※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

株式会社キャリア・マムは、まだ女性のフルタイム勤務が浸透していない1990年後半から、一貫して母親の社会進出をサポートしてきた企業だ。家事や育児に多忙な女性が自分らしく輝く1つの方法として、同社ではアウトソーシングをはじめとした多種多様な働き方を提案している。今回は、代表取締役の堤香苗氏に、同社の設立の経緯や事業内容、今後の展望を聞いた。

母親が自分らしく生きるには?自身の悩みから生まれた事業

ーー堤社長の経歴を教えてください。

堤香苗:
もともとはフリーアナウンサーとして活動しており、1人目の子どもを産み、ペースダウンしながらも仕事は続けながら、初めての育児に追われる日々を送っていました。

当時私は、「良いお母さん」と呼ばれることに違和感を感じており、子どものために24時間を捧げるのが良い母親という風潮の中で、自分の価値は良いお母さんかどうかでしか測れないのか?と、悶々としていたのです。

子どもはもちろん大切ですが、同じくらい自分を大切にして、母親が自分らしく生きられるネットワークをつくりたいとの思いから、1995年に育児サークル「PAO」を設立。その後1997年に、弊社の前身である有限会社アクセルエンターテイメンツを立ち上げました。

ーー事業のアイディアはどこから得たのでしょうか?

堤香苗:
ちょうど渡米する機会があり、空港や飛行機内でノートパソコンを使って仕事をする人々の姿に衝撃を受けたのがきっかけです。

当時の日本はまだクラウドが浸透しておらず、基本的には家のパソコン以外では自分宛のメールを見ることができませんでした。しかし米国では、クラウドメールがスタートしており、パソコンさえあれば、いつでもどこでも仕事をすることが可能でした。

その光景を見て、日本も今後、自分のパソコンがあれば時間や場所を選ばず仕事ができる時代が来ると直感し、「ならば、それを核に事業をスタートしよう」と考えたのです。

当時弊社には、育児サークル時代から培ってきた約1,000人のママたちのネットワークがあり、それをマーケティングに生かす形を思いつきました。生活のプロである主婦が何を求めているのか作り手である企業に伝えていくことは、立派なビジネスになります。弊社の拠点であった多摩エリアにはパソコン関連企業の研究所や工場が複数あり、職場結婚後会社を辞めざるを得なかった女性たちが、dosコマンドを打ち込んで自宅のパソコンで仕事をできるのでは、という大きなアドバンテージがありました。パソコンがある家庭は当時の登録会員の約2割。そのため、子育てしながらでも、自宅で仕事をすることが叶う環境だったことも、マーケティング事業を始める一因となったのです。

母親が「自分」を主人公にできる事業を展開

ーー貴社の事業内容を教えてください。

堤香苗:
弊社の事業は、アウトソーシング事業、LLM(大規模言語モデル)等AI開発事業、販売支援マーケティング事業、キャリア形成支援、コミュニティ支援の大きく分けて5つです。中でも注力しているのが、アウトソーシング事業とマーケティング事業、そしてキャリア支援事業です。

1つ目のアウトソーシング事業は、キャリア・マムに登録している全国約11万人の会員の力を活用し、企業の困りごとを解決していくものです。アウトソーシングの内容はデータ入力といった簡単な事務作業からコンテンツ作成などのクリエイティブ業務まで、非常に幅広いです。

弊社のアウトソーシング事業の特徴は、派遣業務のように1人が1つの仕事にフルコミットするのではなく、1つの仕事に対して数名の会員がチームとなって対応する点にあります。育児などでフルタイムの外勤が難しい方でも、在宅で自分の得意なことを自分ができる分量でコミットしていく形ですね。パッチワークをイメージするとわかりやすいかもしれません。

2つ目のマーケティング事業は、キャリア・マム会員がそれぞれ生活者としての意見を発信し、企業の商品やサービス開発をサポートするもので、弊社の黎明期からある事業です。各自の専門性なども活用することが可能です。

3つ目のキャリア支援事業では、セミナーやコンサルティングなどで女性が在宅でできるデジタルな働き方を推進しています。ここ10年以上は国や地方自治体とも組んで、年間3,000人以上の「デジタルな自分らしい働き方」の支援をしています。

いずれの事業にも共通しているのは、さまざまな事情で外勤が難しい方々の「働く」を創るという点です。100人の会員がいれば100通りの働き方があり、それを実現するのが弊社のミッションだと考えています。

育児に追われていると、つい母親という役割に終始して、いろいろな可能性を諦めてしまいがちです。母親であることも大切ですが、「自分」を主語にして働くことで、自分らしさや自分の価値というものを改めて実感できると思います。本当につらい時はうずくまったり立ち止まっても良いのです。それでも自分の明日を諦めず、試行錯誤しながら働いて前進する親の姿を、子ども達に見せることにも意味があると思います。

ーー採用や人材育成にも力を入れているそうですね。

堤香苗:
弊社の事業には、会員と企業という2種類のお客様がいます。その2つをつないで多種多様な働き方をコーディネートするのが私たちの仕事です。会員が自分らしさや強みを発揮できるフィールドを広げる必要がありますし、その考えに賛同していただける企業の開拓も欠かせません。そのため、働く側と働かせる側の2つの視点を持ち合わせた社員を採用したいと考えています。

いろいろな方の知恵や力をお借りしたり、自分にないパワーを社内に入れたりして、会社をバリエーション豊かにすることが理想ですね。キャリア・マムの事業の一部分で独立したい、将来の起業家候補も大歓迎です。

また、現在10名弱の管理職をはじめ、社員の教育にも注力しています。弊社はプライバシーマークを取得しているので、個人情報保護など基礎的な安全規則の研修から、新規企業の開拓、キャリア・マム会員の自分らしい働き方のコーディネート方法まで、社員が学ぶ範囲は多岐にわたります。言われたことをただやっていくのと、未来のものを創っていくのとでは、取り組み方がまったく異なりますよね。後者ができる人材を育てるため、今後も教育には力を入れていきたいです。

100人100通りの働き方を創出するには、常に新しいことへのチャレンジが必要です。失敗もしますが、失敗したときになぜ駄目だったのか分析するところに、ビジネスの極意が隠れています。指示通りにただ動くのではなく、事業の未来像を自分の頭で考えながら働ける社員を増やしていきたいです。

家族もキャリアも大切にする人を支える存在に

ーー今後の展望を教えてください。

堤香苗:
家庭の中で家族の介護を行っている方に向けた、介護と育児、仕事の両立を支援するコンテンツを3月にスタートしました。介護予備軍も含めて、高齢の親の介護問題に解決策がない方は非常に多いです。介護者が自分の人生を諦めないようにするには、働き方や働く場所の多様化が欠かせません。働きながら介護をする方が情報を交換できるプラットフォームの実現が、その一助となるのではと考えています。

また、サブスクリプション型のeラーニングプログラムも始めたいですね。今までは会員の「働く」という行為に注力していたので、その前段階の、スキルを学び身につけるフェーズのお手伝いもできたらと思います。

小さな会社ですが、一人ひとりがちゃんと活かされる働き方の実現に本気で挑戦しています。興味のある方は、ぜひ弊社にお越しください。

編集後記

自分よりも社員の方が仕事ができると笑う堤社長の、わからないことは積極的に教えを乞う謙虚な姿勢が印象的だった。ただ諦めが悪いだけと謙遜するが、1人の母親として女性として、悩みながらも進み続けた経験が、多くの母親の「自分らしい働き方」を創出している。日本では、家庭における女性の負担がまだ大きいが、同社はそんな社会を変える希望となると確信した。

堤香苗/1964年兵庫県生まれ。神戸女学院高等学部、早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。1995年に育児サークル「PAO」立ち上げ後、1997年に有限会社アクセルエンターテイメンツを設立。2000年に株式会社キャリア・マムを設立、代表取締役に就任。