※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

今や日本のどこでも食べられるパスタやピザなどのイタリア料理。その存在を大きく日本に知らしめたのが、1980年代のバブル期にはじまった「イタ飯ブーム」だ。日欧商事株式会社は、まさにこのイタ飯ブーム期の1981年に創業した老舗のイタリア食材専門商社。同社を率いる代表取締役社長のティエリー・コーヘン氏に、事業経営で大切にしていること、今後の展望についてうかがった。

「食」が何よりも大切な暮らしの中心にあった幼少期

ーー経歴と来日のきっかけについて、お聞かせください。

ティエリー・コーヘン:
私はイタリアとフランスにルーツがあります。両親はお互いに自分の国の料理に誇りを持っていたこともあり、子どもの頃から「食」は非常に大切な存在でした。食は歴史や風土を反映した、まさに文化そのものです。

だからこそ「私もこの仕事をやりたい!」と思い立ち、1981年に弊社に入社しました。以来、イタリアの素晴らしい食材や文化を日本に伝える架け橋となるべく、奔走しています。

ーー経営者を目指したのはいつごろからですか?

ティエリー・コーヘン:
創業者である父の背中を見て育ったこともあり、私はビジネスが非常に好きで、小さい頃からいつかは経営をと考えていましたね。大学では経済学を勉強していたため、商売の面白さを感じています。

日本人は、家庭で和食だけでなく中華料理も食べれば、インドがルーツのカレーも食べていますよね。食において柔軟な価値観を持つ日本に、イタリアの食文化やライフスタイルを伝えるチャンスは大いにあるので、面白い仕事だと思います。

ーー経営者として感じる仕事の醍醐味は何ですか?

ティエリー・コーヘン:
イタリアの良いモノや面白いモノを、日本のマーケットに紹介することです。これは非常にやりがいがある仕事であり、醍醐味を感じています。

また、日本とイタリアには、「シンプルさや素材本来の良さを活かす」という料理の考え方において共通点があります。さらに、日本の方は食文化だけでなくファッションにおいても非常にアンテナが高いですよね。この優れた感性には大きなポテンシャルがあり、それを活かして新しい展開を生み出せると期待しています。

日本でイタリア食材の魅力を伝え続けるために良好なパートナーシップを築く

ーー貴社の魅力や強みについてお聞かせください。

ティエリー・コーヘン:
高級品からお手頃な価格帯まで幅広い商品をそろえ、多様なニーズに応えられるのが大きな強みです。幅広いマーケットに対応できる事業環境が整っているのは、弊社だからこそできることでしょう。長年のビジネスで培った信頼や実績を持って、今ではイタリアのチーズ会社が日本向け専用の工場をつくってくれる、そんなパートナーシップが日欧商事の魅力です。

ーー人材戦略や経営をする上で大切にしてきたことは何ですか?

ティエリー・コーヘン:
日欧商事の仕事の本質は、貿易の仕事ではなく「イタリアの食文化を日本に伝える」ことです。

「イタリアの食文化を日本に広げるためには何ができるか?」と考えたときにたどり着いたのが、JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)でした。イタリアワインを通じて、イタリア文化の魅力やその世界を紹介するだけでなく、イタリアワインを日々扱ってくださっているソムリエの方々を称える機会を設けています。

もっと柔軟に、もっと多彩にイタリアの食文化を日本に!

ーー今後の展望についてお聞かせください。

ティエリー・コーヘン:
創業時から比べて、日本にイタリアの食文化がかなり浸透しているという手応えがあります。40年前には想像もできなかったほど、ワインやパスタの種類や産地に関する情報が、多くの日本の方にとって当たり前のものとなっています。

しかし、イタリアの食文化がより身近になったとはいえ、ご紹介できていないものや、定着していないものは、まだたくさんあります。このような馴染みの薄い商品や食材を日本に伝えていきたいです。

ーーそのために描いている戦略はありますか?

ティエリー・コーヘン:
人材採用という視点においては、AIの積極的な活用を視野に入れています。AIを使いこなすことで、仕事をさらに効率よく進めることができ、生産性の向上につながります。さらに社員が仕事を楽しんでやることができるようになると考えています。

AIを導入すれば、今の従業員数で売り上げを50%アップさせることもできるかもしれないのです。

ーー物価高と円安に対しての戦略はどうですか?

ティエリー・コーヘン:
確かに日本は物価が上昇しマーケットの様相も変わってきました。今後35年で、日本は完全に変わっていくでしょう。インターナショナルなラグジュアリーホテルは立て続けに日本に参入しています。こうした中で、今まで「高すぎる」という理由から売れなかった高級商品のマーケットは拡大すると考えています。そのため、ハイエンドな消費者層に求められる商品を今後増やしていくつもりです。

また、レストランが持つ課題を解決する商品にも注目しています。たとえば、シェフが少ないレストランのキッチンでも、料理を滞りなく提供できる食材や商品はニーズがあると思います。単に取扱商品の数を増やすのではなく、どのような手段でマーケットに提案していくかを考えながら、専門商社にしかできない一歩踏み込んだ提案をしていきたいですね。

編集後記

イタリアの食文化を日本に伝えることに情熱を強く注ぐティエリー・コーヘン氏。インタビュー中も、創業から培われた信頼を基盤に、新たな価値を提供し続ける姿勢が印象的だった。イタリアの多様な文化を橋渡しする取り組みには、単なる商社を超えた意義があり、これからの成長がますます楽しみである。柔軟な発想と挑戦を続ける同社の今後の活躍に注目したい。

ティエリー・コーヘン/1963年スイス・ジュネーブ生まれ。1967年から父の赴任に伴い来日。1990年に日欧商事株式会社へ入社。1995年にエチェレンツァ・イタリア社を設立、同社の社長に就任。2008年より日欧商事株式会社の代表取締役社長に就任。イタリアワインと食材の市場をリードし開発する日欧商事を率いている。