
都市環境サービス株式会社は、プラスチックのリサイクル事業×障がい者雇用に特化した企業だ。同社は社員の約5割が障がい者で、雇用を通じた障がい者支援に注力している。創業者である父親の後を継いで代表取締役となった前田隆之氏は、障がい者や高齢者の居場所をつくりたいと話す。社長就任までの経緯や同社の強み、今後の展望をうかがった。
借金地獄の中で気づいた、人の優しさ
ーー社長の経歴を教えてください。
前田隆之:
新卒でトヨタ自動車株式会社に入社し、営業として働いていました。2年ほど経った頃、社員が仕事をボイコットすることがあり、母と2人で工場を手伝うことになったのです。
社員のボイコットは、給与の未払いが原因でした。父はビジネスを考案する力はあったものの、お金には無頓着な人で、気づいた頃には借金が膨れ上がっていました。父と一緒に借金を返済するため、トヨタを辞め、1998年に弊社に入社。そこからは、ひたすら借金の返済に奔走する日々です。これまでに経験したことのない出来事の連続で、「これでいいのか?」「自分は間違った方法をとっているのではないか?」と自問自答する日々でした。
借金により周囲から人が去っていく中でも、手を差し伸べてくれる人が何人もいました。弊社の工場長達が、悩みながら奔走する私を見て「やっていることは間違っていないと思うよ」と言い、3万円を貸そうとしてくれたことが今でも忘れられません。この大変な時期にずっとそばにいて励まし、私を支えてくれたのは、高齢者や障がい者の人々でした。その時、彼らが安心して一生働ける環境を構築したいと思い、翌日から本格的な社内改革を始めました。
ーーどのような改革をされたのですか。
前田隆之:
まず、鍋蓋型の経営に舵を切り、すべての稟議を私に集中させて無駄な出費を減らしました。また、バックオフィスを担当できる人間がいなかったため、欠けた部分を補えるよう、私が営業、経理、総務、人事をすべて担当しました。
そして、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」の徹底です。この業界で1番評価が上がるのが挨拶と清潔さなので、特にその部分は力を入れましたね。綺麗さや挨拶の徹底に注力することで、周囲のライバルに少しだけ差をつけるよう心がけました。
リサイクル×障がい者雇用の独自のビジネスモデルを展開

ーー貴社の事業内容と特徴を教えてください。
前田隆之:
弊社は、「環境と福祉の融合で日本を変える」という経営理念のもと、プラスチックのリサイクル事業を行っています。ペットボトルをはじめ、発泡スチロールやPP・PEなど、さまざまなプラスチックをリサイクルし、自社開拓した販路で販売しています。特にCDやCDケースのリサイクル数はシェア国内一位です。
弊社の特徴は、プラスチックに特化していること、そして、障がい者雇用や就労継続支援A型事業所との連携、高齢者の雇用を通して福祉面にもアプローチしている点です。
プラスチックリサイクルは、父親が考案した事業です。当時はまだ一般的な考えではなく、軌道に乗るまでに時間がかかりました。しかし最近では、プラスチックをリサイクルするという意識は、浸透してきていますし、父の代から続けてきた分蓄積されたノウハウがあります。また、非鉄金属等、他素材に手を出さずプラスチック一本でやっているので、同じビジネスモデルのライバルが少ない点も強みですね。
弊社の社員の内訳は障がい者が50%、高齢者が30%、その他が20%で、障がい者や高齢者に支えられている会社です。
障がいの内容や程度、できることが一人ひとり異なるため、弊社では仕事を細分化し、適材適所で働いてもらっています。
リサイクルをはじめとした環境問題の解決を目指す事業は、技術だけではなく、人の力も必要です。そして福祉の現場では、障がいがある方々が活躍できる場所を求めています。私たちは、環境問題と福祉、それぞれのニーズを掛け合わせることで、社会に新しい価値を提供できると考えています。
弊社での仕事を通して技術を習得し、一般就労へステップアップする社員もいるんですよ。
ーー社長が特に注力していることは何でしょうか。
前田隆之:
障がい者の生きる道を導いて居場所をつくり、一生を通してサポートすることです。
障がいのある方々は、その特性ゆえに社会で孤立してしまう傾向にあります。また、家にこもりがちになって、孤独を感じている高齢者の方々もいるでしょう。これまでさまざまな障がい者や高齢者と話し、関わっていく中で気づいたことは、多くの方が居場所や人とつながれる場所を求めているということです。
職場をただの雇用の場ではなく、孤立しがちな人たちが夢を持てるような、そして障がい者と高齢者にとってあたたかな居場所となれるよう、今後もさまざまな取り組みを行っていきます。
弊社は、障がい者がこれまで社内で成し遂げてきた仕事を、彼らの親御さんたちにも伝えています。たとえばCDの粉砕やリサイクルは現在すべて障がい者が担当しているのですが、そこでできたボールペンやカレンダーを実際に親御さんに見せています。彼らは十分にやれるし、会社に貢献していると知っていただきたいですね。
後進の育成と共に全国区を目指す
ーー今後の展望についてお聞かせください。
前田隆之:
プラスチックのリサイクル事業と障がい者雇用の掛け合わせが弊社の強みで、これは今後も追いつかれることはないでしょう。しかしやっていることが特殊な分、後継者育成が難しいという課題があります。
ですから今後は後継者をはじめ、広報や人事労務など、弊社の思いを継ぎ、より加速させてくれる人材の育成に注力したいです。そして、将来的にはフランチャイズ化をして全国展開ができたらと考えています。
人には役割があり、得意なことや苦手なこともあります。それを受け入れないと会社は大きくなりませんし、皆が幸せにならないと思います。「世の中の役に立ちたい」と考えている若い方の思いに応えられるのが、就労継続支援や障碍者施設です。やりがいのある仕事だと思いますので、興味をお持ちの方は、ぜひ弊社にいらしてください。
編集後記
インタビューの際、ヘルメットを外して元気に挨拶をしてくれる社員の方々の姿が印象的だった。自身も修羅場を経験し人の真心に救われたからだろう。前田社長が社員を見る目はあたたかく、優しい。差別や無理解といった厳しい環境に置かれることのある障がい者にとって、一生を通してつながり続けられる場所は非常に大切だ。多くの人間の居場所をつくり、優しさをもって人生にストーリーを与える同社のさらなる繁栄を願ってやまない。

前田隆之/1973年生まれ。専修大学法学部を卒業後、トヨタ自動車株式会社に入社。1998年に都市環境サービス株式会社に入社。2006年有限会社としかん設立、2014年NPO法人ここのわ設立。2022年にホールディングス化し、プラスチックリサイクルと障がい者雇用を掛け合わせることに特化した6社の代表を務めている。