる会社になるために取るべき行動をまとめました。このロードマップの精神を日々の業務に浸透させ続けることで、随時プロセスを最適化させ、品質改善や利益の増加、ひいては社員一人ひとりの幸せを実現することを目指しています。
これらの考えは、どちらも顧客から信頼を得るために欠かせません。行動の核となる思いを磨き、具体的な行動に落とし込んでいく。そんな終わりなき追求の旅を続けてこそ、より良い未来が見えてくるのではないでしょうか。
長年信頼され続ける品質を維持するために必要なこと

ーー貴社の事業内容と強みをお聞かせください。
村瀨弘一:
弊社の主な事業は、医薬品と医療品の分野で使うガラス製品の製造です。1934年にアンプルの製造から始まった弊社は、品質に対してこだわり続けることで多くの顧客から信頼を集めるようになり、今では多くの大手企業様とお取引させていただいております。
そして、弊社の強みも、品質の高さとお客様の信頼にあります。高い品質を維持するのは容易ではありませんが、自動化による効率化や品質管理体制の徹底、社員たちが健康的に働ける職場環境の確保など、あらゆる方面で努力を続け、お客様からの期待に応え続けています。
ーーものづくり業界で仕事をするにあたって、大切にしていることは何でしょうか。
村瀨弘一:
私はものづくり業界で努力を続けるにあたって、良い製品をつくってお客様や世の中に貢献すること、そして、その結果社員を幸せにすることを大切にしています。事業で出した結果を積極的に報酬や労働条件に還元し、社員たちが頑張った分しっかり報われるような会社になりたいですね。
社員一人ひとりがものづくりを通じて自分に還元される価値を見い出し、そのモチベーションを保つことこそが、品質の追求や技術の向上、そして社会貢献へとつながるのではないでしょうか。
100年企業の仲間入りを目指し、今後10年で何を為すべきか

ーー今後、貴社をどのような会社に成長させていきたいですか?
村瀨弘一:
おかげさまで弊社は2024年に創業90周年を迎え、次の大きな目標である100周年に向けて走り出しています。100年企業になれるように会社を持続させること、そして、100年のその先も進化を続けられる企業になることが、これからの弊社に必要だと思っています。
そのためには、よりハイスペックな注射薬の容器やシリンジ、高性能バイアル(注射剤を入れるための容器)などを開発していき、製薬業界で存在感をさらに高め、オンリーワンの地位を確立することが大切になってくるでしょう。
それと同時に、品質改善の部分も大事にしなくてはなりません。たとえば、完成した容器に特殊な溶液をつける取り組みを行っていますが、現在は人の手で行っているので、どうしても工数に無理が出ている状況です。そこで生産ラインにおける自動化技術の導入を進めて、効率的に品質アップを図れればと思っています。
そして、これらの取り組みを担うのが、次の時代を担う20代、30代の社員の育成です。すでに育成には力を入れ始めており、彼らが主導するプロジェクトの成功例も出始めています。彼らが将来の幹部候補として成長できる環境を整えることこそ、村瀬硝子の未来をつくることにつながると思っています。
編集後記
村瀬硝子の大きな強みは、初代から続くものづくりへの思いを洗練し続けながら、その思いを行動に落とし込んでいるところにある。経営課題から目をそらさず、自己成長を続けてきた同社であれば、製薬業界でゆるぎない地位を確立することもできるはずだ。そして、その先にある100年企業という目標も、誰よりもものづくりの魂を持つ村瀨社長であれば必ず達成できることだろう。

村瀨弘一/1970年千葉県生まれ。日本大学法学部卒業後、大手製薬会社への入社を経て1995年村瀬硝子株式会社に入社。企画室室長、専務取締役を経て、2007年同社代表取締役社長に就任。