
南海電鉄のなんば駅に直結、大阪の中心地で堂々の5つ星を誇るスイスホテル南海大阪。世界的に展開するホテルグループの一翼を担い、日本における同ホテルの運営を指揮するのは、SNK Hotels株式会社総支配人のシェーン・レスリー・エドワーズ氏だ。日本での新たな挑戦への思いや同ホテルの今後の展開について、同氏にお話をうかがった。
偶然の出会いからシェフへ、そして日本へ
ーー日本赴任の経緯と、その印象をお聞かせください。
シェーン・レスリー・エドワーズ:
私はニュージーランドの出身です。もともとはエンジニア志望でしたが、友人に誘われて料理のクラスに参加したことをきっかけに、その楽しさに魅了されました。さらに、料理学校へ進学する奨学金を得たことで、シェフの道に進むことになったのです。その後、ホテル業界に転身し、世界各国で経験を重ね、2022年にスイスホテル南海大阪の総支配人として日本に赴任しました。
まず感じたのは、日本は安全面や衛生面に優れており、働く上でとても魅力的な環境だということです。また、日本はコロナ禍後の国境封鎖解除が遅く、その後の観光市場が伸びることが予想され、やりがいのある挑戦になるとも考えました。
スイスホテル南海大阪は所属するアコーグループの中でも日本で最大規模の拠点であり、アジア全体でも重要な位置づけを持つホテルです。新たな文化を体験し、経営面でも大きな責任を担えることに感謝しています。
ーー来日後、どのような点に苦労しましたか?
シェーン・レスリー・エドワーズ:
文化の違い、特に意思決定のスピードには戸惑いを覚えました。日本では何事もさまざまな角度から慎重に検討を重ねたうえで決定するため、もどかしさを感じることもあります。しかし、日本の高い安全性はこうした慎重さから生まれるものだと理解し、プロセスを尊重することを学びました。どうしても迅速な判断が必要な場合には、日本在住の経験豊富な従業員に相談し、適切な進め方を模索しています。
言語については、翻訳サービスを利用できることや、ホテル業界特有の用語が英語をそのままカタカナにしたものが多いこともあり、大きな支障はありませんでした。日本人は英語が苦手だと言われますが、実際には話せる人が予想以上に多いと感じています。現在、このホテルでは20か国以上の出身者が働いているため、言語の違いよりも、文化の違いの方がより大きな課題です。文化の相違を理解し、橋渡しをしながらチームをまとめることが、日々の課題のひとつになっています。
多様性がもたらす競争力

ーースイスホテル南海大阪や貴社の強みを教えてください。
シェーン・レスリー・エドワーズ:
スイスホテル南海大阪の最大の強みは、何といっても利便性の高い立地、そして国際的なホテルとしての歴史と知名度にあります。また、大きな特徴として、多様性を受け入れるオープンな姿勢が挙げられます。国籍やLGBTQなどの違いを問わず、誰でも安心して働き、宿泊できる環境を提供し、服装やタトゥーなどの外見による差別も設けていません。
2024年に大阪で開催された「IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)世界総会」のホストホテルを務め、IGLTA認定ホテルの承認、またLGBTQ+フレンドリーホテルとして大阪観光局からも認定を受けています。同性愛カップルの結婚式も積極的に受け入れるなど、より多くの人に選ばれるホテルを目指すとともに、レストランをナイトクラブのように演出するイベントなど独自性のある企画を多数開催し、新しい客層の開拓にも力を入れています。
ーー現在の課題は何ですか?
シェーン・レスリー・エドワーズ:
サービス面での差別化を図るうえで、最も重要なのは「人」だと考えています。その中で、課題になっているのが、接客を担うサービススタッフの採用です。採用時期が限定される日本特有の新卒一括採用の慣習により、必要な人材の確保が困難な状況です。たとえば、10月から2月ごろに離職者が出た場合、即戦力の採用が難しく、既存の従業員の負担が増えてしまいます。
さらに、多様な経験を求めて想定より早い段階で新たな道を模索する人も増えており、人材の定着率向上も大きな課題です。そのため、採用プロセスの見直しや従業員教育の強化を含む人材マネジメントの改善に注力し、より働きやすい環境を整えながら、従業員とともに成長できるホテルを目指していきます。
地域に愛される5つ星ホテルに
ーー人材採用と教育強化について、詳しく教えてください。
シェーン・レスリー・エドワーズ:
世界的に見ても、サービススタッフはオフィススタッフに比べてキャリアとして軽視される傾向があります。しかし、サービススタッフとして誠実に働くことで、将来どんな職場でも役立つ対応力が身につき、早期の昇進や昇給、さらにはより良いキャリアパスにつながる可能性があるのです。この魅力を、就職や転職を検討する方々に広く伝えていきたいと考えています。
また今後は、従業員の教育や待遇改善に取り組み、職場の魅力を一層高めていく考えです。そのためにも、技術を活用して従業員の負担を軽減しながら効率化を図り、浮いたリソースを人件費や教育に投資する仕組みを整備します。具体的には、お客様からのコメントがリアルタイムで従業員のスマートフォンに届く仕組みを導入することで、対応を迅速化し、デスク業務を減らすなど、効率的で満足度の高いサービスを提供できる体制を構築していく考えです。
ーー今後、どのようなホテルにしていきたいですか。
シェーン・レスリー・エドワーズ:
インバウンド需要が安定的に成長していく見通しの中、私たちは「ホテルは地域の一員である」という理念のもと、地元企業と連携した新たなサービス開発や地域活動を積極的に進める考えです。
コロナ禍の影響が薄れ、弊社は経営に対する自信を取り戻しつつあります。2025年の大阪万博を控え、日本特有の安全性・衛生面の高評価に加え、訪日旅行者にとって魅力的な外貨レートも追い風となっています。
一方で5つ星ホテルは格式高く、特別な日にしか行けない場所と捉えられがちです。しかし、その固定観念を打ち破るべく、カジュアルバーでの手頃な価格のドリンク提供や、地元イベントに対するホテルスペースの無償提供など、さまざまな取り組みを実施しています。さらに、「ホテル=宿泊や宴会」という既存のイメージを超え、テイクアウトやフィットネス施設など多彩な利用法を提案中です。経営への不安が薄れた今だからこそ、地域の一員としての役割に回帰し、ドレスコードを気にせず地域の皆さまが気軽に訪れられる場所となることを、積極的に進めたいと考えています。
編集後記
5つ星の外資系ホテルといえば、古き良き伝統と格式。そんなイメージを良い意味で覆してくれるインタビューだった。多国籍人材の活用や、LGBTQフレンドリーな施策、地域との連携など、SNK Hotels株式会社の新興企業さながらの取り組みは、着実に実を結んでいる。シェーン・レスリー・エドワーズ総支配人をはじめとする多様な人材に支えられ、スイスホテル南海大阪は今後も成長を続けるに違いない。5年後、10年後のスイスホテル南海大阪はどんな人々が集う場所となっているのか、今から楽しみだ。

シェーン・レスリー・エドワーズ/ニュージーランド出身。料飲部門にてホテルキャリアをスタート後、2007年にノボテル・メルボルン・セント・キルダ・ホテル支配人に就任。オーストラリア、ニュージーランドのさまざまなホテルで経験を積み、アジアではフィリピンやインドネシアにて総支配人を務める。2022年にSNK Hotelsが運営するスイスホテル南海大阪の総支配人に就任。