
リーマン・ショック後の赤字経営から短期間での黒字化を達成し、現在も成長を続けるソフトブレーン株式会社。その立て直しの中心となったのが、2010年に同社の社長に就任した豊田浩文氏だ。同社で提供する、営業活動を中心とした顧客接点業務のDXを支援するクラウドアプリケーションの需要は年々高まっている。豊田氏が歩んできたキャリア、経営再建の舞台裏、そしてこれからの成長戦略について詳しくうかがった。
インターネット時代を予見し、IT業界へ飛び込む
ーー社長のご経歴を教えてください。
豊田浩文:
ちょうどバブル期が終わる前に就職活動を行い、数ある選択肢の中からたまたま銀行にご縁があり入行しました。ただ、働くうちに「果たして自分に向いているのか」と疑問を感じるようになり、将来を見据えて法曹資格の取得を目指すために退職。その後、法律事務所で働くことにしたのです。
その頃、Windows95の登場を皮切りに、IT企業が次々と立ち上がるインターネット黎明期を迎えていました。技術革新のスピードに衝撃を受け、「次にビジネスをやるなら、ITの世界に身を置きたい」と強く思うようになったのです。
そんな中でソフトウェアを開発して提供するソフトブレーンからご縁をいただいて入社することになりました。上場準備やコーポレート体制の整備などに携わり、2010年に社長に就任しました。
危機的状況から、営業を支援する事業への回帰でV字回復へ
ーー社長に就任される前、会社はどのような経営状況だったのでしょうか?
豊田浩文:
2008年のリーマン・ショックを受けて、弊社も営業利益の赤字転落、株価の急落など、倒産寸前の厳しい状況に直面していました。当時は急成長企業だともてはやされ、本業である営業支援事業以外にも、さまざまな子会社に投資して事業を多角化させていたのです。その結果、経営資源が分散し、収益性も失われている状態でした。
ーーそのような状況の中で、なぜ社長就任を決断されたのでしょうか?
豊田浩文:
前任の社長が体調を崩してしまい、後任がなかなか決まらない中、最終的に「自分がやるしかない」と腹を括ったからです。また、そのような状況でも、会社に残り続けてくれた社員たちの姿に希望を感じたことも理由のひとつです。「この人たちがいる限り、必ず立て直せる」と確信しました。
そこでまず取り組んだのが、「選択と集中」です。本業である営業支援事業に経営資源を集中させ、不採算の子会社や事業はすべて整理。コストがかかっていた本社を移転するなど、固定費を削減しました。そうした取り組みの結果、翌年には3億円規模の黒字化を実現できました。
完璧な計画があったわけではありませんが、「まず動く」「やりながら修正する」ことを大事にしながら進めたことが、再生の大きな原動力になったと感じています。
顧客接点業務の効率化と、一貫したサポート体制を強みに

ーー貴社の事業内容について教えてください。
豊田浩文:
弊社は、営業を中心とした顧客接点業務の効率化を支援するクラウドアプリケーションを提供しています。顧客接点業務には、営業だけでなく、カスタマーサポートやマーケティング、人事など、顧客と接するあらゆる業務が含まれます。
主力製品である「eセールスマネージャー」は、顧客情報の一元管理や商談進捗の可視化、レポート作成といった機能を備えており、営業活動の質や効率を高める支援を行うものです。最近では、ノーコードで業務アプリを作れる「esm appli」など、業務管理に役立つ新機能も展開しています。
これまで累計5,500社以上に導入いただき、継続率は約95%、顧客満足度も約94%と高い評価をいただきました。
この高い評価の理由は、一貫したサポート体制にあると考えています。営業、導入コンサル、運用支援まで全て自社の専門チームが担当し、外部委託には頼りません。だからこそ、お客様のニーズを正確に把握し、長期的な関係を築けるのです。
海外展開と組織拡大でさらなる成長を図りたい
ーー今後の展望についてお聞かせください。
豊田浩文:
まずは海外展開を進めていきたいですね。特に、地理的にも近くて、成長速度が速く、市場規模も日本の約4倍あるアジアパシフィック(※)市場をターゲットとして考えています。まずは、海外対応機能を開発し、マーケティング・営業戦略を立てつつ、最適な進出方法を模索するつもりです。
また、国内市場でも新規取引先開拓を進めるために、製品の認知向上や営業体制の強化を行っていきます。組織が大きくなるとリーダーの数も必要であるため、経営幹部の育成にも力を入れたいと考えています。
(※)アジアパシフィック:東アジア、南アジア、東南アジア、オセアニアなど、アジアから太平洋にかけての地域
ーー最後に、貴社が求める人物像を教えてください。
豊田浩文:
中途社員には「アンラーニング(unlearning)」、つまり前職のやり方や成功体験を一度手放し、新しい環境に適応できる柔軟性が求められます。新卒社員には「コーチャブル(coachable)」、他者からのフィードバックを素直に受け入れ、吸収できる姿勢があるかを重視しています。どちらにも共通するのは、変化を恐れず自ら成長しようとする意欲です。
弊社では、社員の挑戦や失敗を肯定し、行動の指針としてミッション「顧客の生産性の最大化」、ビジョン「日本の働き方を革新するリーディングカンパニーへ」、バリュー「仕組みづくり×型づくり で顧客の売上向上」を全社で共有しています。この価値観に共感し、自ら考えて行動できる方と一緒に働きたいですね。
編集後記
豊田氏へのインタビューを通じて、逆境の中でも冷静に本質を見極め、的確な意思決定を行うリーダーの姿勢を感じた。今後は海外展開や新規顧客の開拓、優秀な幹部の育成に力を入れたいと豊田氏は語る。変化を受け入れ成長できる人材とともに挑戦を続けていく、豊田氏が牽引するソフトブレーンの今後に期待したい。

豊田浩文/1967年東京都出身、早稲田大学卒業。三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行後、法律事務所勤務などを経て、1999年にソフトブレーン株式会社へ入社。2010年に同社代表取締役社長に就任。