
株式会社カーディナルは、日本に外食文化がまだ浸透していなかった1960年代から、ヨーロッパの名店を東京に展開してきた外食産業のパイオニアだ。株式会社カーディナル代表取締役社長の三好康弘氏は、自身もウェイターとして国内外で修行を積んだという。真のホスピタリティを体現する同社の事業内容や強み、今後の展望を聞いた。
日本とイタリアの現場で経験を積み、会社の代表へ
ーー社長に就任するまでの経歴をお聞かせください。
三好康弘:
弊社は父が立ち上げた会社で、私は2代目です。幼い頃から人を喜ばせたり、盛り上げたりするのが好きで、今思えば当時からホスピタリティというものに興味があったのかもしれません。
1986年に、弊社の「サバティーニ・ディ・フィレンツェ」というイタリアンレストランでウェイターとして働き始めたのを皮切りに、当時30店舗あった弊社のお店をほぼすべて回り、下積み時代を送りました。皿洗いから接客まで、一通りすべて経験しましたね。
そんな折、弊社が行っている海外研修でイタリアに6ヶ月間行くことになったのです。弊社が提携している本場の「サバティーニ・ディ・フィレンツェ」で始まった研修生活は、苦労の連続でした。
文化も言語も異なるお客さまを相手に、始めは非常に戸惑いました。厳しい指導も多かったのですが、ヨーロッパの方々はオンオフがはっきりしているので、仕事終わりはよく飲みに行きましたね。彼らからは仕事の極意だけでなく、イエス・ノーで気持ちを明確に表すコミュニケーションの大切さと決断の早さも学んだように思います。
最終的には、イタリアの老舗バール「ハリーズ・バー」で、日本人初のウェイターとして働けるまでに成長させてもらいました。
そしてイタリアから帰国後、日本で数店舗の店長を経験し、いくつかの役職を経て代表取締役社長に就任しました。
クオリティの高さを武器に幅広いジャンルの店舗を展開

ーー貴社の事業内容を教えてください。
三好康弘:
弊社は飲食業界で、直営店舗の運営と業務受託によるレストランのプロデュースの2つを軸に事業を展開しています。
直営店舗の運営は弊社の核となるもので、まだ外食文化が乏しかった1960年代からドイツビアレストランの「ローゼンケラー」やフレンチレストランの「マキシム・ド・パリ イン・トウキョウ」を日本に展開しました。特に「マキシマム・ド・パリ」はフランスでトップのフレンチレストランだということもあり、当時は非常に話題になりましたね。現在はイタリアンレストランやバー、カフェなど、さまざまなジャンルの店舗を運営しています。
弊社の直営事業は多店舗展開ではなく、お店ごとにプラットフォームをゼロからつくり名店のブランドを誘致する方法と、新規でオリジナルブランドをつくる2種類の方法で展開しています。一つひとつをオーダーメイドでブランディング化しているので、何十年経っても色褪せない独自性と、丁寧につくりこまれた商品や店舗、ホスピタリティといった品質の高さが強みです。
業務受託は、クライアントの求めるコンセプトに合わせて、弊社がレストランのコンセプトワークからメニュー開発、店舗デザインや運営までをトータルでプロデュースするものです。創業から70年以上にわたる歴史で培った飲食事業のノウハウとホスピタリティを生かし、ホテルのバー・ラウンジや都市型複合施設内のカフェなど、多種多様な業態を手がけています。
また、先代はとにかく味を追求する人で、その精神は現在も受け継がれています。今の時代は味だけではなく、ホスピタリティや価格、お店の雰囲気など、あらゆる要素がすべて上質でないと、お客様は認めてくれません。ですから、先代が築いた味の精神をベースに、時代と共にクオリティをブラッシュアップしていくことが大切だと考えています。
ーー貴社の経営理念と理念に対する思いをお聞かせください。
三好康弘:
弊社は「一期一笑(イチゴイチエ)」という経営理念を掲げています。先代の時代には、経営理念がなかったのですが、企業規模が拡大する中で、スタッフが一丸となれる目標設定の必要性を感じ、2023年に定めました。出会いを大切にし、食の感動体験を創造することで、お客様とスタッフの喜びに貢献したいという思いが込められています。
こうした理念のもと、スタッフが安心して働けるよう、コンプライアンス体制を整備しています。
社内の情報の共有という点では、ビジネスチャットツールを活用した報連相の徹底も挙げられます。現場のどんな些細なことも必ず報告し、すべての情報を全員が共有しています。ミスやトラブルを現場だけに留めていると、やがて大きな傷に広がるかもしれません。トップにすぐ報告が行き、迅速な対応が取れるという体制を築いています。
そのうえで、報告の際には、自分なりに考えた解決策を一緒に話すようスタッフには伝えています。主体性を持って対処する習慣をつけることが、自立した人間の育成につながると思っています。
ブランドのフランチャイズ化を通して、一期一笑を拡大する
ーー今後の展望について、どのような考えをお持ちでしょうか。
三好康弘:
今後考えているのは、弊社ブランドのフランチャイズ化です。飲食業界は一般的に参入障壁が低い業種とされており、開業は比較的容易ですが、開業後10年以内に生き残る店舗はわずか10%以下とも言われています。さらに近年では、日本国内では少子高齢化による深刻な人手不足が進行し、国際情勢の変化など、激変する経済環境も影響を与えています。こうした複合的な要因により、飲食店の経営はますます厳しさを増しています。
だからこそ、飲食店を出す時に、弊社の質の高いホスピタリティや経営ノウハウを活用すれば、低投資で経営の成功率を上げることができるのではと考えています。
また、それとは別に、暖簾分けによるスタッフの独立も支援したいですね。いつか自分の店を出したいと考えているスタッフが多いので、その夢の実現を後押しできれば嬉しいです。
弊社もコロナ禍はだいぶ苦しみましたが、そのトンネルからやっと出かかっています。今年、来年は攻勢の時期ということで、しっかりと準備してカーディナルのブランドを広げていきたいです。
編集後記
三好社長がウェイターを務めた「ハリーズ・バー」は、かの文豪であるヘミングウェイが足しげく通ったという名店中の名店だ。伝統的な環境で修行を積んだ社長だが、定期的にDJイベントを開催するなど、流行の先端にも精通している。古き良き文化と最新のトレンドは一見相反しているようだが、他者に感動を与えるホスピタリティという共通点がある。ホスピタリティの本質を知る社長が率いるからこそ、同社のブランドが多くの人に愛されるのだと確信した。

三好康弘/1961年大阪生まれ。1986年に株式会社カーディナルへ入社し、「サバティーニ・ディ・フィレンツェ」等、東京・関西の店舗で経験を積む。イタリアでの研修を通じて本場の食文化を体得し、それを基盤として、ミヨシコーポレーショングループのホスピタリティクオリティと経営理念の礎を築いた。